なぜ支持される? 一歩踏み出すきっかけをくれる「シニア女性が主人公のマンガ」特集
マンガ『メタモルフォーゼの縁側』が実写映画化されヒット! その後もシニア女性を主人公としたマンガが続々と発売され、SNSなどでも「こんなふうになりたい!」と話題になっています。
読者の多くはシニア世代ではないにも関わらず、なぜシニア女性が主人公のマンガが支持されるのでしょうか?
この記事では、シニア女性が主人公のマンガが支持される理由を、人気作品の魅力とともに紹介します。
『メタモルフォーゼの縁側』
冒頭に紹介した『メタモルフォーゼの縁側』は、「このマンガがすごい!2019」オンナ編第1位をはじめ多数にランクインし、2022年実写映画化が大ヒットしたことも記憶に新しいシニア女性が主人公の先駆け的作品です。
好きなものを語り合える友達はいますか?
年齢も生きてきた環境も違うけど、好きなもの(BL)で繋がっていく二人の関係が多くの人に受け入れられ支持されている本作。
夫と死別した雪(ゆき)は、75歳でBLに出会います。「また今度」が必ずしもあるわけではないことを知っている雪は、自分の好きや楽しい気持ちに素直に行動します。
『メタモルフォーゼの縁側』©Kaori Tsurutani/KADOKAWA
第1巻/第10話より
さえない女子高生のうららは、雪と出会い「やっていいよっていう歳」が来るのではなく、「いつでも今やってもいいんだ」と気づき、漫画を読むだけでなく描いてみることにします。
『メタモルフォーゼの縁側』©Kaori Tsurutani/KADOKAWA
第3巻/第22話より
好きなもののことを話せて共有できる友達の存在が、日常を楽しくしてくれたり一歩踏み出す勇気をくれるのではないでしょうか。
劇的な変化ではなく小さな変化の積み重ねによって、お互いが前へ進んでいく姿が丁寧に描かれていきます。
『メタモルフォーゼの縁側』©Kaori Tsurutani/KADOKAWA
第2巻/第12話より
いくつになっても新しい友達ができるって素敵ですよね。
『海が走るエンドロール』
「このマンガがすごい!」オンナ編2022、2023と、2年連続でランクインした『海が走るエンドロール』。シニア女性が主人公ということだけでなく、映画制作に関わる人たちをリアルに描いた作品です。
船を出すことは誰でもできる
夫と死別したうみ子は、ひょんなことから一人で映画館へ行くことに。そこで美大生の海(カイ)と出会ったことをきっかけに、撮る側の人間となるべく美大に入り映画を学びはじめます。
『海が走るエンドロール』©たらちねジョン(秋田書店)
第1巻/第1話より
「こんなおばあちゃんが…」と自虐的な発言をしていたうみ子ですが、美大を受験します。入学してからも誰よりまじめに課題に取り組み、「新しい経験」と若い世代と共にクラブへ行ってみたり、飲み会に参加したり、今しかできないことを謳歌します。
うみ子の行動力はどこからくるのでしょう。
なんで撮るの? なんでやりたいの? やりたい理由を突き詰めると「自分の好き」や後悔していることに向き合わないといけない。そんなクリエイターの苦しみも描かれます。
海と出会ったことで自分は「撮りたい側の人間だ」と気がついたうみ子は、船を出します(踏み出します)。船を出したことで出会う人たちに新たな気づきを得て、うみ子は進んでいきます。
『海が走るエンドロール』©たらちねジョン(秋田書店)
第1巻/第5話より
年齢や環境ではなく、一歩踏み出せるかどうか。踏み出してからも変化を受け入れ進み続けられるかどうかが大事なんだと教えてくれます。
うみ子の航海を見届けませんか。
『はなものがたり』
Twitterで「美容に目覚めたおばあちゃん」のマンガとして話題になった『はなものがたり』。美容だけでなく諦めていたものを取り戻していく物語です。
あなたの物語の主人公はあなた
「お化粧は隠すためにするのではない」
こう言われてドキリとする人も少なくないのではないでしょうか。
長年連れ添った夫を亡くしたはな代が、久しぶりのひとり時間に出会ったのは同世代の化粧品店の素敵な店主。
「みっともない」「いい年こいて」そう夫に言われてきたことで、すっかり化粧っ気がなくなっていたはな代に向けられたのが冒頭の言葉です。
店主の芳子(よしこ)は、お化粧は自分が楽しいからするものなんだと教えてくれます。この出会いをきっかけに、化粧だけでなく自分自身に目を向けはじめます。
『はなものがたり』©schwinn/KADOKAWA 第1巻/第5話より
はな代は芳子と出会ったことで、今までずっと誰かのために生きてきたこと、そして諦めてきたことにも気がつきます。
今まさに家事・育児と仕事におわれる読者には他人事とは思えないはずです。
自分の物語の主人公はいつだって自分。
『はなものがたり』©schwinn/KADOKAWA 第1巻/第2話より
65ページ目にして新しい登場人物が加わり、ドキドキワクワクするはな代がとても可愛らしく、これから花開いていくのが楽しみです。
『ミカコ72歳』
夫を亡くした72歳のミカコは、心配する娘や孫からスマホを持たされます。スマホを手にしたミカコの活用術が小気味よい『ミカコ72歳』は、『ワカコ酒』の新久千映先生の作品です。
人生100年時代のおひとりさまライフハック!
スマホやタブレットを使いこなすシニア世代も増えていますが、主人公ミカコのスマホ活用術がとてもユニークでいて本質をついているので、参考にしたい!と思う人も多いはずです。
ミカコは日々亡くなった夫へメッセージを送ります。もちろん読まれることもなければ返信が来ることもありません。一見心配になるような行動ですが、ミカコは「墓参りよ。家で墓参りしているだけ。」と言います。
『ミカコ72歳』©新久千映/コアミックス 第1巻/第2話より
お墓参りは故人との繋がりを感じたり、近況を報告する場でもあります。お墓や仏壇に向けて話しかけるだけが墓参りではない。ミカコのように話したい時メッセージを送るのも墓参り。スマホのいい活用方法ですよね。
他にもミカコのスマホ活用術は、若い世代には不思議に映るけど、斬新で真似したくなるものがたくさん!
『ミカコ72歳』©新久千映/コアミックス 第2巻/第18話より
スマホという新しいツールを手にし、自分なりの使い方で楽しんでいるミカコの姿から、おひとりさまを自分らしく生きるライフハックを学ぶことができます。
『マダムたちのルームシェア』
SNSで「こんなふうになりたい!」の声が続出した『マダムたちのルームシェア』は、イラストレーターで漫画家のseko koseko先生が描く全編カラーでポップなコミックエッセイです。
理想のシニア像ここにあり!
趣味も気質も異なる3人のマダムのルームシェア生活を描いた本作品。日々を楽しむマダムたちに魅了されまくります!
『マダムたちのルームシェア』©sekokoseko/KADOKAWA
Introductionより
死別や離婚を経ての友人3人でのルームシェアはとにかく楽しそう!パジャマパーティーをしたり、おうち喫茶店ごっこをしたり、夜更けに花札大会をしたり、理想的なルームシェアを次々と見せてくれます。
実際は難しいことも多いルームシェアも、マダムたちはそれぞれの習慣やルールを変えるのではなくアップデートして楽しんでいます。これもシニアだからこそなのかもしれません。
マダムたちがお互いを認め合い尊重している姿も、支持される理由ではないでしょうか。
『マダムたちのルームシェア』©sekokoseko/KADOKAWA
Special Episode1より
いくつでも、今を全力で楽しんでいるマダムたちの姿はまさに理想のシニア像です。
自分という物語、どんな物語にしたい?
主人公のシニア女性たちは、死別などの「きっかけ」で新たな人や物と「出会い」、好きなものや諦めていたことに「気づき」、新しい挑戦をすることで「変化」を楽しんでいます。
歳を重ねることが不安。老いるのが怖い。そんな風に思う私たち読者を「いくつになってもはじめていいんだ」「いくつになっても楽しんでいいんだ」そう勇気づけてくれます。
でも彼女たちはたまたまその時、その年齢だったにすぎません。彼女たちが支持されるのは、年齢や環境ではなく一歩踏み出し行動し今を楽しんでいるからです。
自分という物語をどんな物語にするかは自分次第。一歩踏み出すことは誰でもできる! 一番新しいページの今を大事にしなさい。
シニアだからこその包容力と説得力で、彼女たちはそう伝えてくれています。
今を楽しむシニア女性が主人公のマンガをきっかけに、一歩踏み出してみませんか。
執筆: ネゴト / Ato Hiromi