<あらすじ>1880年ごろ、とある海辺の街をポーツネル男爵一家が訪れた。ロンドンから来たという彼らのことはすぐに市内で評判になった。男爵夫妻とその子供たち、エドガーとメリーベル兄妹の4人は田舎町には似つかわしくない気品をただよわせていたのだ。彼らを見たものはまるで一枚の完璧な絵を見るような感慨にとらわれた。実は、その美しさは時の流れから外れた魔性の美。彼らは人の生血を吸うバンパネラ「ポーの一族」であった。市の外れに家を借りた一家は、人間のふりをしながら一族に迎え入れるべき者を探し始めた。そして、エドガーが興味をひかれたのが、市で一番の貿易商の子息であるアラン・トワイライトだった…。
<書店員のおすすめコメント>少女まんが界に伝説を作った、萩尾望都の代表作がこの『ポーの一族』シリーズ。
実は当初から連載ものだったわけではなく、小出しに短編を描いて人気を集めることで「まだ長編連載をやるには早い」と渋っていた編集部を認めさせ、連載化にこじつけたド根性シリーズであります。
本作の主人公は、少年の姿のまま永遠の時を生きる吸血鬼(パンパネラ)・エドガー。
物語は最愛の妹・メリーベルと養父母との別れから始まり、永遠の伴侶に選んだ少年・アランとの旅路、そしてエドガーの出自やパンパネラになった経緯をバラバラの時間軸で語る形式です。
舞台も18世紀の貴族社会から20世紀のギムナジウムまで実に様々。200年以上にわたるエドガーの人生から成るエピソード群が、圧巻の構成力でまとめられています。
儚げな美少年の吸血鬼、永遠の若さを手に入れた存在、バラのエキスで生きる耽美な設定……当時としてはどれをとってもあたらしい、異色の少女まんがでした。
さらに今でいう「ブロマンス」に近い、ほのかな「少年愛」の要素もまた、多感な乙女たちの心をわしづかみにしたものです。
いかほどの人気だったかは、1974年に発売された単行本の初版3万部が3日で完売した、という記録からも察せられます。
エドガーの永きに渡る生と出来事を全15編で描いたのち、本作は1976年に一時完結。
しかしその後も宝塚舞台、ドラマ化などで度々注目を集め、2016年からはなんと新作エピソードの連載が復活!いまだに話題が尽きないのだから驚きです。
著者いわく「エドガーは大好きだから絶対に殺さない」とのことなので、今後もおそらく(彼女に意欲がある限りは)永遠の美少年・エドガーの旅は終わらないのでしょう。
<あらすじ>不朽の名作「ポーの一族」から40年。ついに新作の続編がコミックスに!! 永遠の時を生きるバンパネラ(吸血鬼)であるエドガーとアランは、1940年代戦火のヨーロッパ、イギリス郊外でナチスドイツから逃れてきたドイツ人姉弟と出逢う… そしてその出逢いが新たな運命の歯車をまわす―――
<書店員のおすすめコメント>「まさか、私が生きているうちにポーの新作が出るなんて!」
2016年、多くの萩尾望都ファンを狂喜乱舞させた『ポーの一族』40年ぶりの新作がこちら。
15編の短編から成るエドガーとアランの永遠の旅はすでに完結しているのですが、本作は本編で明らかにされなかった過去軸の「スキマ」を埋める物語として描かれています。
時代設定は第二次世界大戦中の1940年代(本編で言うと『ピカデリー7時』の後)。
ロンドン空襲で被災したエドガーとアランは、イギリス・ウェールズ地方のアングルシー島に疎開します。
そこで二人は、ナチスドイツから逃れてきた幼いドイツ人の姉弟と出会うのです。
弟を必死で守ろうとする気丈な姉・ブランカに、メリーベルを心から愛していたかつての自分を重ねて、惹かれ始めるエドガー。
そんな新キャラクターとエドガーのロマンスに(作中のアランのように)嫉妬したくなるところなのですが……ここはもちろん『ポーの一族』、淡い恋物語では終わりません。
まさかの「ポーの一族」以外のパンパネラ一族の出現や、これまで明かされてこなかった「ポーの村」の恐ろしい秘密。
中には往年のファンの幻想を打ち砕きかねない、衝撃的な真相も出てきますが……そこは本作を読んでのお楽しみ。
新エピソードは今後も執筆予定で、現在は『ポーの一族 ユニコーン』(こちらはなんと2016年が舞台!)が連載中。
新年号になっても、まだまだ『ポーの一族』の熱狂はおさまりそうにありません!
<あらすじ>冬の終わりのその朝、1人の少年が死んだ。トーマ・ヴェルナー。そして、ユーリに残された1通の手紙。「これがぼくの愛、これがぼくの心臓の音」。信仰の暗い淵でもがくユーリ、父とユーリへの想いを秘めるオスカー、トーマに生き写しの転入生エーリク……。透明な季節を過ごすギムナジウムの少年たちに投げかけられた愛と試練と恩籠。今もなお光彩を放ち続ける萩尾望都初期の大傑作。
<書店員のおすすめコメント>「少年愛」と聞けば竹宮恵子の名著『風と木の詩』と共に、この『トーマの心臓』が思い浮かぶという方も多いでしょう。
本作の舞台はドイツ。全寮制のギムナジウム(中高一貫学校)で起こった少年・トーマの自殺シーンで始まる物語は、当時の少女まんが界に大きな衝撃をもたらしました。
読み始めは上級生・ユリスモールへの恋に破れたトーマが、あてつけのように投身自殺をはかった「少年同士の痴情のもつれ」に見えるストーリー。
しかし、トーマに瓜二つの転校生・エーリク、ユリスモールを支えるルームメイト・オスカーらが協奏していく物語を読み進めると、それが読者のミスリードであるとわかるのです。
キリスト教が背景にあるがゆえの信仰と苦悩。罪の意識に苦しむ少年を赦し、周囲にある愛に気づかせてくれる天使の献身。そのすべてが明らかとなるラストは、大きな感動と涙を誘います。(古くから心清らかな美少年が「天使」と呼ばれる理由の答えをもっともわかりやすく描いたまんがこそが本作である、と私は思います)
繊細な年頃の少年達が描く、愛と赦しの人間ドラマ。純度の高い少年愛は、すなわち人間愛なのだと説いてくれる深いお話です。
個人的には「叶うなら記憶を消して、もう一度読みたい!」と願うほどの衝撃作でした。
今から本作を読む幸運なあなたは、初見のあの感動と余韻をどうか味わってください。花の乙女の頃にこのまんがで育った同士のあなたには「記憶を消したつもり」になって(笑)、久しぶりにお読みいただければと思います。
少女まんが界に永遠に残る国宝作。あなたの本棚の特等席に、ぜひどうぞ。
<あらすじ>宇宙大学受験会場、最終テストは外部との接触を絶たれた宇宙船白号で53日間生きのびること。1チームは10人。だが、宇宙船には11人いた!さまざまな星系からそれぞれの文化を背負ってやってきた受験生をあいつぐトラブルが襲う。疑心暗鬼のなかでの反目と友情。11人は果たして合格できるのか!?萩尾望都のSF代表作。
<書店員のおすすめコメント>1975年より「別冊少女コミック」にて連載されたSFマンガの傑作。1977年にTVドラマ化、1986年にはアニメ映画化。さらに2004年~2016年の間に4度もの舞台化を果たしています。
ストーリーは、宮沢賢治の童話『ざしき童子のはなし』から着想を得た重厚なミステリーSF。宇宙船という密室空間で大学入試テストが行われ、緊張感に満ちた事件が次々に起こる……という当時の少女まんがらしからぬ本格SFものです。
物語の読みごたえもさることながら、51以上の惑星から集まった種族・個性ともに豊かな「11人」の受験生も非常に魅力的。
その中でもフロルベリチェリ・フロルのかわいらしさ(いわゆる「かわいい」ではない)は秀逸!本作は彼(彼女?)を愛でるための1冊といっても過言ではありませんので、ぜひこの愛くるしいキャラクターに注目の上、お楽しみください。
<あらすじ>母とふたり、ボストンで暮らす15歳の少年ジェルミ。友達に恵まれ、ボランティアと勉強に励む幸せな生活を送っていた彼の日常は、ある男との出会いで一変する。母・サンドラの婚約者で大金持ちの英国紳士・グレッグ。絵に描いたような理想の義父の中には、恐るべき悪魔の顔が潜んでいた。サンドラの幸福を盾に、ジェルミに肉体関係を迫ったのだ。苦痛と苦悩に満ちた地獄の日々が始まった。愛と憎悪、喜びと悲しみ…綾なす複雑な人間の感情を、萩尾望都が熟練のペンで描き切った壮大なるヒューマン・ドラマ、開幕。
<書店員のおすすめコメント>1992年から2001年にかけて「プチフラワー」に掲載された長編連載。1997年に第1回手塚治虫文化賞優秀賞を受賞した作品でもあります。
母の再婚相手から性的虐待を受け続け、徐々に精神崩壊に陥っていく少年の苦しみと狂気をありありと描く、ショッキングなサイコ・サスペンス。
狡猾な義父に「体を差し出せば母との別れ話を撤回する」と告げられた主人公・ジェルミは「母の幸せを守りたい」一心で取引を受けるのですが、主人公と母の関係に共依存の気がある(母を「お母さん」や「ママ」ではなく名前で呼ぶなど)ために、事態はより泥沼化していきます。
救いに至るまでが長く、暗く重たい話なので人を選ぶ作品なのは間違いありませんが、性的暴力の描写に抵抗がなければぜひ刮目していただきたい一作。人間の狂気の一端を垣間見れるはずです。
<あらすじ>西暦2999年、世界は静かな消滅に向かっていた。赤く汚染された海、不妊を引き起こすウイルス。人びとは生殖能力を失い、この世界はただ1人の聖母マザと、彼女の産んだ数万の息子たちで形づくられていると信じられていた。だが、そのマザが祭礼の日に暗殺されてしまう。マザの暗殺者グリンジャと疫病神と恐れられるアシジンが「夢の子供」キラに出会うことから物語は始まる。
<書店員のおすすめコメント>1985年から1987年にかけて「プチフラワー」で連載されたSFファンタジー。
舞台は環境汚染が進んだ西暦2999年の地球。不妊ウイルスの蔓延で繁殖能力をもった女性が生まれなくなり、男しかいなくなった世界(!)という凄絶な世界観です。
ただ一人の女性「聖母マザ」が数万人の「息子」を産むという、まるでミツバチのような社会(これを掲題の「マージナル」と呼ぶ)。
しかしそのマザが暗殺され、世界に「新たな聖母」が必要になったとき「キラ」という性をもたない夢の子供が現れる……という救世主的な主人公が織りなすドラマチックなストーリーになっています。
男ばかりの世界のバランスを保つため同性愛が当たり前だったり、キラをめぐってイイ男たちが三角関係を繰り広げたりと、正統派のSFながらしっかりと耽美愛な要素もアリ。
これだけてんこ盛りの内容で「当初は半年の予定ではじめた」というのにも驚きですが、結果的にはまるまる2年の長期連載で完結しました(そりゃそうでしょう)。
扱われている命題は往年のSF作品でも多く描かれてきたものですが、そこをそうと感じさせずに読者に独自の世界を流し込んでくるのが萩尾流。SF好きは必見の作品です!
<あらすじ>西暦2052年。他人の夢に入り込むことができる「夢先案内人」の渡会時夫は、ある事件から7年間眠り続ける少女・十条青羽の夢をさぐる仕事を引き受けることになった。そして、その夢の中で青羽が幸せに暮らす島の名<バルバラ>をキーワードに、思いがけない事実が次つぎと現れはじめ…!?
<書店員のおすすめコメント>21世紀を迎えて最初の萩尾望都作品であり、第27回日本SF大賞受賞作となった本作『バルバラ異界』は、夢と現実が交錯するハードな近未来SFです。凄惨な過去を持つ眠り姫の少女・青羽、人の夢の中へ潜る“夢先案内人”渡会、そして彼と離婚した妻との間の息子・キリヤ…。3人をとりまく偶然とも必然ともつかぬ運命が「バルバラ」という一つのキーワードのもとへ収束していきます。
青羽の夢の世界は、多少のブラックユーモアを交えつつもいっけん荒唐無稽なユートピアのよう。けれど、登場人物ひとりひとりの物語が進むにつれ徐々に夢の世界を形作る要素ひとつひとつに重大な意味があったと気付かされ、これが新世紀のモー様SFなのだと唸ったものです。
「夢から醒めるな!」と叫びたくなる重層的で濃密なネタバレ厳禁の一作、お楽しみください。
<あらすじ>16世紀フランス。ステキな王子様との結婚を夢見る美しい王女・マルゴ。宗教対立が激化する中、マルゴの運命は翻弄され…!?恋愛、結婚の秘密に分け入る萩尾望都初の歴史劇、ここに開幕!!
<書店員のおすすめコメント>2019年現在も連載中の長編最新作は、画業50年を誇る萩尾望都にして初の本格歴史まんが。人に歴史ありといいますが、自身も波瀾万丈の人生を送ってきた萩尾女史が題材に選んだのはフランス宗教戦争の16世紀を愛に生きた先進的女性・マルゴ王妃ことマルグリット。
当時といえばガチガチの貴族社会。未婚女性は政治の道具としてほとんど人形のように扱われるのが常でした。マルゴに対する母親カトリーヌ母后の態度もまた、現代の基準で言えば間違いなく“毒親”のそれ! ですがマルゴはあくまで自分の気持ちに正直に、傍から見ればお転婆で奔放な生き方をしたのです。そこに脚色はありません。50年目を迎えた大ベテラン・萩尾望都の筆力で歴史に残るありのままに、時に心をえぐる鋭さで描かれた絶世の美女にして王侯貴族サークルの3アンリクラッシャーの姫・マルゴの生き様に今日も強く生きる闘志をいただきます。
<あらすじ>その日、生まれてきたのはとても可愛い女の子だった。だけどなぜか母親の目には、その子の姿がイグアナに見える…。母と娘の間に横たわる愛と憎しみの葛藤を描いた表題作ほか、両親にスポイルされた少年が人生をみつけるために戻らなければならなかった場所「カタルシス」、アバンチュールへの一瞬の迷い「午後の日射し」、コミックス未収録の短編「帰ってくる子」など6編の異色傑作集。
<書店員のおすすめコメント>自身の両親との関係を見つめなおすため、1980年代から徐々に「親子の確執」を作中に練りこむようになった萩尾望都。
本作は、そんな彼女が厳格だった母との対立を基にして描いた短編まんがです。
腹を痛めて産んだ二人の娘。そのうち長女だけが、醜いイグアナに見えてしまう……。
娘を愛せない母と、母に愛されない娘の苦悩が「イグアナ(生理的に受け付けない存在のメタファー)」というファンタジー要素を交えてリアルに描かれています。
「毒親」という概念は今でこそ広く浸透していますが、当時は「親が感情的に子をいじめることがある」などとは誰も口にしなかった時代。
子がどれだけ過剰で理不尽だと感じたとしても、親の言動はすべてしつけ。しつけは愛ゆえの行為。
それを虐待だと訴えようものなら「恩知らず」と蔑まれる、そういう時代でした。
そんな世に反発するように、毒親育ちの子が母親の呪いから解放されるまでをわずか50Pで描き切った萩尾望都は、やはり天才であると言わざるを得ません。
ただの不幸な子供の身の上話では終わらない、そして両手放しのハッピーエンドでもない。
本作の主人公・リカが辿り着く「痛みを伴いながらつかみとった幸せ」は「毒親」に呪われたすべての人々の目指すべき場所、救いとして長く読まれることでしょう。
ちなみに萩尾望都の母娘観をもっと知りたい方には、対談集『母と娘はなぜこじれるのか』(NHK出版)の併読もおすすめです。
<あらすじ>ヒュールリン・ギムナジウムの転入生エーリク。そこで彼は自分の分身トーマに出会った。2人を結ぶ罪と愛の秘密とは…。名作「トーマの心臓」の原型となる「11月のギムナジウム」、12年の後にめぐりあった双子の兄妹の歌声がイブの夜に流れる「セーラ・ヒルの聖夜」、少女と3人の妖精のメルヘン「塔のある家」など7編を収めた魅惑の初期短編集。
<書店員のおすすめコメント>『トーマの心臓』の姉妹編として1971年に発表された短編。
この作品の発表から3か月後に、登場人物や設定が酷似した『トーマの心臓』が連載されたことから「11月のギムナジウムは、トーマの心臓の原型なのだ」と多くのファンに信じられてきました。
しかし2007年に出版されたエッセイで「着想順は『トーマの心臓』が先だった」という衝撃の事実が明かされ(レビュー著者もこれには大変驚きました)、今では正しい認識での再評価、考察が進んでいます。
ギムナジウムの設定や主要登場人物(トーマやオスカーなど)は『トーマの心臓』と似通っていますが、『トーマの心臓』では一度も顔を合わせることのなかったトーマとエーリクが大げんかをしたり、オスカーの性格が少し違ったりと内容としてはほぼ別物。
「ありえたかもしれないパラレル・ワールド」として『トーマの心臓』と併せて読まれると、面白さがグッと増す一作です。
ちなみになぜ『トーマの心臓』より構想が遅かったはずの本作が先に発表されたかは、単に「短編だったので雑誌掲載されやすかったから」なのだそう。
<あらすじ>ライラックの茂みの中で始まった、ヴィーとビリーの幼い恋。しかし幸福は不意に終りを告げ、第1次大戦の暗い渦が時代を覆う。失意の日々、見上げる空には希望のありかをさししめすかのように、いつも飛行機が高く飛んでいた……。傑作長編の表題作ほか、世紀末ロンドンを舞台に錯綜する恋愛劇が進行する「ばらの花びん」、少年と青い瞳の少女の時を超える悲恋物語「マリーン」を収録。
<書店員のおすすめコメント>結婚する相手が、一番好きな人とは限らない。
そんなほろ苦いラブストーリーは世に数あれど、この『ゴールデンライラック』ほど登場人物の誰も憎むことができない、清々しい愛物語はないでしょう。
本作はデビューから約10年を迎えた、1978年発表の長編まんが。
この頃は絵柄の過渡期でやや骨太な作画になっていますが、第一次世界大戦時のロンドンが舞台の歴史ドラマを綴るにはむしろ相応しいタッチと言えます。
幼い少年少女が育む青春と初恋の日々。しかし彼らの幸福な生活は、悲しい事故と戦争を機に一変してしまうのです。
苦しい貧乏暮らしを脱するために、初恋のビリーではなく裕福な男爵・ハーバートの求愛を受けるヒロイン・ヴィクトーリア。
「容姿は私の武器よ!最大に利用してやるわ」と啖呵を切る強さと「わたしウソをついた。二人に愛されてることを利用して」と自らの卑怯さをはっきりと受け止める真っすぐさ。
彼女の脆さと強さ、美しさは大人になればなるほど心に沁みるものがあります。
そんなヴィクトーリアを「らくだのコブの水」のように決して尽きない愛と呼ぶビリーも、ずるいのはお互い様だとして「私の方は一番愛してたんだからいいんだ」とすべてを許すハーバートもまたイイ男なのですよ。
全員が人間臭くて、臆病だったり卑怯だったりする面があって、それでもなお魅力的。
少女まんがでここまで愛くるしくて奥深い人間ドラマを描けるとは、さすがは少女まんが界の神様と呼ばれるお人です。
この名作はプロのまんが家達にも深く愛されており、『ハチミツとクローバー』を著した羽海野チカは「(ハチクロは)ゴールデンライラックのような展開をイメージした」とも発言しています。
現在の人気作家も手本に求める、少女まんがの古典的名作。ぜひとも、映画1本を観る気分でお開きください。