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【紅しょうが・熊元プロレスと漫画】男子に近づく恋愛の“手法”だった漫画が、自分自身を形づくった

「芸人と漫画」は、漫画好きの芸人のみなさんに漫画とどのように付き合っているかをじっくりと聞く、紹介リレー形式のインタビュー連載です。

前回のビスケットブラザーズ・原田泰雅さんがタスキをつなぐべく選んだのは、紅しょうがの熊元プロレスさん。彼女が愛する多様なジャンルの漫画は、ある共通点で深くつながっていました。

▼吉本興業・紅しょうが 熊元プロレス(くまもと ぷろれす)

1990年生まれ、兵庫県出身。NSC大阪校35期生として入学し2014年に稲田美紀と「紅しょうが」を結成。2018年以降、日本テレビ「女芸人No.1決定戦 THE W」の度重なる決勝進出で全国にファンを増やし、2023年4月からは大阪から東京に拠点を移して活動中。

公式YouTubeチャンネル「紅しょうがのバンザイちゃんねる」

「男子と絡みたい」で読みはじめた漫画

――この度は、原田さんから漫画好きとして熊元さんをご紹介いただきました。

熊元:ありがたいです! でも私は原田さんみたいにいろんな漫画を読むわけじゃなくて、好きな漫画をくり返し読むタイプなんです。

――そうなんですね。

熊元:王道が好きだし、先が予想できるような話でもその「お約束展開」でストレス解消するみたいなところがあって。

――たしかに事前にいただいたリストにも王道を作ってきた名作が並んでいました。実は公式プロフィールの趣味欄に「ドカベンを読むこと」と見つけまして。『ドカベン』はなかでも特別だったりするのでしょうか?

熊元:小学3年生くらいの頃、テレビで『ドカベン』のアニメをやってたんですよね。当時モテる男子といえば野球部みたいな感じがあって、「野球部の男子と絡みたい」っていう気持ちで『ドカベン』の漫画を読みはじめたっていう(笑)

――ええ!(笑) そんな漫画との出会いが。

熊元:動機は不純だけど読んだらちゃんとおもしろくて、はじめて単行本を買い揃えていった漫画なんです。ただ読んでから野球が好きになるとかでもなく。ライバル校とかも含めて出てくるキャラクターが全員とにかく個性強くて……そういうところでハマった漫画でした。

――野球が重要だったわけではないんですね。

熊元:高校のときにハマった『クローズ』も当時、映画の「クローズZERO」が上映されて男子がみんな観てるみたいな感じで単行本を買って。

クローズ 著者:高橋ヒロシ

「私クローズ全巻持ってるよ」って映画を見た男子に貸してました。全26巻を毎日カバンに入れて……。

――毎日!

熊元:それが終わったら続編の『WORST』もあるっていうんで毎日ひとりで移動図書館みたいなことをして(笑)なんとか男子と近づくという方法。

WORST 著者:高橋ヒロシ

――ははは(笑)恋愛のツールというか。

熊元:そうそう。『ドカベン』は続編とかも含めて200巻以上揃えてるから、大人になってからも芸人の先輩とかに「私『ドカベン』持ってますよ」って言って仲良くしてもらったり。

――漫画がコミュニケーションのきっかけになっているわけですね。

熊元:使わしてもうてます(笑)

漫画に形づくられた理想の男性像

――本日はドカベンに加えて『NANA―ナナ―』もお持ちいただいてます。

熊元:自分自身の考え方・中身は矢沢あい先生の影響を受けているというか。特に『NANA』は今の自分の好きなタイプを形成してる。

NANA―ナナ― 著者:矢沢あい

小学校の頃はザ・ヒーローって感じのレンが好きやったけど、大人になっていくにつれてどんどんタクミに。

――ある意味で悪役的なキャラクターですよね。

熊元:やってることは結構ひどいんですけど、リアルな「俺様」なのがいい。「ドS」的なキャラクターっていろんな漫画で出てくるけど、実際はセリフだけだったりするから、こんなに芯からの俺様キャラは……いや、キャラというかもはや実在する人のような。

――NANAのリアリティすごいですもんね。

熊元:そもそも、基本全部の漫画を恋愛で見てまうんですよ。男くさい感じの人が好きなのは『ドカベン』からきてるんかなって思いますし、一本筋の通った人がタイプなのは『クローズ』で。

――なるほど、そういう見方だったんですね。熊元さんのルーツとして『ドカベン』・『NANA』・『クローズ』とリストが送られてきたとき、野球、恋愛、ヤンキー漫画でかなりバラバラだなと思っていたのですが、一気に理解できた感じがします!

熊元:はじめて男の人と付き合ったのは20歳なんですけど、その3作品を読み終えてもうとんでもない「俺様」の理想ができあがってる状態やって。初彼氏は毎日「熊元っちゃん、はよ俺のもんになれよ」とか言ってくる人でした(笑)

――えええ! それが素というか。

熊元:はい。見た目は漫画の主人公とはほど遠い人やったけど、やっぱり照れなくそれを言える人ってなかなかいない。甘すぎるセリフも、恥ずかしくないテンションまで自分を持っていって言えることがかっこいいなって思うんです。

――たしかに……。

熊元:告白されたのがエレベーターのなかで、(実演しながら)こうやって私が立ってたら「……そろそろいい加減もう俺と付き合えよ」って言ってくれて。私「壁ドン」って言葉ができる前からされてたんですよ壁ドン。

――はははは(笑)

熊元:だからもうほんまに、そういう漫画の世界にいるような人が好き。特に矢沢先生には「先生どうしてくれるんですか」って言いたいくらい理想を形づくってもらいました。

『NANA』に学んだ恋愛のあれこれ

――矢沢先生によって恋愛観が作られた具体的なシーンやセリフなんかはありますか?

熊元:『NANA』に幸子っていうあざとい女の子が出てきて、最初はほんまにもう「何なんこの女は!」って思ってたんですけど。

――歴史に残るあざとさです。

熊元:終電逃すためにヒールの靴履いてきて「わざとだよ?」っていうあの有名なシーンもそうですが、次のときはスニーカーで来るという引きぎわがうまい。駆け引きはそこで学びました。

――あ、幸子から学んだんですか!(笑)

熊元:小学5、6年のときに野球部が放課後練習してる公園があって、そのなかの好きな男子に声かけたいけどグイグイ行けなかった。それでどうやったら近づけるかってときに、駄菓子屋さん行って600円くらい買い込んで。

――駄菓子で言ったらかなり高額ですよね。

熊元:そう、それをもって野球部の近くに行って食べてたら「うまそうやな」とか言って野球部の男子が近づいてきてくれる。で「腹すかしすぎやろ~」とか言いながら分けてあげる。

でもあまりにもそれやるとこいつわざとここ来てんねやって思われるんで、別の日は公園の野球部と反対側の位置に座って「お前ら目当てじゃないよ」って感じを出してたら逆に今度は向こうが来てくれる……みたいな、幸子に学んだ駆け引きしてました(笑)

――おおー!(笑)策士。

熊元:小学生から『NANA』読んでるって自分のなかでだいぶ大きかったんです。登場人物全員に欠点があって完璧じゃないのもそれまで読んだ少女漫画にはなくて、ほんまにリアルやった。

――人物像がすごく現実的ですよね。

熊元:そうなんです。あ、あともう一個だけ。私はタクミみたいな男が好きですけど、京助っていうキャラが「なんで浮気をしないのか」と聞かれたときに「淳子(=彼女)を失うのが怖いから」って答えたセ リフがずーっと残ってて。

――わ、わかりすぎます……。

熊元:ほんまは京助と付き合いたいけど惹かれるのはタクミなんですよね。でもタクミみたいな「俺様」が好きだからといって自分勝手な恋愛をOKと思ってるわけではないんです。

――なるほど、とてもよくわかりました。

熊元:ありがとうございます(笑)

自分のふるまいも漫画から

――『クローズ』について、もう少し伺ってもいいですか?

熊元:高校生のはじめ、漫画をずっと読んでたせいもあって、一匹狼みたいな人がかっこいいからキャラ変しようと思って。入学式からあんまり喋らず、肘ついて遠く見てなんか考えてますよ~みたいなキャラクターを装ってたことで、ほんまに友達できひんかったんですよ(笑)

――友達グループができあがってしまった?

熊元:そうそう。でも自分でやったことなんでどうしようもなくて。間違えたな、つらいなって思ってたときに、『クローズ』を読んで本当にスカッとさせてもらったというか。

――わかります、スカッとしますよね。

熊元:阪東みたいな悪役も憎めないヤツやったりとか、来てほしいときに主人公の春道が来てくれる展開とか見ててほんまに気持ちいい。あと春道がもともと一匹狼で、勝手に周りに人が集まってきてるキャラなんで、友達ができないからといって無理やり自分を変えていこうとせずにふるまえたのもある。

はじめはクールな謎の人物を理想にしてたけど、春道みたいに一匹狼だけど周りに仲間がいるっていう、新しい理想が自分のなかにできた感じがしました。

――たしかに春道のそういうところ、かっこいいです。

熊元:『NANA』のナナも『クローズ』の春道も、一匹狼の感じでめっちゃかっこいい。

――そう言われてみると共通点ありますね!

熊元:エルフの荒川っていう子がめっちゃ仲良くて、荒川って自分の感情を言葉にして「熊元さんおもしろい、やさしい、好き」って100で伝えてくれる後輩なんですけど、それに対して私は「もうええって」ってクールぶってしまうんですよ。

自分でキモイなと思うんですけど、そういう表現しかできひんようになってしまってる(笑)いいように言ったらほんまに奈々とナナみたいな関係なんです。

――あーっ! いいですね……じゃあもう本当に漫画のなかに生きているような。

熊元:そうですね。『NANA』のなかで出てくるヤスの「一人でいるのと一人になっちまうのは違うよな」ってセリフも、なんかいつか自分が言われた言葉のように思ってしまってて。

実際はそんな経験一回もないんですけど(笑)現実と混ざってしまうようなことがいっぱいあります。なんとなく女子はそういうタイプの人が多いのかもしれないですよね。

今好きな漫画も“伝統の手法”で

――ルーツについて濃厚なお話をありがとうございました。今好きな作品もいくつか教えていただけますか?

熊元:私が大人になったから今は不倫系とかリアルな恋愛漫画の情報のほうが入ってくるようになってて。そのなかで『ハニーレモンソーダ』はもうちゃんと、私が昔から読んでた少女漫画の王道をやってくれる。

ハニーレモンソーダ 著者:村田真優

圧倒的にかっこいいヒーローがおってその周りもかっこよくて、窓から「キャー!」とか言われる。そんでほしいときにいいセリフを言ってくれるのとかが、この歳になって逆に新鮮なんですよね。

――その観点で言うと、ルーツとしっかりつながってますね!

熊元:あと今『夜王』を読んでるんですけど、これは夜の仕事の話で。大阪時代私がホストクラブにちょいちょい行ってて、東京に行くってなったときに歌舞伎町のこともちょっと……。

夜王 原作:倉科遼 画:井上紀良

――あっ、知りたいという気持ちで?

熊元:時代も環境もぜんぜんちゃうんですけど(笑)でも読んでみたらめっちゃおもしろいんですよね。やっぱり筋の通ったヤツがおって……。

――たしかに! 筋の通った人出てきます。

熊元:あとは『日本三國』。これは歴史の話やけど全然歴史が好きじゃなくてもおもしろく読める。私は文字多めの漫画はあんまり得意じゃないんですけど、これは文字が多くても入ってくるっていうか。

日本三國 著者:松木いっか

――ちょっと複雑ではありますよね。

熊元:自分がこういう漫画を読めるんだって思いました。ギャグ要素というか言葉の言い回しとかもおもしろいし。

――なるほど! 最初はなぜ読もうと思ったんでしょうか。

熊元:毎週見てる「マンガ沼」でおすすめされてたんですよね。

――そこでおもしろそうだな、と思って?

熊元:はい。……あとまあ、これ、あれですけど……私が昔からやってる伝統の手法……うん。男子が好きなんじゃないかっていう……。

――あっ、ああー!そういうことか、“手法”!

熊元:ンフフフ……長年やらせていただいておりますこの手法(笑)もちろん私もめっちゃおもしろいと思ってますし、男子も好きな漫画じゃないかと。

――もうその手法を編み出した家元ですね(笑)

熊元:読んでいただいた方に「こんな方法あるよー」ってね。男性だけじゃない、友達にも使えますからね!

漫画みたいな「俺様」を増やしていきたい

――最後になりますが、これから漫画とどう関わっていきたいかをお聞かせいただけますか?

熊元:現実では漫画みたいな「俺様」タイプの方がどんどん減ってきてて。時代的にそれはいいことなんです。でもやっぱり私はずっとその理想を描いてて、これから大変な道ではあると思うんですけれども、そういう方が好きな人もいるんだというのを伝えていけたら……。

――あっははは(笑)伝えていきたい?

熊元:みんなもっと嘘みたいな、歯の浮くようなセリフと言われることも、恥ずかしくないテンションまで上げてどんどん言っていただけたら……こっちは受け入れる体制は整ってるので。

――なるほど。そういう男性を増やして……。

熊元:増やしていきたいなと(笑)はい、本当に思ってます。

――いやあ、いいですね! ありがとうございます!

熊元:全力を尽くしていきたいです。ありがとうございました!

熊元プロレスさんを形づくった作品『NANA―ナナ―』を読む

NANA―ナナ― 著者:矢沢あい

取材・執筆: サトーカンナ / 撮影: 服部健太郎

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