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『Artiste』対話、協調性、思いやり。芸術家たちの不器用な物語

さもえど太郎先生の描く『Artiste』は、「月刊コミックバンチ」にて連載中の作品です。フランスのパリを舞台に、アルティスト(芸術家)たちの成長や葛藤がつめこまれています。

今回は、さもえど太郎先生の初連載作品でありながら、コミックシーモア「みんなが選ぶ!電子コミック大賞2020」男性部門賞にも輝いたこの物語の魅力をご紹介。

他者によって見出されていく天才肌の主人公

高級レストランで皿洗いとして働く主人公・ジルベール。彼は、人と関わらずに済むからという消極的な理由で厨房での仕事を選ぶほど、人とのコミュニケーションが極度の苦手。

けれど、そんな彼には”絶対味覚”という才能がありました。シェフが作ったものを完璧に再現するなど、抜群に優れていた味覚と嗅覚が同僚や有名シェフの目に留まり、彼の才能に光が当たり始めるのです。それもジルベールの意思とは反して。

他者との繋がりに支えられる主人公

というのも、新たにオープンする有名シェフのレストランで、ジルベールは副料理長に抜擢されますが、大きすぎる才能がつれてきた転機に、嬉しさよりも大きな不安に襲われてしまいます。

「無理だ」「も もう一年も皿洗いをしていて...僕...自信ないです...」など、ネガティブ発言を連発する様子は、彼が天才気質であるということを忘れてしまうほどの拒絶っぷり。けれども、自尊心があまりにも低い彼を導いてくれたシェフや周囲の人々は、次第に彼の中でも大切な存在になっていきます。

固い信念と共に自ら可能性を切り開いていくいわゆる”スポ根精神”ではなく、「ご縁」によって成長のきっかけを与えられているジルベールのシェフとしての姿。自信のなさをさらけ出した天才のイメージに反した様子や、彼を取り囲む人物との温かな繋がりを感じるエピソードこそ、この物語の美しさを際立てているのです。

他者のための芸術

そんなジルベールは、同じレストランで働く料理人の仲間の他にも、同じアパートに暮らす画家、音楽家そして漫画家など個性豊かな芸術家たちに囲まれています。けれど個性が強すぎるゆえぶつかり合うエピソードも少なくありません。

そんな十人十色な彼らに唯一共通点があるとするならば、”誰かを想うこと”。一つひとつ違うエピソードでありながら、料理、絵画、歌それぞれに込められたひとつの純な想いに毎回胸が熱くなってしまうはずです。

ぶつかり合いながらも、彼らの愛する「芸術」がブリッジとなって築かれていくコミュニケーションもまた、ひとつの芸術のよう。その芸術は、人と人との繋がりがフラットで愛おしい、そんな親しみのあるものなのです。

主人公ジルベールの天才ぶりが要となっているのではなく、彼と彼の周りの人々の”繋がり”によって温かく紡がれていくのが本作。天才への、芸術家へのフィルターをぺらっと剥がしてくれる、気弱すぎる彼の性格とアルティストたちの物語は、人間としての魅力や優しさに気づかせてくれます。

執筆: ネゴト / yukiko

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