新選組、新旧マンガ特集~ 激動の幕末に「誠」を貫いた男たち! 心を揺さぶる新撰組マンガの魅力を探る!!
時は幕末、文久3(1863)年。京都で新選組の前身となる「壬生浪士組」が結成されました。それから160年が経ちましたが、激動の時代を駆けた若者たちの青春は、いまも色あせることはありません。
マンガでも、新選組をテーマとした名作が多数あります。組織の中核を担った近藤 勇、土方歳三、沖田総司。斬り込み隊長の斎藤一(はじめ)。豊かな教養と人徳で慕われた山南敬助など……。個性豊かな剣士が、マンガをドラマチックに彩ります。
史実に沿った作品からラブロマンスまで、バラエティ豊かな新選組マンガがあります。新旧の名作マンガから、一途に誠を貫いた新選組の魅力をご紹介します。
かつて「賊軍」と言われた新選組。時代小説に書かれたことで評価が見直されてきました。マンガ界でも、手塚治虫をはじめ多くの作家が新選組を描くようになります。
手塚治虫が切り拓いた新選組マンガ
幕府方として尊王攘夷派の志士を斬り、最後には戊辰戦争の敗者となった新選組。明治維新後に「賊軍」「殺人集団」と呼ばれたこともありました。
『新選組』©TEZUKA PRODUCTIONS
しかし、そのイメージを払拭したのが小説家の子母澤寛(しもざわかん)です。元新聞記者の子母澤が、生き残った隊士に取材した『新選組始末記』( 1928年)により新選組が再評価されるようになりました。マンガでは、1963年に手塚治虫が「少年ブック」(集英社)に『新選組』を連載しています。
現代の私たちが抱くような、隊士たちのイメージがない時代のことです。手塚治虫が青春群像劇として描いた『新選組』は、萩尾望都をはじめとするマンガ家を驚かせ影響を与えています。
主人公は、父の仇討ちのため新選組に入った深草丘十郎と同年代の鎌切大作。手塚治虫は二人の少年を主人公に、歴史上の人物たちと人間ドラマを織りなしています。
「人斬り集団」として、悪者扱いされることもある新選組。果たして彼らは「正義」だったのか「悪」だったのか……。読者に問い掛けるマンガが誕生しています。
『ワイルド7』に通じるアクション新選組マンガ
新選組は、もとは多摩の百姓や食い詰め浪人の集団です。京都守護職・松平容保が、将軍警護のため上京した浪士組の身を預かり、都の治安維持を図ったのが新選組の始まりでした。
『俺の新選組』©望月三起也/ebookjapan
アクションマンガの巨匠として知られる望月三起也。その代表作『ワイルド7』は、法では裁けぬ悪党を退治する7人の特殊警察官たちが主役です。そのメンバーは「悪を持って悪を制す」の信念に基づき、あえて重犯罪者の中から選抜されています。一夜にして特殊な警察集団となったワイルド7は、新選組と共通するものがあります。
「『男らしさの追求』こそ、自分の漫画の最大の主張」と、書き残している望月三起也。『ワイルド7』終了後の 1979年より「週刊少年キング」(少年画報社)に、迫真のチャンバラアクション『俺の新選組』を連載しています。
新選組の根本は「尽忠報国」、忠節を尽くして国に報いることです。『俺の新選組』は、新選組副長・土方歳三を通して「正義とは何か」を問い掛けます。
少女マンガにも、新選組をテーマとした作品が誕生しています。激動の時代に儚く散った新選組の隊士たち。切ない物語に、思わず泣いた読者も多いはずです。
ラブロマンスとともに描く少女マンガの新選組
若くして天才と呼ばれ、新選組一番隊組長として活躍した沖田総司。少女マンガの多くの作品で、浅葱色の羽織をまとう美少年として描かれています。儚く命を燃やした沖田総司に、夢中になった女性読者も多いことでしょう。
『風光る』©渡辺多恵子/小学館
「別冊少女コミック」(小学館)にて、1997年から連載を開始した『風光る』。少女マンガにおける新選組マンガの金字塔的作品です。
壬生浪士組の宿所で、新入隊士の試験を受ける若者たち。その中に、ひときわ小さい少年・神谷清三郎がいました。新選組への入隊を許された清三郎ですが、その正体は 15歳の少女・富永セイだったのです。
長州の浪士に殺害された父と兄の仇を討つため、男装したセイは新選組で剣の腕を磨きます。沖田総司はセイが少女だと知って、陰になり日向になり彼女を支えます。次第に二人の間には、深い絆が生まれて……。超ロングヒットとなった本作も、 23年の時を経て2020年に完結しました。感動のラストは涙なしには読めません。
250年に渡る泰平の世で、戦国の習いを忘れた武士たち。その喉元に、沖田総司が剣を突きつけます。剣の道をリアルに描く、本格派・新選組マンガを紹介します。
刀の真髄は斬ること。新撰組の剣の世界
1854年、奥州白河藩阿部家の江戸屋敷で開かれた御前試合。白河藩の武芸指南番と立ち合ったのは弱冠12歳の沖田惣次郎、のちの沖田総司でした。
『アサギロ~浅葱狼~』©ヒラマツ・ミノル/小学館
相手の剣を素早くかわし、鋭く攻め続ける沖田少年。その剣先には、泰平の世に武士が忘れてしまった殺気が満ちていました。武芸指南番の男は、負けるはずのない子どもから一本取られてしまいます。
沖田少年が剣を学んだのは、天然理心流の道場・試衛館。その主・近藤周助は、沖田に「三本同時に突け」と教えました。それは、戦の世を想定して編み出された一撃必殺の剣だったのです。
百姓や商人、下級武士が集まった試衛館の剣士たちは、本物のサムライになるため腕を磨き、やがて最強の剣客集団となります。『アサギロ』は、天才剣士・沖田総司を主役に描いて、刀の真髄に迫っています。
尊王攘夷? 開国!? 幕末物は「難しい」と思うあなたにオススメのグルメマンガ。歴史とグルメが融合した、新感覚の新選組マンガをご紹介します。
「グルメマンガ」で新撰組を描く
「俺は沖田くんが苦手だ」。山口一、のちの斎藤一にとって沖田総司は理解できないといいます。天真爛漫な性格、甘くて冷たい食べ物を好む「食」の嗜好……すべてにおいて、気が合わないというのです。
『だんだらごはん』©殿ヶ谷美由記/講談社
天ぷらの屋台に行った沖田総司は、自らの猫舌を言い訳に天ぷらの衣をはいでしまいます。そんな沖田に、山口は腹立たしさを覚えます。
しかし、おいしい料理は人の心を一つにしてくれるものです。山口が読んだ料理本に書かれた饗応料理(武家のおもてなし料理)。その中には、徳川三代将軍家光が口にした料理「玉子ふわふわ」がありました。
どんな料理か興味をそそられた山口と沖田は、ともに「玉子ふわふわ」を作ることになります。それは、講武所の教授方に落ちた近藤 勇を励ますためのものでありました。幕府による武芸訓練期間である講武所に推挙された近藤 勇。しかし、百姓身分を理由に断られていたのです。
山口と沖田が泡立てた卵をカツオ出汁に浮かべると、それまで食べたことのない魅惑の料理が出来上がりました。「食べることは生きること」と言います。『だんだらごはん』は、幕末のおいしいゴハンの紹介に加えて、「生きる」意味を考えさせられる奥深いマンガです。
新選組マンガの楽しみ方もさまざま
剣戟中心のオーソドックスな作品から、新機軸のマンガまで……。多種多様な新選組マンガが生まれています。その楽しみ方も自由で、読了後に舞台をめぐる「聖地巡礼」をするのも良いでしょう。個性的なメンバーの中から「推し」の隊士を見つけるのも楽しいはず。紹介した作品を読んで、新選組が活躍した幕末に思いを馳せてみませんか。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美