『ぼっち・ざ・ろっく!』ひとりぼっちのギタリストが、夢の舞台を仲間と目指す
「陰キャならロックをやれ!!!!」
キラキラとした世界に殴り込みを入れるかのような単行本帯のキャッチフレーズに、今でも心を奪われています。『ぼっち・ざ・ろっく!』は、女子高生たちのバンド活動が描かれた音楽マンガです。しかし、キラキラした眩しい楽園が描かれていると思って読み始めると、予想を遥かに超えた世界が待ち受けているかもしれません。
だって、主人公が「陰キャ(イケてない人)」なんですもの。
陰キャなんです
本作の主人公・後藤ひとりは、バンド活動に夢を見る女の子。キラキラしているステージの上に立つことを目標に、高校入学当初からメンバー集めに精を出していました。しかし、残念ながら勧誘は失敗に終わります。
それもそのはず。勧誘活動とは言いつつも自分からは話しかけず、注目されるためにギターやバンドグッズをこれでもかと身に付け、じっと座っているだけだったのですから。
そう、ひとりは根っからの「陰キャ(イケてない人)」なんです。
中学1年生の頃から内向的な性格のひとり。それでも輝く舞台に立ちたいと思い、1人きりでギターを練習し始めました。それも毎日練習すること6時間。常人離れした集中力です。やがて実力に自信がつき、バンド活動のために仲間を集めよう!と思い立つのですが…その頃には中学卒業を迎えていました。切なすぎる…!
結局友達は1人もできず、文化祭で輝くこともなく中学生活を終えてしまいます。もし少しでも人に話しかけていたら…と思うと、涙が止まりません。ギターの腕前は申し分ないけど、友達は0人。そんな残念な女の子・後藤ひとりが本作の主人公なんです。
でもちょっと、共感してしまう
本作を読み進めていくと、あれはまだ入り口だったんだ…と思わされるほど、ひとりのイケてないエピソードが次々と飛び出してきます。それも意外と「これは身に覚えがあるぞ…」というエピソードがちらほら。
例えば、喋り出すたびに必ず「あっ」とつけてしまうこと。あるあるですよね…。
「あっ、はい」「あっ、そうですね」。あっ、これ自分もやってるな…。他にもひとりは、お昼休みの校内放送で好きな音楽をリクエストしたら教室の空気を凍らせてしまったり、バイトにいきたくないから風邪を引いてみようと水風呂に入ったりします。あれ、身に覚えがあるエピソードがたくさん出てきたぞ…。
最初はおおげさだと笑えていたものも、次第に人ごとだとは思えなくなってきます。そして最後にはひとりの気持ちに共感してしまう筆者が、そこにはいました。
彼女は、やがて夢への一歩を歩み出す
バンドメンバーが集められずに公園でうなだれていたひとりは、キラキラと眩しい女の子・虹夏に「今日だけサポートギターしてくれないかな!」と声をかけられました。この出会いをきっかけに、変わり者のベーシスト・リョウを加えた3人の「結束バンド」というバンドで活動を始めます。
そうして3人は出会った初日に行ったライブを、残念な結果で終えました。
原因は数あれど、これまで1人きりでギターを弾いてきたひとりの、バンドとしての実力不足もその1つ。紙面からはひとりの悔しさが伝わってきます。しかし同時に、これまでにない感情も届いてきました。
それは暖かく自分を受け入れてくれた虹夏たちに、自分の本当の力で恩返しをしたいということ。
本当のひとりは、インターネットに演奏動画をアップロードすると話題になるほどの実力はあるんです。そんな彼女が不得意なりに人と向き合い、新しい音楽に挑戦する。一体これからどうなっていくんだろう。そう思わされる、ひとりの成長も見逃せません。
その音楽は、心に響く
最初は残念なエピソードに心がえぐられてばかりでしたが、1巻の後半では、すっかり1人の女の子の成長に釘付けでした。肝心の音楽エピソードも実感がこもっており、バンド活動経験者なら「あるある!」と共感してしまうのではないでしょうか。バンド活動の経験者にも、ひとりぼっちの経験者にもオススメしたい1冊です!