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新旧グルメマンガ特集~ お腹がすいた人は要注意! 五感で味わうグルメマンガの楽しみ方を教えます!!

「おいしくなあれ」。料理を作るとき、食べる相手に思いを込めて作るとおいしいゴハンが出来るといいます。

それは、マンガ家が作品を描くときも同じです。読者に「おもしろい」「楽しい」と喜んでもらえるように、マンガ家は思いを込めて作品を生み出しています。そのように新しいテーマを追求する過程で、マンガのジャンルは幅広く拡大してきました。

その中でも、「グルメマンガ」は人気ジャンルのひとつです。音も匂いもないマンガ。そこに描かれた食べ物を見ると、「食べたい」という思いに駆られるのはなぜでしょうか。新旧人気作品から、見る者の五感を刺激するグルメマンガの秘密を探ってみたいと思います。

グルメマンガの醍醐味のひとつが、料理人が腕を競う「料理バトル」です。グルメマンガの元祖と言われる名作から、料理バトルマンガの歴史を紹介します。

「戦うグルメマンガ」の元祖『包丁人味平』
包丁人味平 原作:牛次郎 漫画:ビッグ錠

かつて「マンガは子どもが読む物」と言われた時代がありました。しかし1970年頃には、その子どもたちが成長して大人となり、マンガの新しい読者層を担うようになります。そこで社会人となった読者を対象に、「職業マンガ」というジャンルが誕生。職業のひとつとして「料理人」のマンガが生まれました。

社会人が対象とはいえ、その内容は少年マンガらしいものでした。一言で言えば「料理勝負マンガ」と呼んでよいほどにバトル中心。料理の発想を超えた、奇想天外な戦いが繰り広げられました。牛次郎とビッグ錠のコンビが生み出した料理バトルマンガ『包丁人味平』は、その後のグルメマンガのルーツと言われています。

プロの仕事人が腕を競う職業マンガと、手に汗握る熱きバトル――そのマリアージュとも言うべき料理バトルマンガは、人気のテーマとなりました。新聞記者の山岡士郎が、父の海原雄山と料理対決に挑む『美味しんぼ』(マンガ:花咲アキラ/原作:雁屋 哲)。カリスマ美食屋のトリコが最高の食材を求めるグルメ・アドベンチャー『トリコ』(島袋光年)。料理バトルを繰り広げる学園料理マンガ『食戟のソーマ』(マンガ:佐伯 俊/原作:附田祐斗)など、数々の人気作が誕生しています。

味を競い合う料理バトルマンガとは一線を画し、ありふれた日常の食事を描く「ホーム・グルメマンガ」。時代と共に変化する家族の食風景が描かれます。

「ホーム・グルメマンガ」の金字塔
クッキングパパ 著者:うえやまとち

1985年に、『クッキングパパ』(うえやまとち)が「モーニング」(講談社)で連載スタート。それは女性の社会進出が進み、共働き世帯が増えた時代でもありました。

新聞記者として多忙な妻を支えるため、台所に立つサラリーマン・荒岩一味。彼が作る料理は、多くの読者の共感を呼びました。誰でも簡単に作れる、クッキングパパ流の料理。そのレシピを特集する書籍も発売され、ホーム・グルメマンガの代名詞となっています。本作に続いて、レシピ付きで家庭料理の作り方を紹介する名作が多く誕生しています。

映像のように動きをコマ割りするマンガであれば、口では説明しにくい調理手順も読者に伝えることができます。大好きなマンガに登場するメニューの再現にも役立ちます。

思わず再現したくなる「料理マンガ」の世界
きのう何食べた? 著者:よしながふみ

日々の食事を描くホーム・グルメマンガ。人と人が、食で繋がることの意味を考えさせられます。『きのう何食べた?』は、弁護士のシロさんと美容師のケンジ、アラフォーの同性カップルの食生活が描かれています。

カリスマ主婦のようにバランスの良い献立を考え、テキパキと料理を作るシロさん。さばのみそ煮、里芋の白煮など、愛するパートナーのため作る料理は、味と栄養を兼ね備えたものばかり。

作中に描かれた調理過程を参考に、「シロさんの料理を作ってみたい」という読者も多く現れました。近年SNSを中心に、マンガに描かれた料理を再現する「マンガ飯」の投稿が増えています。

食マンガに、「読む」だけではなく「作って食べる」楽しみが増えました。さらに、「食べ歩き」という新しい要素が加わって進化を続けています。

歩いて楽しむグルメ散策
孤独のグルメ【新装版】 久住昌之/谷口ジロー

テレビドラマ化されてブームとなった『孤独のグルメ』。輸入雑貨商を営む井之頭五郎が、営業の合間に一人で食事をする姿を淡々と描く、ハードボイルドなグルメマンガです。

誰かと食事を共にするのも良いですが、一人気ままに食べる「幸せ」のかたちもあります。五郎が好むのは、高級料理店ではなく庶民的な店ばかり。定食屋のぶた肉いため、デパートの屋上で食べる軽食コーナーの月見おろしうどんなど、五郎とB級グルメの対話が静かに繰り広げられます。

働く人間にとって、昼休憩は束の間の楽しみです。食マンガの主人公のように、昼休憩においしいお店を訪ね歩くのも良いでしょう。

食マンガは、物語の舞台となる時代の食文化を教えてくれます。苦しい戦争の時代にも、限られた材料を用いて、人々の心を励ます料理が作られました。

「食マンガ」で歴史を学ぶ
戦争めし 著者:魚乃目三太

「欲しがりません、勝つまでは」。今からおよそ80年前、戦時下の日本では生活が厳しく統制され、食べることがままならぬ時代がありました。旧日本軍が兵站(食糧補給)を軽視したことで、戦地では多くの兵士が飢えにより命を落としています。

『戦争めし』は、戦争中の食事情をドラマに取り入れてオムニバス形式で構成。現代の私たちが知らない、戦時下の食の世界を学ぶことができます。

数あるエピソードの中でも印象深いのは、米軍が戦地に残したハムと卵、パンで作ったカツ丼を題材にした「幻のカツ丼」です。玉砕前夜の兵士を慰めたカツ丼が、読者の涙を誘います。悲惨な戦争の下でも、人々は食事に束の間の安らぎを見出していました。作者の魚乃目三太は、戦争体験者への取材を重ねて「食に対する思い」を普遍のテーマとして描き出しています。

最後のシメに……

一口にグルメマンガと言っても、バトルあり、笑いあり、涙あり……と、変幻自在なスタイルがあります。その楽しみ方も、読むだけでなく実際に作ったり、登場したお店を巡ったりとさまざまです。紹介した作品を読めば、奥深いグルメマンガの世界にハマること間違いなしです!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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