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〈シャドウ・ギャラクティカ〉編から入る!今からでも夢中になれる美少女戦士セーラームーン入門

2022年には大展覧会を開催、2023年には最新作劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」が公開されるなど、『美少女戦士セーラームーン』関連のホットな話題が続いています。1992年の連載開始から30年以上が経過しても、その人気は衰えるところを知りません。

美少女戦士セーラームーン 完全版 著者:武内直子

アニメ・ミュージカル・実写…と、あらゆるエンターテイメントで広がり続けている『美少女戦士セーラームーン』の世界。90年代当時はゴールデンタイム枠でアニメが放映されていたこともあり、圧倒的認知度を誇っていました。

そんな多くの方の記憶に残る90年代のアニメ化では、原作とは異なる「美少女戦士セーラームーン」の世界が描かれていたことをご存知でしょうか。

反対に、2014年から放映が開始された新アニメシリーズ『美少女戦士セーラームーンCrystal』では、限りなく原作に近い形でアニメを再構築。

「Crystal」シリーズから続く劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」では、シリーズ完結編である〈シャドウ・ギャラクティカ〉編がついに描かれます。90年代アニメではオリジナルの最終回を迎えたとあって「原作完結編の映像化」にファンの期待は高まっているのです。

そんな劇場版公開を機に、原作コミックに目を通してみるのはいかがでしょうか。

他のシリーズにはない不穏な空気で始まる〈シャドウ・ギャラクティカ〉編は、消失と再生を描く重厚な物語です。ファンタジックな世界観の中で「自分とは何者なのか」「生きていくことの意味」という難題が描かれており、その壮大さはまさに神話のよう。思わず呆然としてしまう神々しさを多くの人に堪能していただきたいです。

今回は〈シャドウ・ギャラクティカ〉編の見どころを通して、『美少女戦士セーラームーン』原作コミックの魅力をお伝えしていきます。なお、ネタバレも交えた作品紹介も別途掲載しておりますので、そちらもぜひご覧ください!

美少女戦士セーラームーン 完全版 9巻 著者:武内直子
【最終巻】美少女戦士セーラームーン 完全版 10巻 著者:武内直子

星のように輝く「セーラームーン」の美しさ

『美少女戦士セーラームーン』の魅力を語るにあたって、作者である武内直子先生が描く麗しい世界への言及は避けて通れません。

〈シャドウ・ギャラクティカ〉編で描かれるのは、消失に立ち向かい新たな希望を求めるセーラームーンの神々しい姿。セーラームーンが自分自身のあるべき姿を見つめ直し、強大な敵に立ち向かって行く凛々しさを、武内先生は内側から輝くような筆致で描ききっています。

かわいらしいイメージが先行するセーラームーンの姿の中で、その美しさは随一と言ってもいいでしょう。しなやかさ、儚さ、強さ…セーラームーンを形づくる全てが描線のひとつひとつに宿り、輝いているのです。

敵として立ちはだかる破壊の戦士セーラーギャラクシアの姿も、異質ながら心惹かれるものがあります。

セーラー戦士たちのコスチュームが優雅で軽やかな雰囲気であるのに対し、ギャラクシアは冷たさを感じる無機質なコスチューム。セーラームーンと相対することでお互いの立ち位置の違いが際立つようなデザインは、戦隊ものやロボットアニメが好きだという武内先生らしさが滲みでています。

ガラス細工のように透き通っているのに、血が通ったパワーも感じる…そんな生命力に満ち溢れた線画の美しさは連載開始から衰えることはなく、完結編で新たな境地に達しているようにも思えます。

きっとあなたにも、今まで見たことのないセーラームーンの世界を感じさせてくれることでしょう。

使命と誇りを胸に戦う

『美少女戦士セーラームーン』は、主人公の月野うさぎが「愛と正義の戦士セーラームーン」に変身し、宇宙や異次元からの脅威と戦い続けるストーリー。

セーラー服を模したコスチューム・惑星・宝石といった武内氏ならではのキラキラ要素に、仲間のセーラー戦士たちと力を合わせて戦うアクション展開がかけ合わさった新鮮な読み心地は、多くのファンの心を鷲掴みにしました。

さらに、うさぎの前世は月の王国「シルバー・ミレニアム」のプリンセスだった〜!セーラー戦士たちはプリンセスの守護者で、恋人の衛は地球のプリンスで、みんな現代の地球に転生していて!〜という「前世」「運命」「転生」といったファンタジックな設定が作品をより一層盛りあげていきます。

うさぎをはじめ、作中に登場するセーラー戦士たちは現代に生きる普通の女の子。普段は、将来の夢に胸を膨らませ、恋愛に憧れるキュートな姿をみせてくれます。しかしその心の内では、プリンセスであるセーラームーンを守る、という前世から続く使命に誇りをもっています。

〈シャドウ・ギャラクティカ〉編では、そんな戦士としての本心を吐露する美奈子とレイの告白シーンが描かれ、作中屈指と言われるほどの人気を誇っています。燃え上がるように紡がれる美奈子の心情から、本能が求めるもの、自分らしくいられる道を忘れないでほしい、という強いメッセージを感じるのです。

『美少女戦士セーラームーン』の連載が始まる前の80年代には、若者たちの間で「前世」「転生」ブームが広がりました。生きづらさを感じる若者たちは自身に課せられた前世の使命を夢想することで、自分に価値を見出し孤独から脱却していたのです。

「自分は他の人とはちがう」「特別な存在でありたい」という自分の生きる意味を探す欲求は、時代を問わず誰しもが持ちえる感情です。

『美少女戦士セーラームーン』は前世や転生といったエッセンスを通して、生きる意味の答えを描きだしていきます。

守られて、愛して、強くなる

セーラー戦士たちはプリンセスであるうさぎを、そのうさぎは愛する衛を、そしてうさぎと衛は共に地球の未来を守り続けてきました。

全編を通して、愛する人たちの思いを強さに変えて強大な敵へと立ち向かってゆくセーラームーンの姿が清々しく、多くの人の感情を揺さぶります。幸せを脅かす存在に立ち向かい、自分の人生を賭して戦い抜ける彼女たちのパワーは、一体どこから湧いてくるのでしょうか。

わたしたちは「ひとりで立つこと=強さ」「守られること=弱さ」であると捉えがちです。誰かに助けられることよりも、ひとりでなんでもできてしまうことの方が素晴らしい、という考えは、現代社会ではごく当たり前の価値観となっています。

しかし〈シャドウ・ギャラクティカ〉編では、守られることで得られる強さがある、と訴えかけます。そうして生まれてきた強さがあればこそ、愛する人たちとの幸せな未来を守れるのだ、と。守られる価値のある自分を信じ、愛することで、他の誰かを守るパワーが生まれる、と教えてくれるのです。

そんな〈シャドウ・ギャラクティカ〉編は、セーラームーンのパワーの源泉でもある仲間たちとの別離から物語が始まります。絶望の淵に立たされたセーラームーンがどうやって立ち上がっていくのか、必見です。

月の光が届けてくれたメッセージ

『美少女戦士セーラームーン』の長い連載を通して、武内先生は「ブレない誇りを持ち続けること」「自分の心を信じること」「自分を愛すること」を描き続けてきました。

物語にちりばめられてきた数々のメッセージがぎゅっと凝縮されている…それが〈シャドウ・ギャラクティカ〉編の魅力だと言えます。

単行本の最終巻『美少女戦士セーラームーン』18巻のあとがきで、担当編集者・小佐野文雄氏はファンに向けてこんな言葉を残しています。

この作品は、武内先生が、まさに全身を使って、みなさんの応援にこたえるべく描きつづけたメッセージです。

あと何年かしたら、大人になったら、もう一度この作品を読み返してみてください。

きっと、いまとはちがう、なにかべつの大切なものを見つけだすことができると思います。

『美少女戦士セーラームーン』単行本18巻より引用

連載当時の中心読者であった10代の女の子たちにとって、シリアスな展開が続く〈シャドウ・ギャラクティカ〉編はとくに掴みづらい物語だったはずです。しかしそこには、若い読者たちが近い将来にぶつかるであろう難題に対する答えが描かれていました。

わたしたち読者は胸の中にセーラームーンの物語を刻むことで、どんなピンチの時にも諦めることなく前に進めるのです。

大人になったからこそ沁みるセーラームーンからのメッセージ。ぜひ〈シャドウ・ギャラクティカ〉編、そして『美少女戦士セーラームーン』の世界をあらためて覗いてみてください。

執筆: ネゴト / あまみん

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