少女魔王と最低勇者の邂逅ではじまる『ドキュンサーガ』 意外な深さにハマるSFファンタジー
最低勇者との戦いを制した少女魔王、そして語られる魔族と人間の過去。悠久の時を超えて生き続ける魔王はどのような未来をもたらすのか。
『ドキュンサーガ』©Itoman/KADOKAWA 4巻/17話より
こんにちは(こんばんは)! マンガライターのカリス魔王TKと申します。本日紹介するのは『ドキュンサーガ』です。
タイトルに含まれる「ドキュン」は元はネットスラングで、粗暴な言動や風体の者を指す言葉です。DQNとも表記します。
続いて「サーガ」という言葉は、叙事詩を意味する言葉です。事実を元にありのままに書かれたもの、またはそのような壮大な物語のことを指しています。
これを踏まえると『ドキュンサーガ』とは「粗暴な奴の壮大な物語」ということになりますが、どうなんでしょう。そんな奴にあんまり壮大な物語を見せて欲しくはないなぁと感じてしまいます。
むしろ、敵役でしょ! って感じですよね。そうですね、その点は安心してもらっていいと思います。
『ドキュンサーガ』は粗暴を超えた最低勇者を、少女魔王が倒すところからはじまるんです。
少女魔王から語られる壮大な“サーガ”
かつて、人間から生まれる特異な者たち、固有の力を持つ者たちがいつしか「異形」と呼ばれるようになった時代がありました。現少女魔王の真央(まお)は、そんな「異形」たちのリーダーでした。
『ドキュンサーガ』©Itoman/KADOKAWA 2巻/6話より
それから時を経て異形はいつしか「魔物」と呼ばれるようになります。昔なじみが天寿を全うしていく中、彼女はある目的のため転生を繰り返し魔王として君臨し続けていました。
平和な時代が続いたせいか、子孫たちの能力が弱くなっていく。危機感を感じた彼女は、自分に代わる「魔物の救世主」の誕生を待っていたのです。
そんな折、人間側から刺客として「最低勇者」のモッコスが送られてきます。人間側の王は、圧倒的な力がありながら粗暴な振る舞いで厄介なモッコスと魔王の共倒れを狙っていたのです。
真央は余裕を見せながらも激闘の末、モッコスを打ち倒します。後に意識を取り戻したモッコスと生き残った側近の四天王の二人を集め、彼女は世界の真実と過去について語りだします。
魔族と人間の関係、世界に秘められていた壮大な「サーガ」を。
『ドキュンサーガ』©Itoman/KADOKAWA 4巻/17話おまけより
魔王という仕事人間
真央(まお)は、かつては異形たちのリーダーとして、今は魔物たちの魔王として生き続けています。それは子孫たちを想ってのこと。しかし、彼女自身には子供は居ないのです。
かつての仲間との、子孫を守ってくれという約束、使命にも似た目的のために魔王を続けています。言ってしまえば、真央にとって魔王は役割であるとともに「仕事」なんです。つまり、魔王である真央は悠久の時を歩む「仕事人間」とも言えるのです。
でも、そう考えるとちょっと疑問に感じます。だって転生、つまり寿命を延長してまで仕事を続けてるんです。
いくら仕事上優秀で適役が自分だったとしても、残業にしては長すぎる、仲間に頼まれたにしてもしんどすぎるはずです。
『ドキュンサーガ』©Itoman/KADOKAWA 1巻/4話より
魔物と言っても、固有の力や能力があるだけで心は人間と変わらないんです。人の寿命をはるかに超える年月、同じ仕事を続けるのは相当な負担があるはず。実際、仲間たちの多くはその人生を終えています。
家族のために頑張って働くということはあるでしょう、けれど今の彼女には家族はいない。であれば、仕事が好きで自分のために働いているということになります。
自分のために働く仕事人間。であれば、仕事が大変でも、人生が充実し生き生きとしていないと変ですよね。
でも真央からはとてもそんな風には感じられないんです。
真央の姿に、つい自分を重ねてしまう
真央とは違うけれど、僕にも子供はいません。けど、子供が嫌いなわけではありません、そこは真央と一緒です。赤ちゃんかわいいですよね、夕方の番組に出てくる赤ちゃん動画を微笑ましくみたりしています。
『ドキュンサーガ』©Itoman/KADOKAWA 2巻/6話より
僕らにも、働くこと、やらなければいけないこと、それを優先するということはあります。自分の道を進むため、恋愛などに時間を割かないこともあるでしょう。
でもこれで良いのかと思うこともあります。結婚していくかつての同僚たち、すれ違った家族連れに何か心が動くこともないわけではない。
今はやるべきことがある、目指す夢がある、やらなければならない使命がある。そう振り切ったつもりでも、後ろ髪引かれることはあるんですよね。
魔王として働き続け、生き続ける真央を見ていると、そんなことを考えずにはいられない。
働き続ける宿命を背負った彼女。魔王という名の「仕事人間」である真央も報われて欲しい、幸せになって欲しい。そこに自分を重ねながら、そう願わずにはいられないんです。
深さにハマるSFファンタジー
あまりにもドキュンのモッコスは魔物たちの救世主となり得るのでしょうか。そして、真央の物語はどんな結末を迎えるのか。
『ドキュンサーガ』©Itoman/KADOKAWA 4巻/17話より
少女から魔王となった真央の壮大な「サーガ」
意外すぎる深さのSFファンタジー『ドキュンサーガ』の結末をぜひ見届けてみてください。
ここまでありがとうございました。「都会ではハデなキャップをかぶりがち」なマンガライターのカリス魔王TKでした。ではまた。
『ドキュンサーガ』情報
著者はいとまん先生。他作品として『発症区』などがあります。
『ドキュンサーガ』は、著者のWEBサイトにて発表されていた同名マンガをリメイクした作品。
序盤のギャグマンガのような入りから、想像もつかない奥深いストーリー展開がTwitterを中心にWEB上で話題に!
「次にくるマンガ大賞 Webマンガ部門」2021年、2022年と連続ノミネート。第3回ebookjapanマンガ大賞2023にノミネート、など注目が集まっています。(2023年3月時点)