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『発達障害なわたしたち』発達障害当事者が描くほぼノンフィクションコミック

祥伝社から毎月8日に発売されている『FEEL YOUNG』。毎月粒揃いの作品が読める、筆者が心底愛しているマンガ雑誌だ。発売日はたとえ仏滅だろうと私にとっては大安吉日、深夜0時に即電子版を購入し、寝落ちするまで読み続けている。

その中でも掲載されるたび、筆者が熱く感想ツイートをつぶやいてしまうほど楽しみにしている作品がある。それは、町田粥先生のほぼノンフィクションなコミックエッセイ『発達障害なわたしたち』だ。

発達障害なわたしたち(1)
発達障害なわたしたち 著者:町田粥

そもそも、発達障害って?

そもそも発達障害に関しては、厚生労働省のHPなどに詳しく書かれているように、生まれつきみられる脳の働き方の違いによるもの。2004年に発達障害者支援法が制定され、「児童の発達障害の早期発見及び発達障害者の支援のための施策 」が法制化されたことで、児童発達支援施設は年々増え続けている。

発達障害は治らないといわれているが、療育という発達支援を受けることで、子どもが持つ凸凹を改善することはできる。凸凹が改善されると生きづらさの解消につながると考えられるため、幼少期から療育を受けることは重要だ。

ただ、あくまでこういった取り組みは法整備された2004年以降の話であり、その時にすでにだいぶ成長している人、つまり大人になってから発達障害と診断された人はどうしているのだろうか。

本作の町田粥先生(作中では「Mちだ先生」と表記)と、担当のK成さんこそが、まさに「大人になってから発達障害と診断された」方たちなのだ。

発達障害と診断されて「安心した」当事者

本作は、基本的に毎回ゲストを交えて実体験をインタビューした内容が描かれている。1巻のゲストに共通することは、大人になってから発達障害と診断された方であるということだ。

作中で印象的だったのは、発達障害と診断された当事者は、診断されたことで「これまでの謎が解けてすっきりした」「自分をカテゴライズできた安心感があった」とほっとしていることだ。もちろん、全員がそうというわけではないが、当事者が自身の診断についてどう思っているかを知れたことは、本作を読んでよかったことの一つだ。

当事者が何に困っていて、診断を受けたことでどう対処したらいいかを考え、あらゆる方法を駆使して仕事や家事、子育てをしている。特に「ADHDライフハック」と題した6話からは、そのことが窺い知れる。

これは、軽度のADHDと診断されたMちだ先生の妹さんが、過去の失敗から処世術として編み出した内容を紹介した回だ。処世術と題しているだけあって、自分の生活に活かせそうな内容もあり、妙に納得してしまう。

当事者でも、当事者でなくても

最後に、自分語りになって申し訳ないが、筆者の子どもは年中の時に発達障害と診断された。当時通っていた保育園の担任にその可能性を指摘され、実際に小児科でその診断を伝えられた時、真っ先に思ったのが「頑張って長生きしなきゃ」ということだった。我が子は私がいないと生きていけないのだと思い込んでしまったから、そう思い込んでしまったのだ。

でも、その考えは親として間違っている、と今では思う。発達障害でもそうでなくでも、一人で生きる術を身に付けた大人になることは理想の子育ての終わらせ方だ。

偶然にも、療育のために児童発達支援施設に通い出した直後に『発達障害なわたしたち』の連載が始まった。読んで、「私が読みたかったのはこれだ」と雷に打たれた思いがした。読んでよかったと心底思えたからこそ、こうしてレビューを書いている。

本作は発達障害の当事者が当事者とともに作った本だが、当事者でない方にこそ読んでほしい。彼らが何に困っているかを知ることは、相手を理解することにつながる。

どんな人でも、誰かのすべてを理解するのは難しいかもしれない。それでも『発達障害なわたしたち』を読んで、少し「知る」だけでも、きっと読む前と後では、世界が違って見えるだろう。

執筆:ネゴト / すぎゆう

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