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新しさと懐かしさが同居する「台湾マンガ」が日本で大流行の兆し! 続々と刊行されてゆく作品から4つをご紹介!

実は2022年、「台湾マンガ」が大流行の兆しを見せています!

台湾ではここ10年ほどの間、政府が主導し、文化クリエイティブ産業を強く後押ししてきました。国内のマンガに関する賞の創設や、国際イベントへの参加促進など精力的な活動を見て取ることができます。

その後押しが実をむすんでおり、京都市が主催している国際的なクリエイターの発掘・育成を目指すコンテストである「京都国際マンガ・アニメ大賞」の近年の受賞作は、台湾の漫画家がほぼ独占している状態なのです。

そんな台湾漫画家によるマンガが、2022年に入ってから日本で続々と出版されています。どの作品も力強い後押しに支えられた実力派ばかり。これから大ブレイクする可能性も十分あるでしょう!

この記事ではそんな4本の台湾マンガをご紹介します!

用九商店

用九商店 著者:ルアン・グアンミン/訳:沢井メグ

『用九商店』は、台湾で最も権威ある漫画賞「金漫獎(きんまんしょう)」における「年間漫画賞」「青年漫画賞」のダブル受賞作です。『いつでも君を待っている』というタイトルですでに実写ドラマ化もされています。

台湾の片田舎にあるよろず屋「用九商店」の店主が主人公。かつては地元の人たちが集い、みんなの心の拠りどころだった店ですが、都市化の流れに否応なしに巻きこまれてゆきます。そんな状況に奮闘する主人公の姿と、周囲の人々との心温まるやりとりを描いた作品です。

「用九商店」はコンビニのようにシステム化された近代的な店ではありません。仕入れするために問屋だけでなく職人のもとに自ら足を運んだり、雨やどりのついでに店に残ったお客さんと夕食をともにすることがあったり。

効率を追求した現代的な生き方とは真逆ながらも、温かく、どっしりと構え、どんなときも人々を分けへだてなく受け入れる。そんな懐の広いお店です。

しかし地区全体の再開発計画が持ちあがり、都市化の流れにあらがうために店の形態もずっと同じではいられません。お客さんとの関係も変わります。常連客が亡くなってしまうこともあります。

店とその周囲の人々との積み重ねてきた関係性を守りたいと願っていながらも、変わりゆくものや変わらざる得ないものがそこには存在するのです。

『用九商店』では、単に店とお客さんとの関係を描くだけにとどまらず、そんな避けられない変化を丁寧に描き出していきます。

舞台は台湾という異国の地ですが、人々が笑い、涙するその根底にある感情の動きは世界共通です。人情味あふれる情景とその変化していく様子に、なつかしさを覚え、ときには哀愁も感じることができるハートフルな作品なのです。

T子の一発旅行

T子の一発旅行 著者:穀子

『用九商店』とはうってかわって、コミカルでエッセイ風なタッチでワンナイトセックス旅行を描いているのは『T子の一発旅行』です。

主人公T子は台湾の女子学生。夏休みを使ってはるばる日本までやってきます。その理由はなんと日本人とセックスをするため。

日本についたその日から出会い系アプリを使って高学歴のイケメンを物色。無事にマッチングして揚々とセックスをしに出向くのでした。

滞在期間は2週間。その間に日替わりでイケメンをとっかえひっかえします。心は満足したけれど体は満足しなかったり、もしくはその逆の状態におちいったり、結局、目的(セックス)は果たせなかったり。フィクションは含まれているにしても、あまりの赤裸々加減に目を見張りっぱなしです。

日本人同士であっても性的な話をざっくばらんにすることなどなかなかないのに、台湾人女性が日本でのセックス事情を自ら体験し、それを描いたマンガはおそらくこの『T子の一発旅行』だけでしょう。

性的な描写はあふれていますが、どれもデフォルメされており気になりません。なかなか目論見通りにいかないT子のドタバタ加減を楽しく読むことができる作品です。

DAY OFF

DAY OFF 著者:毎日青菜/訳:沢井メグ

ビビットなイエローと、上着を脱いだ二人の男性が目をひくこちら『DAY OFF』は、台湾発のボーイズラブマンガです。

企画部所属の25歳、花小飛(ファ・シャオフェイ)は、入社当時からかわいいと社内で話題になるような容姿の持ち主でワンコ系。強い人が好きです。同じ会社の部長、石冬雲(シー・ドンユン)は硬派でやり手の29歳。入社してきた花小飛の履歴書の写真を見た瞬間に一目ぼれをします。

同じ会社の上司と部下。お互いタイプの二人ですから、すぐに付き合うことになります。そんなラブラブで気の置けない二人の様子を堪能することができる作品です。

日本でもそうであるように、台湾でも男性同士の恋愛に偏見を持つ人もまだ存在するようです。それもあって会社では秘密にしています。一方、家族には付き合っていることを積極的に伝える場面も。

スタイリッシュな絵とかわいいキャラクターたちの惚れた腫れたの様子を楽しむだけでも十二分に楽しむことができる作品ですが、その合間に垣間見える、日本と台湾の性的指向や性自認に関する考えかたの差異に注目して読むと、今作を一層楽しんで読むことができるのではないでしょうか。

緑の歌 - 収集群風 -

緑の歌 - 収集群風 - 著者:高妍

最後を飾るのは『緑の歌 - 収集群風 -』。村上春樹先生の著書『猫を棄てる 父親について語るとき』の挿絵を担当するなど、すでにイラストレーターとして人気を博している高妍(ガオ イェン)先生がおくる、日本文化への愛と少女のあわい恋愛を描いた作品です。

恋する女の子の揺れうごく内面を、細かいコマ割りをかさねていくことで、繊細に丁寧に表現しており、恋愛マンガとしても見どころたっぷりです。そしてそんな心の動きをいっそうカラフルに彩っているのが、実在する日本のコンテンツたちです。

はっぴいえんどの「風をあつめて」、ゆらゆら帝国の「バンドをやってる友達」、村上春樹先生の「海辺のカフカ」「ノルウェイの森」、岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」。背表紙だけですが日本のマンガも多数出てきました。

様々な日本のコンテンツは海をこえ、台湾のひとりの少女を魅了し、彼女はいつかはっぴいえんどのアルバム「風街ろまん」を買うために日本に行きたいと思うまでになるのです。

コンテンツを通して、その国や、アーティストを好きになることは当たり前にあることです。しかしそれが読み手である私たちの自国のコンテンツであり、自分の国であると話は別。

海の向こうからの憧れと称賛の視線をもって「日本」が描かれることで、私たちはこれまで当たり前すぎて気がつかなかった、日本という国の魅力を再発見することができます。

それは私たちの心のなかに埋もれていた、知っていたはずの価値を「思い出す」行為でもあります。物語や、絵の繊細さに感じいるだけでなく、自らの内面もかえりみたくなる。それが強い余韻となって現れる。そんな多重的な読後感を得ることができる作品なのです。

台湾マンガに共通する強い魅力は日本との「距離感」

海外のマンガ作品は、ストーリーやキャラクターなど普通のマンガとしての楽しみだけでなく、もっている価値観の差異を感じたり、海外の文化に触れたりすることができるのは大きな魅力のひとつでしょう。

今回取り上げた中でも、『用九商店』には生活圏内に「廟(びょう)」という日本で言う神社かお寺のようなものがよく出てきます。『DAY OFF』では台湾でのマイノリティーな性的指向に対する価値観を見てとれます。『T子の一発旅行』や『緑の歌 - 収集群風 -』では実際に日本を訪れ、その目で見た「日本」を描いています。

ひとえに「海外」といっても、あまりに距離が離れ、違った文化を築いている場所が舞台だと、他人事のように感じてしまうこともあります。まったく外の世界の出来事にすぎないと感じてしまい共感しづらくなってしまうのです。

その点、台湾と日本は距離的にもそれほど離れていません。どちらも漢字を使う文化があります。『緑の歌 - 収集群風 -』に出てくるように、コンテンツとしても共有している部分があります。

同じ部分もあれば、違う部分もある。そんな違いを身近なものとして感じられる絶妙な距離感が台湾マンガにはあるのです。

その遠くて近い距離感こそが、日本人の私たちにとってどこか懐かしさを刺激されるような読後感につながっており、台湾マンガの大きな魅力となっていることは間違いないでしょう。

今後も続々と台湾マンガが刊行予定

台湾マンガの潮流はこれだけにとどまりません。

日本統治時代の台湾に生まれた蔡焜霖の生涯を描くグラフィックノベル『台湾の少年』や、『用九商店』が受賞したのと同じ台湾漫画の賞「金漫獎(きんまんしょう)」において、「年間漫画大賞」と「少女漫画賞」をダブル受賞した『綺譚花物語』など、様々な作品の刊行が続きます。台湾の漫画家による日本での連載もすでにいくつも始まっています。

この機会に、バラエティにあふれ涙腺も刺激される、そんな台湾マンガに触れてみてはいかがでしょうか。

執筆:ネゴト / たけのこ

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