【忘れらんねえよ柴田隆浩と忘れらんねえ“ヴィンテージ漫画”Vol.1】日本橋ヨヲコ先生の『G戦場ヘヴンズドア』
バンド界屈指の漫画好きで知られる、忘れらんねえよ・柴田隆浩。今まで数多くの漫画を読了してきた柴田が特に「忘れらんねえ!」と太鼓判を押すのは最新作でも最近メディア化された話題作でもなく、なんと今から10年〜20年も前に連載していた往年の名作漫画たち。
時を経て読み返すことで蘇る当時の思い出や新しい発見……。そんな味わい深い魅力を持つ名作漫画を“ヴィンテージ漫画”と定義し、柴田がその愛を語りまくる(叫ぶともいう)こちらの企画。記念すべき第一回は日本橋ヨヲコ先生の『G戦場ヘヴンズドア』です。
▼忘れらんねえよ 柴田隆浩(しばた・たかひろ)
2008年結成。メンバーはVo&Gt 柴田隆浩のみ(他のメンバーは全員脱退)。
2011年TVアニメ『カイジ』のENDテーマとなった「CからはじまるABC」でメジャーデビュー。
2020年12月には中野サンプラザで自身初のホールワンマンライブを開催し、成功を収めた。
「ROCK IN JAPAN FES」「COUNTDOWN JAPAN」など大型フェスにも多数出演中。
Twitterでは「#柴田読了」のハッシュタグと共に読んだ漫画を投稿中。
今回の忘れらんねえ“ヴィンテージ漫画”
人気マンガ家である父に反発し、ひそかに小説家を志す堺田町蔵。幼い頃から、マンガだけを心の拠り所として生きてきた長谷川鉄男。まるで正反対な性格を持つふたりの高校生。しかし、お互いの心の内に、共通する情熱があることに気づいた鉄男は、町蔵に手をさしのべた。運命的ともいえる出会い……ふたりの目的はマンガを創りあげること――!!戦友とはいったいなんなのか、その意味を探り続ける著者渾身のコミック!!
遡ること約20年前「リーダー、これ絶対好きだから」
――『G戦場ヘヴンズドア』は、2000年〜2003年の間に小学館「月刊IKKI」で連載されていた作品ですね。まずは本作との出会いを教えてください。
柴田:高校3年生の時、仲の良いグループの中にサブカルチャーに強いタカオって奴がいたんです。あだ名がソドムっていうんですけど。で、ソドムの家に遊びに行った時に「リーダー、これ絶対好きだから」って『G戦場ヘヴンズドア』の単行本を借してくれたんです。ちなみにリーダーは俺のあだ名ね。ファッションリーダーを略してリーダー(笑)。
真っ赤なトレーナーを着て現れたリーダー
――みなさん、あだ名のクセが強いですね。ソドムさんはなぜ柴田さんが絶対好きな漫画だと思ったのでしょうか。
柴田:当時、俺が「女殺団」というコピーパンドをやっていて。それがきっかけで、ソドムが「リーダー、モノ作りに興味あるでしょ?漫画家を目指す高校生たちの漫画があるんだけど、絶対好きだと思うよ」ってすすめてくれました。
――ソドムさんのレコメンド力がすごいですね(笑)
柴田:でもその時は、漫画かよ!?って。正直オタクっぽいとすら思っていたんですよ。
――今でこそ漫画好きで有名な柴田さんですが、当時はそこまでお好きではなかった……?
部屋の壁一面を漫画で埋め尽くすほどの漫画好き
柴田:いや、当時も漫画は好きだったんですけどね。ただ、高校生の頃は漫画よりもバンドやりたい!音楽やりたい!という気持ちが強くて。だから、自分がこんなにも漫画を愛しているんだって自覚がなかったんです。大学生で一人暮らしを始めて、高校生の時とはまた違う孤独を味わうようになってから段々と自覚していきましたね。漫画はずっと俺の隣にいてくれたのに……。気付けなかったんですよ、その良さに。
俺も町蔵と鉄男側に行きたい、高校3年生の自分を奮い立たせた一作
――実際に読んでみてどんな感想を抱きましたか?
柴田:いや〜〜〜〜、もう驚きましたよ!!!!漫画家を目指す物語がこんなにもカッコよくて、ドラマチックで泣けるのかって。本当にびっくりでした。
――具体的にどんなところが刺さったのでしょうか。
手に持っているのは私物の『G戦場ヘヴンズドア』
柴田:まず、絵が最高にカッコいいんですよ。絵と物語の佇まいからパンクミュージックの匂いがしたんです。
多分、作者の日本橋ヨヲコ先生ってすごく音楽がお好きな方ですよね。『G戦場ヘヴンズドア』の巻末に戸川純さんの「コンドルが飛んでくる」や「赤い戦車」の歌詞がイラストと一緒に収録されていたりして。それを見た時やっぱりそうかって思ったんです。俺は戸川純さんの音楽はパンクだと思っているんですけど、『G戦場ヘヴンズドア』はパンクが好きな人が描いている漫画だなって。
今では販売が終了されている紙書籍版、年季入ってます!
柴田:あと、漫画を描いている最中に、町蔵や鉄男が死にかけたりするじゃないですか。これだけ聞くと、漫画を描いて死にそうになるってどんな漫画だよ?と思う方もいるかもしれませんが(笑)。例えば “生みの苦しみ”と言ったらすごく安っぽいかもしれないけど、人生を削って、漫画以外の大切なものすべてを捨てて、そうやって作品を生み出しているんだって。その壮絶さが『G戦場ヘヴンズドア』ではしっかりと描かれている。
反対に、頑張れば夢は叶う!とかそういった類いの綺麗事は一切描かれていない。要するに、全部本当のことだけを描いているんですよ。それが、ドラマチックだなって思うし、当時はこんな漫画見たことねぇって震えましたね。
――それはやっぱり柴田さんが高校時代からバンド活動をされていて、音楽を作るという生みの苦しみを経験されているからこそシンパシーを感じるのでしょうか?
柴田:うーん、初めて読んだ高校3年の時はコピーバンドだったからなぁ。その当時は、モノを作ることにすごく憧れていたのに、自信がないから作ったことはなくて。周りからバカにされるのも怖いから、踏み出す勇気もなかった。
柴田:でも、そんな時に、モノを作ることってなんだ?っていうゴリゴリのハードコアのところまで踏み込んだ『G戦場ヘヴンズドア』に触れて、強烈に憧れたんですよね。1巻で町蔵が言うじゃないですか?
セックスよりも面白いことを知ってしまいました。俺はもうそっちへは戻れません。
1巻より
これがもう、たまらなくカッコよくて!こうなりたいんだよって思ったんです。俺も町蔵と鉄男側に行きたいって。
濁った時に自分を正しい位置に戻してくれる
――本作の何が長い間柴田さんを魅了し続けるのでしょうか?
柴田:そうか、高校3年生で出会ってから……ということは20年以上も好きなのか!こんなにも長い間愛しているのは、やっぱり『G戦場ヘヴンズドア』が本質まで行っている作品だからですよ。漫画を描くこととは?表現することとは?という問いの一番底の部分まで辿り着いている。
それこそ今こうしてミュージシャンをやっていますけど、たまに濁る時があるんです。でも、『G戦場ヘヴンズドア』を読むと自分を正しい位置に戻してくれるんですよね。
――迷いや葛藤ではなく、濁る?
柴田:売れたいな〜!とか、なんでアイツが売れてんだよ!とか。あと、自分より売れていない人を見てザマァ!って思ったり。
濁っている時の話でなぜか満面の笑み
――それはかなり濁っていますね(笑)
柴田:あと作詞に行き詰まる時も濁りがちなんです。こうすればウケるかな?とか考えちゃって。つまり、完全に自分を見失っている状態ですよね。そんな時に『G戦場ヘヴンズドア』を読むと「いやいや、本当に書きたい歌詞はそうじゃないでしょ」って言われている気がするんです。3巻で都先生が言うんですよ。
「人格」って優れた人柄や品性とかの意味じゃないよ。どんなに才能があっても色んな事情でそれを続けられない人は大勢いる。でも運がいいのか、悪いのか、町蔵君はマンガをやめなかった。―いや、やめられなかった。望んだというよりはそう生きるしかなかった。それこそが「人格」だよ。町蔵君はこれでしか生きられないんでしょ?
3巻より
あなたが本当に描きたいもの。それがあなたの人格なんだから、それがなくならない限り漫画を描く資格があるんだって、都先生は言っている気がするんです。
さっきの“濁る”の話で言うと、別に売れたいとか、誰かに負けたくないと思うことは悪いことじゃない。そんな気持ちで書いた歌詞が美しいこともありますしね。でも、そういう歌詞が美しくなるのは、自分が本当にそう思っている時なんです。クッソ!負けたくねぇなと心の底から思うなら、そう書くべきで、逆にそこまでじゃないなら書いちゃいけないっていうか。
目に涙を浮かべながら語る柴田さん
――『G戦場ヘヴンズドア』は柴田さんにとってまるで真実を写す鏡みたいですね。
柴田:そうそう、お前が本当に書きたいことはなんだ?って。よそ見をせずにちゃんと自分と向き合えよって言ってくるんですよ、この漫画は。
でも揺れちゃうんですよ、俺もいつも揺れて、揺れまくって、本当に苦しい。それでも、自分を見ろ、とにかく向き合えと。それで結果が出なくても構わない、極限まで自分と向き合ったお前は美しいよって『G戦場ヘヴンズドア』は言ってくれている気がするんです。
オレにとってはもう聖書みたいなもの!好きなシーンやセリフを語る
――お好きなセリフと共に本作との出会った頃の思い出や魅力を語っていただきましたが、他に好きなセリフや印象的なシーンを教えてください。
「あ〜〜〜!」「たまんねぇな!」「はぁ〜…」と興奮したり感嘆しながら語ってくれた
柴田:いやもう1ページに1個は必ず名言が入っていますよね。好きなシーンセリフやシーンはいっぱいあるんですけど……。あ〜!コレ!
オレが鉄男の手になります。
3巻より
鉄男が漫画を描けなくなってしまった時に、町蔵が代わりに自分が描くって宣言するシーン。町蔵は、周囲から偽善だとか、プライドはないのかと言われるんですけど、
違うな。必然だ。
3巻より
って返すんですよね。オレもそう思うもん(泣)。町蔵自身が描かなきゃいけないって思ったんだから描く。それ以外の何があるんだって、そういう純粋性みたいな話をしている気がするんです。だから、先ほどの“濁った”みたいな時に読み返すと、もう涙がボロボロ流れて純粋な気持ちになれるんですよね。
柴田:あと、これも!
誰かのものじゃない、お前になれ。オレもちゃんと、堺田町蔵になる。
3巻より
町蔵が久美子に言ったセリフですね。町蔵は家族関係が複雑で、それに対する恨みとか怒りを表現の軸にしようとしてたじゃないですか。でもそういうことじゃねぇんだなって、町蔵が自分で気付いたから出た言葉だよなって。しかもこのセリフの前に
自分の狂ったとこ、描いて治してんだ。
3巻より
と、言っていてこれもすげぇカッコいいなぁ……。先ほど挙げた都先生の人格の話もそうだけど、『G戦場ヘヴンズドア』はとにかく本質を突いてくるんだよね。オレにとってはもう聖書みたいなものです。
読むと「スンッ」となるらしい
今と昔、変わらない想いと……コレだけは言わせてくれ!?
――高校時代と約20年経った今で変わらないことや、反対に受け取り方が変わったところはありますか?
柴田:『G戦場ヘヴンズドア』って、オレにとっては北極星みたいにずっと変わらずそこにある存在なんですよね。毎月たくさんの新刊を購入していて、読んだ漫画の数はどんどん増えていくのに、やっぱり本作を読み返すと、20年前と変わらず輝いている。高校時代とは違って、今では作る側の人間になったけど、『G戦場ヘヴンズドア』で描かれている純粋な姿って本当に美しいと思うし、オレもこの姿に立ち戻らないといけないなって。なんだか道標みたいですよね。
3巻の表紙を曲に例えるならCHAGE and ASKAの「YAH YAH YAH」だね!by柴田
――柴田さんはこれからも『G戦場ヘヴンズドア』と共に在るんでしょうね。
柴田:もちろん好きな漫画は他にもたくさんありますけど、『G戦場ヘヴンズドア』は、大事にしながらずっと一緒に生きていきたいなって。そして生きていくんでしょうね。なんせ既に20年近く連れ添っていますからね。
あ!唯一共感できないセリフ思い出した。
この世界は読者が花。俺らはソレを引き立てる草だ。どうせなら、名脇役になろうぜ?
3巻より
これだけは言わせてください!間違いなく先生が花でしょうって!!もちろん日本橋ヨヲコ先生のスタンス、作中で描いていることは否定しません。できるわけありません。けどオレは、日本橋ヨヲコ先生及び、全国の漫画家の先生が花!主役ですよ!って思うんです。あなた方が血反吐吐いて、極限まで自分と向き合って、そうして描き上げた作品を俺らは“読ませていただいている”だけなんです。もう感謝しかないですよ。
――漫画をこよなく愛する柴田さんならではの意見ですね。
遠くを見つめながら敬愛してやまない漫画家について考えるも、この後まさかの…!?
柴田:でも難しいですよね。多分編集者の人はまた違った視点で見ていると思いますし。う〜ん、オレは漫画を描いたことがないから細かい事情はわからないけれど、イチ漫画好きとしてはもう声を大にして言いますよ。先生が花ですって。とにかくオレは先生方を崇めたいし……何かもう尊いんですよ、存在が。
最近は風潮が変わってきましたけど、少し前は某有名作品の先生が休載されている時に「仕事しろ」とか言う人がいたじゃないですか。もちろん、その方たちも連載を楽しみにしているからの発言だってことはわかっていますけど。それでもオレは絶対そんなこと言えない!漫画はね、もはや天からのお恵みなんです!狭き門をくぐり抜けた選ばれし先生方が!!漫画をオレらに恵んで下さっているんですよ!!!
――とんでもなくヒートアップして参りましたが、最後に『G戦場ヘヴンズドア』をこれから読もうと思っている方に向けてメッセージをお願いいたします。
柴田:もうね、これから『G戦場ヘヴンズドア』を知れる人生が待っていると言うのは、羨ましすぎますよ。音楽に例えると「エレファントカシマシ」を知らない人生。これから「今宵の月のように」が聴けちゃうのと同じですよ?もう最高じゃあないっすか。
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取材・文 = ちゃんめい / 撮影 = 中村武士