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『セシルの女王』女王エリザベス1世の重臣ウィリアム・セシルの半生

ビッグコミックオリジナルで連載中の『セシルの女王』は、薙刀に青春をかけた物語『あさひなぐ』を描いたこざき亜衣先生による歴史漫画です。

本作では、実在した歴史上の人物である女王エリザベス1世の補佐を務めてきた重臣ウィリアム・セシルを主人公とした物語が繰り広げられています。

セシルの女王 著者:こざき亜衣

『セシルの女王』あらすじ

舞台はかの有名なシェイクスピアの戯曲に登場するヘンリー8世が君臨していた1533年のイングランド。(日本の安土桃山時代にあたります)

当時のイングランドはフランスによる百年戦争の終結後、更にばら戦争と呼ばれる王位争いによってその傷跡が30年続き、多くの貴族が断絶や没落していました。

それによって王様により地方統治を「ジェントリ」と呼ばれる各地方の地主たちに委ねるようになった時代であり、ジェントリの台頭によって政治が貴族のものだけではなくなっていった時代でもあります。

主人公の青年・ウィリアム・セシルの家系も農民から成りあがった地方ジェントリです。

ウィリアムは父のリチャード・セシルが衣装担当宮内官として王宮で働いていることから、能力さえあれば貴族同等、それ以上の暮らしも夢ではない時代であると実感し、何の疑いも持つことなく出世への野望と期待に胸を膨らませていました。

そんなウィリアムが、父と二人でヘンリー8世の二人目の妻であるアン・ブーリンが懐妊し、出産を祝う催しの準備に赴いたことから物語が始まります。

明るい期待を抱くウィリアムが目にしたのはヘンリー8世の傍若無人な姿と、そのヘンリー8世に殴られても耐える父の姿。

憧れた場所の現実にショックを受けてしまった彼を慰めてくれたのはアン・ブーリンでした。

アンの優しさに触れ、これから生まれる彼女の王子に仕える決心をしたのですが、生まれたのは男子ではなく女子。

そのことが王室、そしてイングランドの歴史を揺るがすことになるのです。

イングランドの歴史を描く

本作は城内でのやり取りだけで物語が完結するのではなく、父の進言により登城期間を終えてケンブリッジ大学に進学したウィリアムの学生時代へと続いて行きます。

そこで待ち受けていたのは当時の宗教改革で生まれたキリスト教の新派「プロテスタント」との出会いでした。

既に妻のいるヘンリー8世が新たにアンと結婚するのを認めないローマカトリック教会と対立する勢力で、当時のイングランドに影響を及ぼしていくのですが、この出会いがウィリアム自身にどう影響していくか気になる所です。

王位継承問題や宗教改革をはじめ、今後もイングランドの歴史的背景が描かれていきますが、細かくて分かり易い説明シーンが織り交ぜられているので、西洋史があまり得意じゃない方も楽しめる構成になっているのもオススメしたいポイントです。

傷つく経験を重ねていくウィリアム

『セシルの女王』は権力や暴力、人の死といった題材を描き、影を纏う一筋縄ではいかない物語です。

第1話で登城したウィリアムがショックを受けている時、周囲の大人たちが彼を嘲笑う場面があります。

そんな目に遭ったウィリアムに対しアンは「みんな羨ましいのよ。あなたがちゃんと傷ついているから。」と言って慰めますが、それは王の機嫌で城内での善悪が変わってしまうのでそれに順応出来る様にする為に心を持たずにヘラヘラしている大人達を見続け、そんな人達に囲まれて暮らしている彼女だからこそ言えるのでしょう。

前作『あさひなぐ』でも「傷つく経験が出来るのは若い内だけ」と主人公達の顧問を務める大人達が話すエピソードがあり、本作ではその「若い内にどれだけちゃんと傷つく経験が出来るか」ウィリアムを通じてより明確に表現し、成長する姿を描いていくのではないかと推測しています。

歴史的な人物であるウィリアム・セシルが主人公である以上、「傷つくこと」は避けて通れない筈ですから。

イングランドの変遷と共に、少年から大人へと登り詰めていく彼の成長に今後も目が離せません。

執筆: ネゴト /

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