『マチネとソワレ』死んだ兄からの脱却…異才の役者を突き動かす激情の承認欲求!
2016年11月に月刊誌『ゲッサン』にて連載開始となった、大須賀めぐみ先生による『マチネとソワレ』。
「演劇スターダム・サーガ」と銘打たれた本作は、同じく役者である兄を越え、自身のアイデンティティを確立させようともがく主人公・三ツ谷誠の奮闘を描く演劇漫画です。演劇の昼公演・夜公演をそれぞれ指す単語となるマチネ・ソワレ。物語には、舞台・演劇の世界に様々なものを捧げて生きる人々が大勢登場します。
ステージの上の脚光、そして他者からの喝采を求めて。激情渦巻くヒューマンストーリーが、今幕を開けるのです。
天才役者の兄…その代替品からの脱却に足掻け!『マチネとソワレ』あらすじ
『マチネとソワレ』©大須賀めぐみ/小学館
本作の主人公は、役者として活躍する青年・三ツ谷誠。彼は「様々な状況・人物の一挙一動を完璧に模倣できる」という、演技者として突出した才能を持つ人物です。しかしそんな才がありながらも、兄であり5年前に亡くなった稀代の役者・三ツ谷御幸と比較され続ける人生を、彼はこれまでずっと送ってきていました。
『マチネとソワレ』©大須賀めぐみ/小学館
そんな中誠が掴んだ、舞台の世界では名誉となる大役。ですが会見でも、彼に投げかけられるのは心無い「三ツ谷2号」への質問ばかりです。
実家へ帰っても、兄を亡くしたショックで記憶が混濁したままの母に御幸と呼ばれる誠。死んだのは兄ではなく弟である自分だと信じて疑わない母に、彼ができることは兄・御幸を演じることだけでした。
『マチネとソワレ』©大須賀めぐみ/小学館
どれだけ実力をつけようと、周囲は永遠に自分を「兄の代役」としか扱わない。
その事実に打ちのめされた誠でしたが、ひょんなことがきっかけで、彼は「兄ではなく自分が死んだパラレルワールド」の世界へと迷い込んでしまいます。
自分が死んだ世界で、初めて「素の三ツ谷誠」として評価される希望を見い出した誠。
渇望とも呼べるとてつもなく大きな承認欲求を抱え、彼はこの並行世界の中で再度兄を越えるために、俳優としての活動をスタートさせるのです。
鮮烈で強烈な「認められたい」という欲求…誠は兄を越えられるのか?
『マチネとソワレ』©大須賀めぐみ/小学館
本作で最もインパクトの強い要素は、主人公・誠の貪欲とも呼べる「認められたい」という熱量のある強い欲求です。
主人公である誠も、一見して我々から見れば非常に特異な才能と呼べる能力を持っています。ですが彼自身は自身のライバルである兄に比べれば、その才能も些末で到底叶わないもの、と思い込んでいるのです。
人間が集団生活を営む生き物である以上、誰かとの相対評価を避けることはできません。
その中で、自分のことを受け入れ認める自己肯定感は確かに大事でしょう。ですがそれすらも、元を辿れば幼少期からどれだけ周囲に認められたか、という他者からの承認によって形成されるものなのです。
『マチネとソワレ』©大須賀めぐみ/小学館
突出した才能を持ちながらも、幼い頃から兄と比較され続けたことで、ついぞ己の能力を自他共に認められなかった誠。そんな彼は自分に突如降ってきた数奇な運命の中で覚悟を決め、「もう二度と後悔したくない」という思いで、様々なピンチをチャンスに変えていきます。
泥臭く、時には血生臭い誠の葛藤と奮闘。そこから紡ぎ出されるセンセーショナルな展開が、本作の大きな魅力でもありますね。
強い信念と強烈な渇望で、彼自身の運命も、そして周囲の人間の運命までも少しずつ変わっていくこの物語。願ってやまなかった「役者として兄を越える」具体的な目標を掴んだ誠。紆余曲折を経て着実にステップを積む彼の行く末から、今もまさに目が離せない展開が続いています!
『マチネとソワレ』©大須賀めぐみ/小学館