『冷たくて 柔らか』ままならない恋を丁寧に紡ぐ 美しくも優しい物語
実写映画化が発表された『三日月とネコ』の作者・ウオズミアミ先生の新作は、大人のガール・ミーツ・ガール。20年ぶりに再会した彼女を前に、初めて体感する感情を丁寧に描いていきます。
本作『冷たくて 柔らか』は現在「ココハナ」(集英社)で連載をしており、2023年6月23日に待望の第1巻が発売になりました。装丁デザインがとっても可愛いく、憂いを帯びた美しい彼女たちの表紙は手にするだけで心臓がドキドキしちゃいます。
20年ぶりのあの頃
糸崎宝は順調だと思っていた同棲中の彼氏から別れを切り出されるもアッサリと受け入れる。ヤキモチを一度も焼いたことがないという彼女は、偶然にも20年ぶりに旧友・エマと再会をする。
『冷たくて 柔らか』©ウオズミアミ/集英社 第1巻/第1話/P8より
仔犬のように天真爛漫で泣いて再会を喜ぶ彼女と会話をしていくうちに、宝は記憶の奥底に蓋をして隠していたパンドラの箱を開けることとなって―――。
『冷たくて 柔らか』©ウオズミアミ/集英社 第1巻/第2話/P69より
14歳のとき、エマにキスをしたいと思った過去を思い出すきっかけとなったのは、エマが当時と同じいちごみるくキャンディを舐めていた香りを嗅いだからでした。
記憶の蓋を開けるもの
香りというのは不思議なもので、記憶に紐づき同じ匂いを嗅いだことがトリガーとなって当時の記憶や気持ちを突如思い出す、という経験が私にもあります。フラッシュバックした思い出は些細なことのようで、実は自分にとって大切な心の感情だった場合が多いものです。
本作の宝も当時の自分では扱いきれない想いだったため蓋をしましたが、30代の大人になった今、「好き」をひとつひとつ紡いでいくように向き合っていきます。その姿は初めて恋を知ったかのように一喜一憂していて可愛らしさ満点! ヤキモチなんて焼いたことがない、と言った数ページ前の宝が嘘のようです。
『冷たくて 柔らか』©ウオズミアミ/集英社 第1巻/第3話/P102より
そして既婚者でありながら、宝を誰よりも好いているエマの素振りは無邪気な仔犬でもあり、小悪魔な猫のような艶っぽさも加わり可愛さ満点!!
『冷たくて 柔らか』©ウオズミアミ/集英社 第1巻/第1話/P38より
それでいて30代の大人でもある2人は、全てをさらけ出さない駆け引きのような振る舞いもみせます。この「ままならない」感じが10代のド直球な恋とは違い、私たち読者の胸を締め付けてきます。ままならなさが魅力のひとつである本作は、少女マンガではなく女性マンガと呼ぶにふさわしく、多くの「大人女子」に読んで欲しい作品です。
好きであることと好きな人がいることと
私は本作を百合作品「だから」という視点では推したいと思っていません。もちろん「だから」共感をする人や心が軽くなる人もいると思いますし、ウオズミアミ先生の作品は優しさに溢れていると感じています。
しかし私は「好き」という感情に一喜一憂できる尊さが本作最大の魅力だと感じており、そこに同性愛というキーワードは必要ないと思っています。その笑顔を私だけに向けて欲しいと願うような「好きな人」がいることが大切ではないでしょうか。
『冷たくて 柔らか』©ウオズミアミ/集英社 第1巻/第4話/P111より
本作の副題である「PINKY CANDY KISS」はいちごみるくキャンディとキスを掛けた言葉でしょうか。いちごみるくのように甘く可愛い世界観に惹かれ読んだら最後、2人の幸せを願い目が離せない沼が広がっています。
全てのわざわいが出尽くすと その箱にはさいごにひとつ 希望が残るんだってさ
引用元:『冷たくて 柔らか』1巻130ページより引用
パンドラの箱を開けた宝にどんな希望が残るのか、一緒に見届けませんか。