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落語マンガは百面相!時代や文化を吸収しさまざまな顔を見せる落語マンガから4作品をご紹介!

「落語」なんて古くさいし、よくわからない。

そう思って、落語というキーワードが入ったマンガを避けている人もいるのではないでしょうか。ですがぜひ知って欲しいのは、落語は身構えて楽しむような敷居の高い娯楽ではないということ。時代にあわせ常にその形を変化しながら、ずっと庶民の心をつかみ続けてきた大衆のためのコンテンツなのです。

落語をテーマにしたマンガも、その時代の文化を取りこみ、多くの人に受け入れられるためにさまざまな顔を見せています。この記事ではそんな落語をテーマにした多種多様なマンガ4作品をご紹介します!

『あかね噺』

『あかね噺』は「週刊少年ジャンプ」で大人気連載中。単行本1巻の帯に『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生が「ハイ好き! 頑張れあかね!」とコメントしていたのも記憶に新しい、令和の最新落語マンガです!

あかね噺 原作:末永裕樹 作画:馬上鷹将

主人公は高校3年生の女の子「朱音(あかね)」。破門にされた父のすごさを認めてもらうため、そして父が破門にされた理由をつきとめるために、阿良川志ぐま師匠に弟子入りし落語の世界に飛びこみます。

まるで悪の四天王のようないでたちの兄弟子たちや、謎のライバルなど、周りを固めるキャラクターもひとクセある人ばかり。そんな中であかねは落語の腕をみがき、己の目的を達成するために日々鍛錬を積みかさねてゆくのです。

落語マンガ自体はこれまでも沢山ありましたが、「週刊少年ジャンプ」誌上で落語マンガが連載され、大きな人気を博しているという事態はこれまでに見たことがありません。人気の理由は数多くあると思いますが、『あかね噺』が落語というニッチなジャンルを扱ったマンガでありながらも「少年マンガらしさ」をふんだんに持ちあわせていることが最大の要因ではないでしょうか。

例えば、あかねが高校生という若い年齢であること。父の汚名を晴らすという明確な目標があること。ライバルが居ること。見開きを使った派手な紙面使い。そして単行本2巻では学生落語選手権という「トーナメント」も出てきます。

毎話毎話、課題が出てきて、それを乗りこえ成長してゆくあかねの成長を見守っていく楽しさだけでなく、そういった少年マンガらしい要素にあふれていることが人気の秘訣となっているのです。

「落語」なんてニッチなジャンルだから……と心配する必要などまったくありません。『あかね噺』は努力・友情・勝利にあふれた熱き少年の魂をもった落語マンガなのです!

『異世界落語』

『異世界落語』は小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載、書籍出版された人気原作をもとにコミカライズされた作品です。タイトルからわかる通り、異世界×落語というこれまでになかったコラボレーションで彩られた作品です。

異世界落語 漫画:ゴツボ×リュウジ 原作:朱雀新吾 キャラクター原案:深山フギン

国を救うため救世主を異世界から召喚しようとしていたのに、手違いがあり召喚されてきたのは戦いにはまったく縁がないふつうの落語家である主人公、楽々亭一福(らくらくていいっぷく)。救世主ではなかったことはすぐにバレ、城から叩きだされてしまいます。戦闘の役にたちそうなステータスはからっきし。手違いで召喚した人たちは申し訳なさもあって助けてくれるけれど、なにも知らない異世界で、話すことしかできない落語家ができることはあるのでしょうか。

そんな読者の不安などなんのその。一福は異世界の文化をみるみる吸収し、すぐさまそれを生かした落語をやってのけます。その場にいたドワーフやエルフなどさまざまな種族の聴衆を笑わせ、小さいながらも平和を作り出していくのです。

そこで披露された落語は、異世界の文化と日本の古典芸能である落語が見事にミックスされており、そんな異文化会合を楽しむことができるのがこの『異世界落語』の魅力です。

たとえば1話で披露される「時そば」というネタでは「そば」は「チンチロ―ネ」という麺料理に、時間の数えかたは「神様の名前」に置きかえて披露されるのです。もとの落語を知っている人はその異世界アレンジ具合を楽しむことができますし、単に異世界モノが好きで落語なんて全然知らない人でも純粋にその話を楽しむことができる。そんな一挙両得な作品なのです。

『うちの師匠はしっぽがない』

『うちの師匠はしっぽがない』は「good!アフタヌーン」で連載中。キャラクターの可愛さを前面に打ち出した落語マンガです!2022年9月末からアニメもはじまりました。

うちの師匠はしっぽがない 著者:TNSK

田舎から大阪に出てきた豆タヌキの「まめだ」は、術を使って人々を化かそうとしますがちっとも上手くいきません。途方に暮れたときに出会ったのが、「ただの落語家」を名乗る女性。まめだはその女性が自らの話術だけを使い、そこに居る大勢の聴衆をこれでもかと「化かす」のを目の当たりにしてしまうのです。

そんな女性のすごさにあてられ、ぜひ弟子入りさせてほしいと頼みこみます。そしてまめだはタヌキの術ではなく話術を使い、落語家として人間を化かすことを夢見てゆくのでした。

『うちの師匠はしっぽがない』の最大の魅力は、奔放でかわいらしいキャラクターたちでしょう。まめだや師匠など、主要キャラクターはかわいい女の子のビジュアルで描かれていますし、まめだは変化をといてしまえば元はタヌキです。

気を抜いてしまったり、逃げこんだり、忍びこんだり。様々なシチュエーションでタヌキの姿に戻ってしまうこともあり、人間ではあり得ないような動きに満ちた演出が魅力的です。

また『うちの師匠はしっぽがない』は、この記事で選んだマンガの中では唯一、京都や大阪を中心に行われる落語「上方落語」をテーマにしています。言葉は関西弁ですし、ハメモノと呼ばれる三味線や太鼓が入ってきたり、見台(けんだい)と呼ばれる机に拍子木を打ちつけて音を出したり。そんな上方落語のもつ特徴はこのにぎやかな作風に花をそえています。

『昭和元禄落語心中』

『昭和元禄落語心中』は文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞や講談社漫画賞、手塚治虫文化賞新生賞などこれまでに数多くの賞を受賞し、アニメ化に加え実写ドラマ化もされた大人気落語マンガです。

昭和元禄落語心中 著者:雲田はるこ

刑務所から出所したばかりの主人公、与太郎(よたろう)は八代目、有楽亭八雲(ゆうらくていやくも)が刑務所の慰問でやった落語にいたく感動し、刑務所を出所したその足で八雲のもとに弟子入りしたいと押しかけます。

与太郎に帰る場所がないことを知ると八雲は弟子入りを認めてくれます。しかしちっとも落語を教えてくれる気配がありません。そのうえ八雲の家には気が強く、なにやら大きな因縁のありそうな女性、小夏(こなつ)も同居中。なかなか素直にはすすまない与太郎の落語家への道はどうなっていくのでしょうか。

落語は舞台の上でたったひとり演じるものです。そして同じ内容の落語でも落語家によって細かな仕草や話しかたが違い、聞いたときの印象はがらりと変わってきます。これまでに経験してきた愛憎の数々、友人との関係、戦争の体験や落語自体の隆盛などの自分を取りまく状況もふくめ、数々積み重ねてきた経験が芸となって出る。それが落語の魅力のひとつなのです。

繊細な線で描かれる落語のシーンは、声のトーンや雰囲気、細かな表情などがアリアリと伝わってきます。そして作品をとおして登場する落語家たちの人生を垣間見ていくことによって、そこで披露されている芸の本当の意味を知ることができるのです。

圧倒的な描写力、そして思わず共感してしまう魅力的なキャラクター。そのどちらが欠けていても生まれえない高い説得力がそこにあります。『昭和元禄落語心中』は、もはや落語というテーマにとどまらない、表現者としての宿命を感じることができる作品なのです。

入門コラムも満載!落語の敷居は高くない!

皆さんのなかには、これまで落語に触れたことのない人もいるでしょう。そんな人のためにどの作品にも巻末や巻中に落語コラムが掲載されています。例えば『あかね噺』には「あかねと学ぶ落語入門!」、『異世界落語』は「一福のちょっと一服」といった形で、作中に登場する落語や用語の解説、どこに行ったら落語が聞けるの?といった入門にぴったりな情報が満載です。

現在ではYouTubeでもたくさん落語を聞くことができますし、この記事で紹介した落語マンガをきっかけにして、本物の落語を好きになるのにこれほど敷居の低い時代もないでしょう。落語マンガの形も多岐にわたっています。皆さんにぴったりの落語マンガがきっと見つかるはずです!

では本稿はここまで。

お後がよろしいようで。

執筆:ネゴト / たけのこ

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