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『花とくちづけ』七都サマコ先生インタビュー!疲れたオトナ女子に贈る、“キュン”な処方箋

2022年7月13日に待望の5巻が発売となった『花とくちづけ』(七都サマコ/講談社)は単行本累計30万部を突破している今注目の胸キュン恋愛マンガです。

平凡な女子高生のかすみと、イケメン華道家の咲人との恋愛模様を描いた本作。自分に自信がなかった女の子が、年上の男性に背中を押してもらいながら自分と向き合い成長する姿は、10代女子だけでなく30〜40代の女性にも共感を呼び支持を広げています。

10代だけでなくオトナ女子もハマる、2人の恋愛模様に描かれる本作の魅力とは何か――。

インタビューを通して見えたのは、イケメン華道家、歳の差カップル、溺愛という表面的な魅力だけではなく、誰かに自分を肯定をしてもらえる心地よさが読者に届けられていることでした。その背景にある七都サマコ先生のマンガ歴や、少女マンガに懸ける想いなどもお聞きしました。

自信がない人に、「そんなことないよ」と伝えたい

――『花とくちづけ』の着想のきっかけを教えてください。

七都サマコ先生(以下、七都先生):2020年8月から連載開始しているのですが、2019年の年末に前作の連載が終わって、すぐ次回作の話が始まりました。当初から次は「歳の差」恋愛を描きたいという気持ちがあり「先生と生徒」という設定を提案していました。

――華道家と女子高生に変えたのはなぜですか?

七都先生:もともと歳の差をテーマにしたい理由として、何か悩んでいる女の子を引っ張ってあげたいという想いがありました。どんな設定であれば、その想いが反映できるのかと考えていたんです。

そこで思い出したのが、数年前に放送された『高嶺の花』※1というドラマです。華道家の設定に興味があったので、華道家のヒーローはありなのでは?と思いました。まだそんなに知識がない状態でしたが、アイデアを編集部に伝えたところ、OKをもらい、いけばなのお話となりました。
※1 2018年にTV放送された華道家を主人公にした純愛ドラマ(主演:石原さとみ)

――先生ご自身、華道のご経験はあるんですか。

七都先生:単純に良いなぁと傍から見てた程度で、全く知識も経験もありませんでした。なので企画を出した時点では、いけばなをテーマにするのはかなり不安でした。

けれど、編集部が色々とサポートしてくださったので挑戦できました。自分一人では絶対描けなかったです(笑)。

――その後、かすみちゃんや咲人さんのキャラ設定はどのように行きついたのでしょうか。

七都先生:作品を読んでどんな風に感じてもらいたいかを考えた時に、少し自信がないような子に「そんなことないよ」って言ってあげられるマンガを描きたいなって想いがあったんです。

実は、私はハロプロのアイドルが好きで、その子たちのたまに少し自信なさそうな様子がチラっと見えた瞬間に、「そんなことないよって言いたい!」と思うことがあって……。

――なるほど。大丈夫だよ、と肯定をしてあげたいということですね。

七都先生:そうですね。ただ、正直私は彼女たちに何も言えないなと感じた時期もありました。

でもマンガを描く身だからこそ、同じように少し落ち込んでいる子が前向きになるようなメッセージを発信できたらいいなと思ったんです。

そんな想いから、女の子が不幸な目に遭うようなドロドロとした恋愛は避け、ちょっと控えめな女の子が自信を付けていく様子を描こうと意識しています。

――確かに、どこか自信のないかすみちゃんが少しずつ自分を認めてあげるというシーンは、序盤からありましたね。その後は8月の連載開始にむけて原稿を進めていかれたんですか?

七都先生:はい。でも1話のネームとか多分10何回くらい書いてます(笑)。

前作の時よりも今作の方が意識的に読者サービスに繋がるような、いい絵を入れよう!いいシーン作ろう!というのを凄く考えてて……。

あと題材的に、できれば感情のピークのところにお花があるといいなと思い、そこをクリアしていくためにどうしたらいいかを常に考えています。

いけばなシーンには嘘がない。だからこそ成り立つファンタジーとリアルの共存

――作中には多くのいけばなシーンが登場しますが、ご自身で考えているのでしょうか。

七都先生:実はいけばなは草月会※2の先生に考えていただいているんです。文化祭のシーンで出てきた他の生徒の作品などこちらで描かせてもらった箇所もありますが、メインキャラの作品は全てご提案をもらっています。
※2 いけばな流派。1927年勅使河原蒼風により創流。

――ファンレター※3を読んでいると、読者の推しポイントとして「絵が美しい」、「2人の関係が尊い」と並んで、「いけばながリアル」というのもよく見かけます。先生のこだわりの1つでもあるんですね。
※3 マンガアプリPalcyには作品ごとにファンレターを送ることができる機能がある。投稿の際に公開を選択したファンレターは一覧で誰でも読むこともできる。

七都先生:少女マンガなので、設定や人間関係は憧れを描くものでいいのかなと思っていて。リアリティーを持たせたら、もっと汚れている部分はあるのかもしれないですが、そこは描写しなくていいかなと。

その代わり、作画に嘘はつかない。

光の当たり方や、いけばなのいけ方など、あり得ないものにしないように、きちんとプロの方に依頼しています。

――少女マンガとして綺麗なフィルターは掛けつつも、描けるものはきちんとリアルに描く。このふたつの共存が作品の魅力に繋がっているんでしょうね。オトナ女子にも支持されている理由の1つだと思います。

ちなみに、草月会の先生とどのようにいけばなシーンを決められているんでしょうか。

七都先生:私から、ネームと共に場面や季節、キャラの心境をお伝えします。それを踏まえて、このお花や花材を使って、花器はこういうのがいいのではとご提案をもらっています。

――実際にいけた作品の写真を送ってもらうのでしょうか?

七都先生:デッサンをいただいて、それを基に私やアシスタントさんで作画していくという流れです。本当に絵の上手な先生で、ものすごく前のめりに取り組んでくださっています。

――まるで二人三脚ですね。

七都先生:本当に!文化祭のかすみがいける花は、「季節的にこの辺ですかね〜」と伝えていたんですが、先生から「かすみちゃんなら、コスモスがいいよ!」ってすごく推していただいて。じゃあそうします、と決めました(笑)。

――しっかり読み込んでくださってるんですね。

七都先生:とてもありがたいです。女性の先生に見ていただいているんですが、ご自身が普段はいけないような男性の先生のスタイルを調べた上で「咲人はきっとこう」といつも考えてくださっています。咲人さんならこういう花器を使ってそう、などと参考になる写真も送ってくださいます。

――その熱意が作品に加わっているからこそ、しっかりとした華道家の物語ができているんですね。もう一度、いけばなのシーンを1巻から読み返したくなってきました!

この作品でやっと少女マンガ家として馴染めている気がする

――単行本30万部突破、Palcyでもファンレターが日々届いている人気の作品ですが、先生ご自身として反響があるなと感じた瞬間はどんな時でしょうか?

七都先生:難しい……(笑)。

本作がきっかけで私のことを知ったという反応を多くいただくので、前よりも読者さんの幅が広がったのかなと感じています。

実は私のデビューは少女マンガ誌ではなく、スクウェア・エニックスの「月刊Gファンタジー」なんです。

――え!そうだったんですね!

七都先生:なので、どこか少しだけ少女マンガ読者さんに対しての緊張感みたいなのがずっとあったんですよね。

それが今回の連載で少女マンガ家として認識してもらえて、よそ者感が自分の中で薄れたかなと思えてきました。

これまで他人行儀だったのが、ようやく読者さんと一緒の輪に入れた感じがします!

少女マンガとは何か、今も研究を続ける

――先生のマンガ歴の変遷を教えてください

七都先生:幼稚園生ぐらいの時にはマンガを読んでいた気がします。少女期では「りぼん」「なかよし」「ちゃお」を全部読んでいました。

よく真似して描いてた記憶があるのは、「なかよし」では立川恵先生の『怪盗セイント・テール』、「りぼん」では種村有菜先生の『神風怪盗ジャンヌ』とかですかね。

そのあと「花とゆめ」も読むようになり、高尾滋先生が好きで真似してた時期もありました。その辺りから「週刊少年ジャンプ」など少年誌も読むようになっていきました。

――中学生ぐらいですか?

七都先生:そうですね。その頃には二次創作も含めマンガも描いていました。

大学在学中に某少年誌の編集部が周ってくるキャラバンみたいなのがあり、そこがきっかけで紆余曲折あり「月刊Gファンタジー」デビューに繋がりました。

その頃は自分の進む方向は少女マンガではないんだろうなと思ってたんです。

少女マンガは読んできたけれど、自分が描くのは違うかなと……。

――でも今は少女マンガの世界へ来ましたね!いかがですか?

七都先生:性に合ってました(笑)。

ただ、今となってはですが、少女マンガを描き始めた頃は、女の子を描くほうが好きで、男の子を描くのが本当に苦手だったんです。どうすれば少女マンガになるんだろうという葛藤はありましたね。

――そこを乗り越えるきっかけは何があったのでしょうか。

七都先生:少女マンガは男性陣を魅力的に描かねばいけない、と気付いて少しずつ研究をしていきました。でも、まだ描いてる時は本当にこれで大丈夫?と不安になっているので、読者の方から反応いただけるとホッとしてます。

自己肯定感の上がる癒しマンガとしての魅力

――先生の思う、『花とくちづけ』をオススメする人はどんな人でしょうか?

七都先生:癒されたい人ですかね。

全然ハラハラするマンガではなく、寝る前に読んでも寝付けないようなドキドキはないので安心してください(笑)。

――違う意味のドキドキはありますけどね!

七都先生:それならいいんですけど(笑)。

あとは、母娘で読んでますとコメントをいただくことがあるので、親子で読める安心感があるかなって思います。

――癒しと安心安全をお届けするマンガですね。

七都先生:はい。そういう意味で、咲人とかすみの関係もストレスがないようにしています。駆け引きがないというか……探り合いのない2人です。

――確かに読者としても安心して見守れる感じがします。

七都先生:「大丈夫だよ」って言ってあげたい、というもともとの考えを大切にして、あなたは大事だよという想いが分かりやすく伝わるように描いています。

そこをマンガでは1つのキュンポイントとして描写することで、その想いが届く読者さんがいたらいいなって思っています。

――読者からもコメントで「咲人さんのセリフで救われました」というのも見かけます。自分を肯定してもらえる、それが作品の魅力になっているんですね。

セリフのない、いけばなだけで語るシーンに注目

――先生のお気に入りシーンはどこでしょうか。

七都先生:3巻に収録されている縁側で指チューするシーンですね。

これはいいの思いついたぞ、と自分で思い描いてても楽しかったです。

あと編集長からも「めっちゃ良かった!」と言ってもらえたのは、夏の水着と花火のシーンですね。エモ感が出て、私も好きです。

心情的な意味で言うと、やはり言葉にしてなくても感情が花に出ちゃってるシーンは大事ですね。

――文化祭のシーンは、まさにそうですよね。

七都先生:セリフじゃなく花で説明してるシーンは、このマンガならではと思います。

5巻も無意識に気持ちがだだ漏れている花のシーンがあるので、ぜひ楽しみにしていて欲しいです!

――今後の作品の展開やみどころを教えてください

七都先生:これまでは、かすみから見て優しい咲人という描写が多かったので、今後はもう少し咲人の我が出てくるようにしたいなと思っています。ちゃんと描けるか不安でもあり、楽しみでもあります!

――今は咲人さんは年上で紳士な対応をしていますが、これから我が出てそれをかすみちゃんがどのような反応をしていくのか楽しみですね!

七都先生:これから2人はどうなる?という部分はありますが、基本的に2人はラブラブなのでそこは安心をしていただきたいなと。安心安全な作家としてやっていきたいですね(笑)。

――素敵な看板ですね!ぜひ母娘で好きなシーンを語り合って欲しいです。今日はたくさんのお話を聞かせていただきありがとうございました!

七都先生:ありがとうございました!

花とくちづけ 著者:七都サマコ

インタビュー・撮影・執筆: ネゴト / Micha

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