原稿のモチベアップに!アツい同人活動を描いたマンガ3選
オタクを主人公に据えたマンガはいまや一大ジャンルとなりました。
なかでも同人活動がテーマの作品は、リアルタイム勢にもあの頃楽しんでいた勢にも刺さる“オタクあるある″の宝庫です。
そんな同人活動マンガが大好物の筆者セレクトで、スタンスの違う同人活動が楽しめる3冊をご紹介させていただきます。
方向性は違えど、太陽のように燃えあがる3作3様の同人ライフ。
イベント前のモチベアップに!創作に取りくむ燃料に!
頑張るあなたの栄養剤になってくれますように。
『タイムスリップオタガール』
最初にご紹介する作品は、頭脳はアラサー・体は14歳の無敵ガールが主人公。
友達との初めての同人誌制作風景が描かれた『タイムスリップオタガール』です。
これがエモさというやつか…!
主人公の城之内はとこは、コミュケ(同人誌即売会)でお宝を買い漁るため仕事を頑張るアラサーオタク。
1996年(中学2年生)にタイムスリップした彼女が、2度目の90年代でオタ充しながら「マンガ家」になりたいという夢を見つけ、創作する楽しみを取り戻していく物語です。
「オヤジの栄光時代はいつだよ…」
「オレは今なんだよ!!」
赤髪のバスケットマンがそう叫ぶように、はとこもタイムスリップした「今」で新たなる栄光時代を築きあげます。
1度目の1996年が暗い過去になっていたはとこでしたが、2度目の1996年ではひょんなことから同人誌即売会に参加することに。
『タイムスリップオタガール』4巻 #17 ©佐々木陽子/COMICポラリス
大好きな友人達と「憧れの場所」へ、いざゆかん!アラサーオタクならではの知恵を総動員して山あり谷あり奮闘します。
果たしてはとこたちは無事に即売会当日を迎えることができるのでしょうか。
『タイムスリップオタガール』5巻 #24 ©佐々木陽子/COMICポラリス
はとこが友人と即売会に参加する体験はクライマックスにも関わる重要な転換点。
同人誌即売会編は全8巻中3〜5巻に細部にわたって描かれており、その重要性は言わずもがなでしょう。
単なる思い出エピソードとしてだけでなく、はとこの人生との関わり方にも注目して楽しんでいただきたいです。
今作が90年代を生きたオタク達から圧倒的支持を得たのも、「こんな風に過ごしたかった!」という夢のつまった青春時代を疑似体験できるからかもしれません。
そういえば放課後にはみんなで漫画を描いてたな。
みんなで「同人誌出したいね。」なんて話したな。
みんなは今もマンガ好きかな。
女子中学生たちがあーでもないこーでもないと奮闘する姿を眺めながら、あの頃を思いたまらなくおセンチな気持ちになってしまいます。
『タイムスリップオタガール』4巻 #17 ©佐々木陽子/COMICポラリス
みんなとだから楽しい!そんな初々しい思いに溢れた初めての同人活動体験をぜひお楽しみください。
『私のジャンルに「神」がいます』
『タイムスリップオタガール』があの頃の同人活動を描くなら、こちらはSNS全盛期の現在。
つづいてご紹介するのは、同人活動に励む女性たちの感情をテーマに描かれた『わたしのジャンルに神がいます』。
文章で二次創作活動に励む字書き達の姿がオムニバス形式でつづられた今作では、1人の天才字書き・綾城に憧れ、妬み、心乱され、それでも書くことをやめられないオタク達の姿が大きな共感を呼びました。
痛いほどわかっちゃうクソデカ感情
自分の好きを共有したい。
始まりはそれだけだったはずなのに、突如現れた神は全てが格上だった。
彼女の一挙手一投足が気になって仕方ない。
ブクマ数・頒布数・コメント数、あらゆる数が脳内を支配する。
どうしていつもわたしより上にいるの。
つーか、リプ欄のこいつ馴れ馴れしいな?
見えてしまうからこそ辛くなる。
キャラクターたちの抱く苦悩は、SNS時代だからこそでしょうか。
今にも爆ぜそうな巨大感情が、悔しいほど「理解」っちゃうんですよね。
『私のジャンルに「神」がいます』1巻 第5話 ©SanadaTsuduru/KADOKAWA
天才字書き・綾城と彼女に憧れ挑み続ける七瀬の物語を軸に、過疎ジャンル在籍・産後出戻り・マイナーカップリング愛など、多種多様なオタク達が登場。
どこかに必ずあなたがいると言いきれるほど、オタ活に励む女性の感情がみっちりと描かれています。
なかでも過疎ジャンルに生きる友川・むぎ・みつばのスタンスにはハッとさせられるものがありました。
アニメも終了し創作人口も減ってきた「ハイブレ」で活動を続ける友川は、渾身の新刊が販売数減という厳しい現実に直面します。
『私のジャンルに「神」がいます』1巻 第6話 ©SanadaTsuduru/KADOKAWA
心が折れてしまった友川は在庫の破棄を決意しますが、過疎ジャンルで生きるオタク・むぎ、みつばとの対話を通して自分の同人誌とあらためて向き合うことに。
『私のジャンルに「神」がいます』1巻 第6話 ©SanadaTsuduru/KADOKAWA
1年に1冊新刊を発行し続けるむぎが失意の友川に届けたアンサーは…。
自分自身が苦悩に直面しないと気づけない、当たり前だけど難しいその言葉にオタクとしてのあり方を考えさせられました。
あらゆる創作活動者を救う希望の光をぜひとも本編でご確認いただきたいです。
オタクを殺すのはオタク。そしてオタクを生かすのもオタクなのです。
『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』
トリを飾るのは、人気アイドル×こじらせ同人作家の幼馴染BL『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』です。
単なる属性だけの「同人作家」設定にとどまらず、作家のパーソナルな部分にガッツリ踏み込んだミナモトカズキ先生の意欲作。
同人活動の辛さ苦しさが赤裸々に描かれています。
すべては「壁サー」になるために
漫画を描いて
『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』1巻 第1話より引用
同人誌にして
イベントに参加して
存在価値を認めてもらわないと俺は…
きっと死んでしまうから
衝撃的なモノローグを語る主人公は、壁サーであることが存在証明である「壁サーに囚われた男」猫屋敷守。「筋肉百貨店」というサークル名で同人活動をしています。
たくさんの人に自分のマンガを手に取ってもらうこと=自分の絵が認められること、という強い思いが同人活動の原動力です。
『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』 4巻 第19話 ©ミナモトカズキ/徳間書店
同人活動に限らずですが、多くの創作活動において夢や楽しさに喜びを見出すことは美しいこととされる一方、猫屋敷くんのような「売れたい」「壁配置されることで実力を認められたい」といった自分の欲望に駆られることは慎むべきだ、と思わされる空気があります。
とくに商業ではない同人活動ではなおのことではないでしょうか。
猫屋敷くんも自分の言動とあるべきとされている姿の不一致に思いを巡らせ、葛藤します。
『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』 4巻 第19話 ©ミナモトカズキ/徳間書店
承認欲求の高さはモチベーションをもたらし、より高い目標へ誘ってくれる誘発剤になることも。
反面、欲求が高ければ高いほど挫折にぶちあたった時にはメンタルもろとも急降下してしまうという諸刃の剣です。
心の拠り所であった壁配置からついに転落…。
その時、猫屋敷くんはどうやって同人作家としてのスタンスを見出していくのでしょうか。
『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』 4巻 第21話 ©ミナモトカズキ/徳間書店
落ち込むところまで落ち込んでしまった彼に、こんな言葉を届けたいです。
『行きなさい猫屋敷くん!』
『誰かのためじゃない!あなた自身の願いのために!!』
すべての活動者に幸あれ!
楽しさだけじゃない。だけど苦しいだけでもない。1色ではない感情がグラデーションのように入り混じるから、同人活動は美しい。
この尊い営みが、今日も私たちにパワーを与えてくれます! 世の同人作家さんたちに、敬礼!
▼今回ご紹介した作品一覧