浅野いにお
誰もが嫉妬する珠玉のカリスマ
私、先生と同い年なんですが、この頃やっと”浅野いにお信者である”と素直に認められるようになりました。
本作はそんな私を含めた旧サブカル層のカリスマである浅野いにおらしさが詰まった代表作。簡素な落書きで描かれる主人公プンプンの歩みを追っていく途中、読者は「幸せになってほしい、もう何も起きないでくれ」と願うことになるでしょう。時間があるならイッキ読み推奨。
内容は一言では言い表せないほど構成が練られており、最終的には登場人物全てが繋がったようななんとも不思議な気持ちに。
ハートフルな雰囲気で始まるのにドメスティックで、イカ臭くて血生臭い絶望に襲われるこの作品。中二病から大二病を拗らせたアラフォーさんだと叔父にも母にも共感できてしまうところがありそうですが、この”共感”が気持ちよい。もちろん辛くもある。
あぁ、どこかに南条さん落ちてないかな…ズルいよプンプン。
(南条さんと結婚したい人/30代/男)
高校を舞台にして描かれるものといえば、学内のヒエラルキー、家族との関係、恋愛、そして性。いつの時代も高校生の問題や悩みなんてそうそう変わるものではなく、誰もがそうした作品に自分の青春を重ねてノスタルジーに浸ったりするのではないでしょうか。しかし! この作品はそんな安易な共感を許しません! 青春が美しいなどと誰が決めた? と言わんばかりのその内容は、例えるならば闇の中で汚泥に足を奪われて沈んでいくような、重く、暗く、汚れたもの。序盤こそどこにでもいる男子高校生の平穏な日常の話なのですが、ある出来事が起きてからは物語が急転直下。平凡な高校生のささやかな毎日、そして心が、汚れた大人たちによってこれでもかと蹂躙され、文字通りの破滅へ向かって突き進んでいきます。あまりにも救いの無い展開と描写には、戦慄と、そしてやり場のない怒りを覚えます。読後はとてもモヤモヤした気分になるのですが、それでも確実に心に何かを残す作品です。
(kkkkk/30代/男性)
2018年の全国高校野球選手権大会は記念すべき第100回大会。この節目の年に、あだち充の代表作にして漫画史に残る不朽の名作『タッチ』はついに待望の電子版配信開始となりました!運命的なものを感じますね。
『タッチ』といえば、上杉達也・和也の双子の兄弟が、幼なじみである浅倉南の夢を叶えるため、明青学園野球部で甲子園出場を目指す物語。明青の将来のエース候補で女の子にモテモテで、優等生を絵にかいたような弟・和也と、自由気ままに好きな事だけをするやんちゃな兄・達也。正反対に見える双子の互いに対する想いや、南をめぐる繊細な心情などなど、野球だけではなく、高校生の青春模様がギュッと詰まっています。
そして、上杉兄弟のあまりにも突然で残酷な別れ。悲しみの中立ち上がり、和也のぶんまで懸命に投げる達也の姿に胸が熱くなります。
漫画好きなら一度は読みたい傑作。連載当時夢中だった方はもちろん、まだ読んだことがないという方も、どうぞお楽しみください!
(M・A/女性/30代)
テロリストのトシとモン、そして突如現れた謎の大熊(物語途中からは“怪獣”と呼称)ヒグマドン。ふたつの「圧倒的な暴力」と、それに振り回される日本、そして個人を凄まじい熱量で描き切った個人的大名作。僕は現実世界を舞台にここまでリアルに(そして大量に)暴力、死、破壊を描いた作品を他に知りません。とにかく暴力は痛そうですし、死は理不尽で唐突です。何のドラマもなくただ「居合わせたことが不運」と断ち切られる命。初見時、そのリアリティに打ちのめされました。日本各地に爆弾テロを仕掛けて回り、警察署を襲撃、人質を取って政府に「平和な世界」を要求するトシモン。通り道をただただ破壊しながら進むヒグマドン。ふたつの暴力が秋田で邂逅し、繰り広げられる大破壊。「俺は俺を肯定する」「命は平等に価値が無い」などなど描写と相まって凄まじい強度を持つセリフ。徹頭徹尾暴力的なのに、読後にはなぜか尊さや美しさを感じてしまうという、思春期に読むと間違った方向に価値観が形成されかねない作品です。故・深作欣二監督が実写化を図っていたと言われていますがぜひ見てみたかった……。
(k5/男/35歳)
荒川弘
漫画史に、記憶に、鮮烈なインパクトを刻む
平成を代表する漫画のひとつである『鋼の錬金術師』。2度のTVアニメ化に加え、2017年には実写映画化もされるなど、完結してしばらく経つのに人気は衰え知らずの著者の代表作です。このコメントを書くにあたり再度一気読みしました。もう何度読んだかわかりませんが、やっぱり面白いんです。命の尊さを感じさせるシリアスなストーリーなのに読後どんよりしない、むしろすがすがしいあたたかさで胸がいっぱいになるような。ラストシーンはもう特に……あぁ、また読もう(笑)。アニメや映画で話題になってるからハガレンは知ってるけど、実は原作読んだことない、というかたもいらっしゃると思います。ぜひ一度、読んでいただきたいです!
(M・A/女性/30代)
1話完結作品というのはスキマ時間に手軽に読めて好きなのですが、他方、創り手としては毎回一話でまとめるのって大変だよなぁとか思うのです。毎度オチつけないといけませんし。石黒正数はそんな1話を、笑いやら、驚きやら、ちょっとしたホロリやらを情感たっぷりに彩ってくれる魔法使い的な作家だと個人的に思っています。読めば読むほどその魅力と奥深さにハマっていきます。
さて、本作も基本的には1話完結形式で、主人公の女子高生歩鳥(ほとり)がバイト先の喫茶店「シーサイド」や高校生活の日々に、ちょっとした不思議を交え展開されていきます。とにかく本作が、他と一線を画すのは、歩鳥が過ごした高校3年間を時系列バラバラにして構成されており、かつ巻数どおり読んでも違和感を感じさせないところでしょう。1話1話の起承転結が、もっと大きなくくりで起承転結になっている大胆な構想。そして矛盾なく整合性をとるための緻密な計算。そこから広がっていく物語は、読むたびに新しい発見を与えてくれ飽きさせません。何気ない会話だと思っていたことが、別の話とリンクしているのに気づいた時は鳥肌ものですよ。単純に何も考えずに読むも良し、じっくり読み込むも良し、ご都合に併せて是非お楽しみください。
(六文銭/35歳/♂)
本作は1991年から1999年まで週刊少年チャンピオンで連載されました。主人公の範馬刃牙と、刃牙の父親で地上最強の生物と評される範馬勇次郎との親子関係を通じて「強さ」とは何かを問い続ける格闘マンガ『刃牙』シリーズの第1作にあたります。
物語は「地下闘技場編」「幼年編」「最大トーナメント編」の三部構成になっています。幼年編では刃牙が強さを追求するバックグランウドが描かれているのですが、これがとても悲しく、ほかのシリーズと比較するとどこか湿っぽさが感じられます。しかし緻密で迫力のある格闘シーンはそれをかき消して余りある興奮と感動を与えてくれます。全42巻に渡って描かれる物語は一度読み始めると制止が効かないので、その点のみご留意ください。
(マルヒロ/30代/男)
伊藤潤二先生が生み出したキャラクターの代表と言えば、やはり富江ではないでしょうか。伊藤潤二先生の原点でもあります。富江、とにかく美少女なのです、本当に。殺してバラバラにしてしまいたくなるほどに…。読めばきっとあなたも富江の魅力に憑りつかれてしまうことでしょう。そして、手を掛けてしまう。それでも、富江はこの世から消えはしないのです。富江は何度も何度も再生し、そして増殖していくのですから。ああ、頭から富江が離れない、離してくれない…。「富江」以外の作品もどれも傑作過ぎてたまらないっ!ホラーコミック界の鬼才が放つ恐怖名作集。伊藤潤二先生の描く美しくもグロテスクでどこかシュールな恐怖の世界に一度足を踏み入れみてはいかがでしょうか。
(ゆー/25歳/女)
井上三太
ストリートの自由と退廃。そして狂騒
読者にこれほどまでに大きな衝撃を与え強烈な印象を残した作品は、なかなかないのではないでしょうか。後出の関連書籍の壮そうたる顔ぶれが、この作品の影響力の大きさを何よりも明確に物語っています。私も初めて手に取ったときは、ただただ気持ち悪い怪物が人々を襲いまくるパニックホラー作品だと思っていたのですが、読み進むうちにこれは何か違うぞ…! と鮮烈な印象を受けたのをよく覚えています。作中の怪物である「寄生生物」たちは高い知能を持っていて、さらには主人公のミギーをはじめ「寄生生物」ならではの思想を持ち始める者が現れます。彼らの立場で語られる言葉や価値観が、人間目線でのものの考え方を根底から揺さぶってくるように感じました。個人的にパニックホラーが大好きなのですが、普通は、コミュニケーション不能なわけわからないものが「敵」です。一方でこの『寄生獣』で描かれているのは「生物学的な天敵と意思疎通しつつ互いの生存のために戦う」という異常な事態です。連載当時は「エコブーム」で「地球を大事に」というフレーズがそこかしこで飛び交っていました。しかし、もしこんな恐ろしいものがほんとに存在したら、私たちは彼らを「愛すべき地球の仲間」と呼ぶことができるでしょうか? そんな問いかけもまた、本作が「哲学的作品」と呼ばれ同ジャンル作品とは一線を画する白眉たる所以だと思います。岩明作品には、この「生存競争」というテーマが通奏低音として流れている…そんな解釈でほかの作品も読んでみるとまたおもしろいかもしれません。また、岩明先生というと「抜群の構成力」と評されるのをよく見かけますが、本作もまた「全10巻に過不足なくすべて集約されている!」と誰もが読後に感嘆することと思います。正直かなり凄惨なシーンが随所に出てきますので、おいそれとおススメしにくい作品ではありますが、やっぱり漫画界の最高傑作のひとつと言わずにはいられない大傑作です。
(S太/男/39歳)
大今良時
生きる意味ってなんだろう?心をつかみ、えぐる問い
障害やいじめなど、少年まんが誌で扱うには軽くないテーマが描かれ、大変な反響を呼んだ『聲の形』。この作品には決して、正義を通す完全無欠な人間は出てきません。主人公の石田将也は小学生6年生の頃、聴覚障害を持つ転校生・西宮硝子をいじめ、石田と一緒になって西宮をいじめていた友人たちは一転石田をもいじめ…。序盤はこんな描写が多くあり、正直読み進めるのがつらく感じました。でも、完全無欠な人間なんていませんよね。だから、この作品に心をえぐられる。思い当たる節を感じてしまう。そう思います。西宮はその後すぐに転校し、2人は離れ離れになります。しかし5年後、石田は心に秘めて生きてきた気持ちを伝えるため、彼女のもとへ。それをきっかけに石田に「生きる目的」が生まれます。2人の“こえ”、どうかじっくりお聞きください。
(M・A/女性/30代)
おおひなたごう
ポップでいてシニカル。シュールかつハートフル
不思議な銃を持ってボンデージっぽいこのスーツを着たキャラ達、どこかで一度は見たことあるんじゃないでしょうか。アニメ化・実写映画化・舞台化にパチンコ化など大ヒットした本作は実は非常にシリアスなSF。話ごとの挿絵の美女(本編と無関係)が癒やし。 奥先生の作品は心理描写が濃く、追い詰められたキャラ達の関係が読んでいてとても面白い。見た目からヤバいユニークな敵宇宙人の前に何が何だかわからないまま放り出されて子供も老人も(重要そうなキャラでも)関係なくバタバタと餌食になる。結構グロいとこもあるので苦手な方はご注意。 ガンツに招集されたメンバーは現実世界では何らかの原因で死んでしまった人たち。そしてただ戦わされるだけではなく、宇宙人と戦うことで得られるポイントを貯めると褒美が選べるルール。これがまた曲者で…後半の流れは胸熱です!そして最後がまたよかった…私は大好物でした。
(背表紙本棚アートを推進する人 / 80年代生まれ / 未定)
押切蓮介
愛と哀しみの独創的「俺クオリティー」
著者を語る上でこの作品を外すことはできないでしょう、ってことでトップバッターです。 ちなみに自分も本作でヤラれてから、気がづけば「押切ワールド」に引き込まれ、はてはWEBで描いている漫画や、イベント情報までチェックしてしまっている始末。独特の絵柄とギャグ、ホラー、人情話、そして心抉る物語など著者の作風の広さは圧巻ですので、本作しか読んだことないって人は、これを機に是非チェックしてみてください! さて、本作の魅力なのですが、なんといっても「テレビゲーム」「駄菓子」そして少年時代の「淡い初恋」…といった、私のような30代おっさんをノスタルジックに刺激する要素がモリモリなところでしょう。時代背景を丁寧に切り取ったストーリー展開。ゲームのキャラ達が語りかけてくるというゲーム好きにはたまらない演出。まるで自分の周りにもいたかのような登場人物達が、リアルな存在として眼前にせまり、我々を「あの時代」へと連れて行ってくれるのです!経験に根付くものが多いですが、それゆえに共感した人は、どハマりすること間違いなしでしょう!
(六文銭/35歳/♂)
「思春期のころの自分」って、大人になった後であれば、ああ痛かったなとかもっとこうしていたらよかったのにって振り返るのは容易いと思うんです。でも思春期真っ盛りにいる若人にはそれがわからんのです。そして、わからなかったあの頃の右往左往の様子をそのまんま「ほら君もこうだったよね!」と突きつけられるのは大人でもなかなかにキツいんです。そんな作品。だって物語のスタートが「主人公・春日がヒロインの体操服を盗む」ですよ。そこからはクソこじらせ女子・仲村とクラスのマドンナ・佐伯とのゴタゴタによる春日の中学時代の破滅があり、すべてを失ったのち、再生のために出てくるのが高校編ヒロインの常盤。破滅も再生もすべては己の自意識と、そこに密接にかかわる女子。男子は女子によって変わるんだというのは普遍的な事実ですね。恥やプライド、女の子という思春期男子をかたちづくるものをこれでもかと煮詰めている作品ゆえ、アニメ化や映画化等、ほかのクリエーターからのヒキが多いのもわかる気がします。
(kkkkk/30代/男性)
オジロマコト
たわわ魅せテクニシャン
富士山さんの着替えを覗いてしまったカンバがその衝撃から勢い余って告白し、OKをもらうところから物語がスタートします。付き合ったはいいものの彼氏彼女っていったい何をするの? とわからないながらも、とりあえず「日々一緒にいる」時間をふたりでキャッキャしながら過ごすのです。その些細な日常の魅せ方がとってもお上手なオジロマコト先生! 付き合いたてのカップルほど囃し立てたくなりますよね~。チビのカンバと大きい富士山さん、身長差があるからこその距離感と行動に見ているこちらもドキドキ! ラブハプニングシーンが特に良き。いいぞ~もっとやれ~赤面しろ~~~!(笑)デコボコカップルの青春ラブに萌え癒されるので是非読んでみてください! いいなぁ私もダイナマイトボディに包まれたいなぁ。
(みーさー/アラサー/女)
河合克敏
大長編で綴る、若者たちの瑞々しい成長の軌跡!
通称「帯ギュ!」。1年生だけの5人でスタートした浜高柔道部の大躍進に、ページをめくる手が止まりません。 リアルな試合シーンは手に汗握り、また、5人それぞれに用意された「魅せ場」は読んでて高揚感がすさまじい! 特に、巧が勝ちまくって会場中が魅了されるシーンとか鳥肌モノ。あのとき私は会場の観衆と一体になりました…! さらに、巧たちと並行し同時進行で描かれる天才少女・来留間麻理(いいキャラでしたね!)たち女子柔道部員の活躍にも胸が躍りますし、大人気キャラ・桜子の「伝説の柔道着ブルマ」のフェティッシュな1シーンとか、見どころが尽きない…! 一気に読んじゃうパワーがある作品です。読み終わる頃には「柔道サイコー!」「柔道しようぜ!!」って叫びたくなっているはず! 柔道モノといえば熱血スポ根が定番だった当時、このスタイリッシュなキャラ造形とストーリーで柔道漫画の新機軸を打ち出したと言われるのが本作ですが、柔道という題材に限らず、後の作品でも見られるように、登場人物たちが己と向き合い打ち克っていく場面をひとつひとつ丁寧に描くことで、読者を納得させ作品の世界に引き込んでいくことこそが河合先生作品の真骨頂なのではないでしょうか。「部活って、いいなあ~」と思わずにはいられなくなりますよね!
(S太/男/39歳)
連載当時は「K-1」登場のほんの少し前、今日の“総合格闘技”が“異種格闘技戦”という形でブームの片鱗を見せている世の中でした。そんな中、陸奥圓明流という「人殺しの技」とその継承者・陸奥九十九という人物を生み出し、“地上最強の証明”という実現不可能な夢のように思える果てしない挑戦、その途上に多くのメッセージを残したものが本作『修羅の門』。 九十九の闘いは常に、相手の持ち味を全て出し尽くさせ、受け、見切り、最後に実力で上回って勝つ。だから、観客も対戦相手も、そして読者もその結果に納得せざるを得ない。闘いのあとに残るのは、傷だらけの身体とお互いへのリスペクト。強敵と闘い続ける九十九の背中から、あなたはどんなメッセージを受け取るでしょうか。
(ニッカ大好き/30代/男)
本作は主人公・石垣直角と城代家老跡取りの北条照正くんの友情を描いた小山ゆうのデビュー作なんですが、何よりも最高なのは本作の第13巻から14巻にかけてのラスト直前。無能でバカだと実の祖父はおろか城内皆に馬鹿にされる照正くんはついにわざと頭がおかしくなったような言動をするようになってしまいます(このあたりの照正くんがまた最高にかわいいんですが)。そんな照正くんにも一縷の望みを持つ元城代家老でお目付け役の立花は一計を案じ、照正くんを信じ続ける直角を使い、見事更生させるのですが、この一幕がすばらしい流れなんですよ。友情と信頼の大切さに何度読んでも感動してしまいます。直角、いい奴!
(Y・I/30代/男性)
見惚れるほどの高い画力と小気味よい会話劇をメインに、時折みせる独特の性嗜好が良いスパイスとなっている沙村広明作品。
作者にしか出せない、唯一無二のその感性にハマる人も多いはず。私もその一人です。
さて一発目は沙村弘明作品で私が初めて読んだ、かつもっとも有名な「無限の住人」です。
出会いは、とある友人から「壮大なシスコン漫画」だと言われて読み始めました。結局、彼の意図することの真意は最後までわかりませんでしたが、それ以上に圧倒的な画力の華麗さと敵味方問わずクセのあるキャラクター、血なまぐさい剣戟アクションには魅了されました。
ではそのストーリーなのですが、「血仙蟲」という虫を体に寄生させ、不死となった主人公、万次と、江戸で急激に台頭し始めた「逸刀流」という無頼派集団に両親を殺害され、仇を討つ旅に出た少女、凜。
凛の中にかつての妹の面影を重ねた万次は、用心棒として二人で「逸刀流」との戦いに身を投じる。少しSF風味がかったアクション時代劇です。
個人的に本作の魅力は、2点だと思っています。
1点目は、万次が不死ですが最強ではなく、むしろ泥臭く敵と闘い続けるところです。
それこそ、手足がもげて、血反吐を吐きのたうちまわっても闘い続けます。およそ不死の持つイメージとは真逆で、人間臭さを演出しています。
もう1点は、敵味方問わず、ブレることない信念のある闘いをするところです。
万次だけでなく、敵には敵の闘うべき信念とも言える理由が明確で、それを軸に時に残酷に、時に情けをかけるといった姿が格好良いのです。
重厚な設定に裏打ちされたストーリー展開と、幾重にもスネに傷のある極悪な人間たちによる痛快絵巻をとくとご覧あれ。
(六文銭/35歳/♂)
1995年から2013年まで「週刊ヤングマガジン」で連載された、走り屋たちの熱い公道バトルを描く作品。通称「イニD」。数々のメディア化を果たし、アニメ・OVAをはじめ、実写映画も。2014年夏には3部作となる「新劇場版 頭文字D」が公開されるなど、今なお熱い人気の作品です。ハチロクやRX-7FDに乗って、群馬県の峠をモデルに秋名や赤城で繰り広げられるバトルが実に熱い!暗闇の山中、いつの間にか背後に現れる「ハチロク」!自分のマシンの方が高性能なのに、何故か追いつかれてしまう…。ぞっとするようなテクニックと潜在能力で、ライバルたちを次々に圧倒する姿は読んでいてスカッとします!高橋涼介・啓介の2人、高橋兄弟率いる赤城レッドサンズや、妙義ナイトキッズの中里、庄司など魅力的なキャラクターも多数登場。不敗伝説を持ち、常に頂点に君臨し続けていた赤城の白い彗星・高橋涼介と、挑戦者である拓海の1戦は手に汗握って読んだ方も多いはず。世代を超えて永遠に愛される伝説の名作です!
(モツ煮/30代/男)
清野とおる
奇人・変人どんと受けて立つ!清野のルポ漫画にハズレ無し!!
清野とおるの代表作、『東京都北区赤羽』!! この漫画が電子書籍化した当時は、スタッフの間で大ブームが巻き起こり、ebookjapanが選んだ年間1位にさんぜんと輝きました! 2011年当時、大手出版社の大ベストセラー漫画を抑えての栄えある一位に、一部の社員からは「この漫画が1位でいいのか!?」と疑問の声も上がりましたが、それでいいんです!! ほどなくして、映像化をはじめ本作の認知度があっという間に上がっていったのは当然のことなのです。なぜ、この漫画は面白いのか!? あらためて考えました。それは、混沌の地・赤羽に棲む怪人物達と清野とおるとの素の交わりがあるからではないでしょうか。路上の芸術家ペイティさんや居酒屋ちからのマスターとママ、ジョージさん、その他次から次に濃厚キャラクターとの競演は予定調和とは一切無縁。お笑いのオンパレードです。著者がルポ漫画の第一人者の礎を築いた記念すべき名作なのです!!
(T・M/50代/男)
高橋留美子
読まなきゃ、おしおきだっちゃ!
「とにもかくにもラムちゃんがかわいい!」読んだ方はたぶん全員がそう思うことでしょう。漫画やアニメは見たことないけどラムちゃんは知っているよって方も多いと思います。ラムちゃんをこの世に生み出してくださった高橋先生には感謝しかございません。 『うる星やつら』は1978年に短期連載として始まりました。この時の高橋先生はなんと大学生。大学を卒業すると同時に週刊連載になり、単行本は34巻と長期連載作品となりました。 あたるのことが大好きなラムちゃん。それに対し、色んな女の子にちょっかいを出すあたる。きっと二人は思い合っているはずなのですが、ラムちゃんになかなか好きと言わないあたるにやきもき…。二人の未来は一体どうなる!?
(まとゆ/30代/女)
土田世紀
魂削り克明に描く人間賛歌
土田世紀作品は、胸エグるものが多く涙なしで読むこともできないので、非常に濃厚かつハイカロリーなのですが、人生の節目節目に、思い出しては読み直し、号泣し、心に刻まれ、奮起し、またある日思い出して…を繰り返しております。名作と呼ばれるものは、得てしてそういうものなのだと思います。
レビュー1発目は、土田世紀作品の中でも特別な1冊。私的に、墓場まで持っていきたいマンガの筆頭「同じ月を見ている」です。
その内容ですが、悲惨な境遇の中でもひたすら純愛を貫く主人公ドンちゃんと、彼に放火の罪を押し付け少年院送りにした友人てっちゃん。そして、ドンちゃんを想い続ける病弱な令嬢エリ。この3人でおりなす友情と純愛が交差する至高の人間ドラマです。
私、もう何度読んだかわかりません。そのたびに、嫉妬とか欲望とか全く無縁なドンちゃんの美しい生き様を突きつけられ、つまらないことで悩んでいる自分の襟元を正す思いでイッパイになります。
格好とかステータスではないんです。人間の品格は。
頭が良いとか、何かに秀でている必要ないんです。人間の尊さは。
人として、美しく生きていくバイブルとして、一生読み続けるでしょう。
(六文銭/35歳/♂)
永井豪
画業50周年突破!! 前人未踏の世界を切り拓き続ける巨匠
日本のマンガ史に燦然と輝く傑作『デビルマン』。その創作の舞台裏を明かしたのが本作。知る人ぞ知るところだが、永井豪氏はマンガの神様・手塚治虫氏ですらなしえなかった週刊少年マンガ誌5誌同時連載という前人未踏の記録を持つ。不眠不休で机に向かう体力と尽きることのないアイデア、驚異的な筆の速さがそれを支えていたわけだが、『デビルマン』はそれまでギャグマンガを主戦場としていた永井氏が、ストーリーマンガの世界へと意図的に転身を図った野心作だ。劇中『デビルマン』の制作に影響を及ぼすからと、同時連載作品を次々に中止していく描写がある。物語の流れ上、連載中止を宣言された側の言い分はそれほど描かれていないが、読者の支持を得ながら、それでもその連載を中止する決断は『デビルマン』に賭していたものの大きさを窺うことができる。そして表現の面でも、当時の少年誌では表現できなかった描写をいまの漫画家の筆力で再現しているのが新しい。思わず「こんなセルフリメイクの手法があったのか!!」と膝を打つほどだ。『デビルマン』創作の裏側で作者が何を考え、思っていたのか? その一端をぜひ本作で体感してほしい。
(希/40代/男)
ヤンキーものではあるものの、主人公たちがあまりヤンキー的悪さをしないという稀有なマンガ(敵キャラはめっちゃ悪さする)。一応ヤンキーものなので、抗争的な話もありますが、面白さのキモは仲間同士のワチャワチャしたノリを描く日常パートとギャグだと思ってます。ヒキョー者・三橋と真面目な伊藤の主人公コンビ、他校のライバルであるバカ番長・今井とその子分・谷川。基本はこの4人を軸に物語が展開するのですが、とにかくバカ番長・今井がかわいい。三橋に何度騙され、陥れられても頑張る今井が愛おしい。そもそも主人公の特徴が「ヒキョー」ってすごくないですか。連載開始が88年ということもあり序盤は今読むと古さを感じるかもしれませんが、読み進めていくうちにそんなことは気にならなくなります! 2018年秋にはまさかのドラマ化も決まりましたし、普遍的な面白さを持った作品ではないでしょうか。
(kkkkk/30代/男性)
ハロルド作石
つまらない世界をおもしろくできる仲間に出会った
藤崎竜
圧倒的画力と世界観で進化し続ける異能
作者にとっては、最も有名な作品の一つ累計2200万部のモンスター作品です。 内容とか語るのも今更感ありますが、個人的に本作の魅力だと感じている点は、中国の古典怪奇小説「封神演義」を原作としながら、作者の類稀なるセンスによって大胆にアレンジしたところでしょう。 SF、ファンタジー、ギャグ、バトルの要素を取り入れつつ、ちょいちょい美形キャラも出して…といった上質な少年漫画として仕上がってます。「史記」における「キングダム」同様、有名原作を忠実に再現したから面白いわけではないのです。ストーリー構成や登場人物のキャラ付けなどは作家の力量が、そのまま反映されるのです。本作がここまでヒットしたのは、作者のもつ独創的発想と幻想的なデザインに、摩訶不思議な古典小説が、見事にマッチしたからでしょう。
(六文銭/35歳/♂)
「何のまんがが好きなの?」と聞かれたとき、答えが2パターンあります。誰でも知ってるような有名どころの大名作。そして、知らない人もいるかもしれないけど自分の好みや価値観を作ったような個人的大名作。『うしおととら』は自分にとってそのどちらにも属する珍しい作品だと思います。とにかくもう好きな場面、シチュエーションが多すぎるんですが、ひとつ例を出すとするなら「以前出てきたキャラクター総登場での最終決戦」という終盤の展開。すべてのキャラ、エピソードはこのためにあった…!と感じる流れには胸を熱くせざるを得ません。その点以外でもとにかくこの作品は最終決戦の熱量がハンパないので、まるで自分もともに戦ってるような気分になります。また、オトナになってから読み返すと、主人公・うしおがあまりにもまっすぐなので、「自分は真っ当に生きているのだろうか?」なんて考えてしまったり……。自分のなかで“少年まんが”というジャンルにおいてはこの作品を超えるものはないのではないかと思ってます。
(k5/男/35歳)
当時の中高生でこの作品を知らないやつはいなかったんじゃないかと思うくらい爆発的にヒットした古谷実の連載デビュー作。ド直球バカの前野、矢吹ジョーに憧れるバカ・井沢、クソムッツリスケベの田中、悪臭ハーフ・田辺、イケメン粗チンの木之下、そんな個性派メンツを束ねる一番平均的な中学生男子・竹田。こうして特徴を書いているだけでキャラ立ちとは何たるかを教えられる気がします。大人になった今読み返すと、「バカでエロくて奇行に走ってみたりそのくせヘンに悩んでしまったりする思春期の中学生」を描いた作品としてはとても秀逸なんじゃないかと。作中における青春・性欲・ギャグのバランスがいいんですね。初期は望月峰太郎ライクな描線太めの絵柄だったものの、後半にかけてどんどんスタイリッシュになっていったのも印象的。後半、竹田が将来について考えるという回で「普通がいちばん素晴らしい」という考えが出てくるのですが、これこそがこの後の作品でも繰り返し描かれる古谷作品根底のテーマだと思っています。そもそもギャグとは「普通」(常識)を疑ったり揺さぶったりするものなわけで、本作で徹底的にギャグをしたからこそ、その後「普通とは?」を徹底的に問う作風が生まれていったのではないかと思うのです。
(kkkkk/30代/男性)
外薗昌也先生の作品と言えば、ホラーまんがのイメージが強くありますが、『犬神』はそれとは違い、どちらかというとSFチックな内容となっています。 「明日世界が終わればいい」そんなことを考えながら日々を送っている主人公・史樹はある時、不思議な犬と出会います。その犬の耳には”23”の刻印が。史樹はその犬に”23(にじゅうさん)”という名前を付けかわいがります。その”23”という数字がこの作品でのキーナンバーとなっていきます。 誰もが一度は願ったことがあるであろう「不老不死」。ある人物が望む、「永遠の命を手に入れたい、ずっと若いまま、子供のままでいたい」そんな欲望に巻き込まれる世界の中で、大切な人を守るため、壊れゆく世界を守るため、史樹は”23”と共に戦いに向かっていきます。 内容としてはシリアスで、人間の闇や欲など、暗い部分が多く描かれている作品ですが、その中で”23”のかわいさにとても癒されます。史樹と”23”の、人間と動物という種別を超えた友情に何度も涙しました。 話の展開や、内容、結末、すべてが衝撃的だったこちらの作品。一度読み始めれば、最初から最後までページをめくる手が止まらないでしょう。
(まとゆ/30代/女)
星野之宣
未来と過去の深淵を描く、SF・伝奇ミステリーの大家
ついに宇宙への進出を果たした人類。開拓者たちの行く先には、さまざまな運命が待ち構えていた。宇宙船の機内で、とある惑星で、起こる衝撃のドラマの数々──。本作は全3巻に集約された壮大なSFオムニバスです。一遍一遍が未知なる世界へのロマンに満ちていて、宇宙ジャンルが好きな人にはたまらない作品。本作の連載が始まったのは1984年(双葉社「月刊スーパーアクション」)。当時は宇宙モノの全盛期でした。映画もアニメも傑作が多数。漫画でいうとこの作品が該当すると思います!作品名をはじめ、多くのSF映画へのオマージュが随所に盛り込まれているので、そちらのジャンルに詳しい方なら「あの映画のシーンだ!」とさらに楽しさが増えることでしょう。
(鈴木/30代/女)
作者名よりも作品名がメジャーになった感もある、星野氏の実質的な商業誌連載作。浦沢直樹氏のもとでアシスタントをしていた星野氏が「週刊少年マガジン」(以下、週マガ)の新人賞で入選を果たし、『哲也-雀聖と呼ばれた男』(以下、『哲也』)の企画を温めていた編集部からの意向を受けての連載だったといいます。ちなみに星野氏自身は麻雀では、浦沢氏のほかのアシスタント仲間のカモにされていたそうです。連載当時「週マガ」は読んでいたものの『哲也』の個性的な絵を受け入れられず、正直あまりリアルタイムでは読んでいませんでした(爆)。改めて読み直すと『MMR マガジンミステリー調査班』の「な……なんだって」に通じる引き、『金田一少年の事件簿』で金田一が犯人のトリックを解き明かすまでの流れが、『哲也』に登場する玄人(バイニン)のイカサマを解き明かす流れに通ずるものがあり、同時期の掲載作を血肉にしながら連載を継続していたことが分かります。第7巻までの畳みかけるような物語展開は、原作の秀逸さもあると思いますが、作者の構成力あってのものだと思います。第29巻以降にはギャグに振った哲也の意外な表情が登場したり、全巻を通して読むのはたいへんですが、通読することによるご褒美がたくさん用意されている作品でもあります。
(希/40代/男)
人の一生は短いけれど、優れたアートは後々まで世の中に影響を与えるんだな、と読んでいてつくづく思います。モナリザやゴッホ、ゴーギャンから始祖鳥の化石や銭湯の絵まで。作中、フジタはあらゆる”美”に対して形はどうあれ敬意をもって向かい合い続ける。そしてその行為も他者に影響を与えることになり、例えば16巻のW杯チケットの話などが生まれる。奥深く永遠の存在である世界にフジタという案内人を立て、誰しもが楽しめる娯楽として成立させている名作。そう、この作品自体もアートといえるんじゃないでしょうか。芸術の意義をここまで意識することができるようになったことに感謝、そして連載再開に感謝です。
(マウナケア/50代/男)
三田紀房
「面白い漫画」は計算で作れる!!方法論の魔術師
大学全入時代と言われて久しい昨今ですが、東京大学には未だ根強い「東大信仰」とでも呼ぶべき神格化がなされている。2019年現在ですらしぶとく残るそれに2003年にケンカを売ったのが本作『ドラゴン桜』。
とても正攻法とは言い難い徹底的にシステマチックな東大受験ピンポイント対策を描き、それでいて“特進クラス”の2人、学力ゼロからスタートした問題児の水野と矢島は東大受験へ辿り着くまでにちゃっかり人間的にも成長する――そんな矛盾したような構図によって、「教育」のあり方を問うように固定観念をぶち壊していきます。
こうして語られるは高校を出たらやがて二十歳を過ぎ大人になっていく子供たちへ向けた、一般企業や家業のやりくりで苦労してきた三田先生ならではの実体験からくる説得力に満ちたメッセージ。あるいは、無為にティーンエイジを過ぎ去らせてしまった自分たち大人への悔恨を込めたメッセージ……?
(平凡学歴コツコツ庶民/リーマンショック直撃世代/女)
皆川作品において最大ボリュームの物語です。総ページ数のみならず、作中で描かれる事件や敵勢力、主人公らが手にする能力のスケール等々が軒並み最大級! 文句無しに氏を代表する作品と言ってよいでしょう。この作品のスゴいところは、未知の機械生命体“ARMS”をめぐって少年漫画的な大規模変身・能力バトルが展開しながらもいわゆるインフレを感じさせないところ。いや、世界はどんどんヤバくなっていくのですが(なにしろ誰か一人でも力に振り回されれば即人類滅亡の危機ですからね)、戦いの鍵を握るのはあくまで心技体で言うなら心と技、あと頭脳。ちょっと反則気味なジョーカー的存在の通りすがりのサラリーマンなんかもいたりしますが、最後まで登場人物全員が明確な役割をもって機能しています。こういうキャラの使い方の無駄のなさ、皆川先生の良い所だと思ってます。
(フェード中毒/30代/男)
剣道少年の六三四の成長を描く感動の物語! 見てください、六三四の幼年期のその健気なこと…! まずここで泣きます。ちょっと生意気な少年時代、そして挫折を経て、また大きくなっていく六三四の姿を追っていると、もう他人とは思えなくて、親戚のおじさんのような気持ちで応援しながら読んでしまう自分がいたり…。たびたびの修練でメキメキと強くなっていく様子も読んでいて爽快ですが、なんといっても丁寧に描かれる六三四の成長ぶりに「六三四、ますます男前になったなあ」と、また泣きます。読者が年をとると感想が変わってきますね! 年齢問わず圧倒されるのが試合のシーンの緊迫感。これは当初から、まさに試合が命がけのものとして描かれていて、作中で実際に父・栄一郎がその命を落とすシーンを私たちが目にしているからだと思います。誰よりも強かった父。もういなくなってしまった父。その背を追い続ける六三四の姿に、心が打たれまくる作品です。
(S太/男/39歳)
望月作品といえば、まずは「ワイルド7」でしょうが、いま推したいのが本作。「新選組」作品の中では珍しく、上洛を経て芹沢鴨一派との決着を迎えるまでの創成期が舞台で、望月作品の特徴ともいえるトーンを使わない描写が最高に映える作品です。では、いまなぜこの作品を選ぶのか? 白状しますと、望月氏が亡くなる直前に語った「最後の作品は『新選組、北へ』。五稜郭でいかに土方をカッコよく死なせるか」が、まだ心に残っているから。本作でも流れるような剣さばきを見せている土方歳三が、最後にどんな台詞を吐き立ち回るのか。もはや妄想でしかありませんが、そんな想像をしつつ読んでいただければ、氏の遺言を読者に伝えられた気がしてうれしい限りです。
(マウナケア/50代/男)
安田剛士
スポーツを通して描かれるチームの絆
サッカー好きというわけではないけれど、読み始めると(つくしの成長を追いかけはじめると)止まらなくなりました。仲間のためにできることを必死で探す柄本つくしと天才肌のサッカープレーヤー・風間陣の関係性を軸に、聖蹟サッカー部の面々やライバル校のメンバー、十傑と呼ばれる超絶プレーヤーの存在など、サッカーの試合はもちろん、登場するキャラクターそれぞれの背負うドラマに力点が置かれて物語が展開していきます。『Over Drive』で群像劇に挑戦した作者が『一瞬の風になれ』を通して、チームの伝統(先輩から受け継がれてきたバトンを次の世代につなぐ)を取り入れ、『振り向くな君は』で「サッカーが好きだからサッカーマンガを描くのは違う」と辿りついた境地が、本作に活かされているように感じます。物語の行く末も楽しみですが、それ以上に、安田剛士氏の描く作品から目が離せません。
(希/40代/男)
安永航一郎
ヤバネタと変態ギャグの目くるめく世界へようこそ
安彦良和
そこに生きた「人間」を描くことで伝わるメッセージ
安彦良和氏の漫画作品には、大きく3つのモチーフがあります。1つはイエスやジャンヌといった歴史上の人物を扱ったもの、もう1つは古事記、日本書紀など古代史を扱ったもの、そして近代史をバックグラウンドにしたもの。本作はそんな安彦近代史三部作の最初の作品です。小・中・高と学校の歴史教科書ではあまり触れられることのない辻政信や石原莞爾、甘粕正彦、孫逸文、植芝盛平、川島芳子といった人物が登場し、まるで本当にそうであったかのような物語が展開していきます。本作が成功していると感じるのは次の3つの要素。1つは、舞台を建国大学に設定し「五族共和」の視点から満州にアプローチしたこと、2つめは主人公・ウムボルトを日本人とモンゴル人の混血児として設定したこと、3つめはレフ・トロツキーの存在を主人公の出生にまつわるエピソードに加え、読者を時にミスリードさせながら、物語を牽引する要素としていること。この3つがお互いに絡み合いながら、ウムボルトの成長やロマンス、過去の記憶をめぐってミステリアスに展開していきます。戦中、戦後で日本人の歴史認識が大きく変わり、ある意味臭いものには蓋といわんばかりの近代史を、現在の先入観や思想性にふりまわされることなく「その時代の人はどう考え、どう生きたのか」という同時代感覚で見つめ直そうと取り組んだのが本作です。ネーム量が多く、『アリオン』とは対照的な位置にありますが、物語作家としての強い矜持を感じる作品です
(希/40代/男)
山本おさむ
圧倒的カタルシスで魂を揺さぶる、漫画遺産の名手
史上最年少記録を次々と塗り替える天才棋士・藤井聡太の活躍には目を見張るばかりです。『聖 -天才・羽生が恐れた男-』は今から、20年前に30歳を目前にして亡くなった、伝説の棋士・村山聖を描いた、事実を基にしたフィクションコミック。幼少にして腎臓の難病を患う村山は入院中に将棋を学び、その魅力に取りつかれ棋力を身につけます。そして、奨励会入門からプロデビューまで、同世代の羽生善治を超える異例のスピードで駆け上がります。それは、名人位という目標への道程に対して、自らの難病を照らし合わせて、時間との勝負でもあったのかもしれません。文字通り、わが身を削って生命を将棋に賭けた怒涛の対戦に胸を打たれます。そして、この作品の面白さは、主人公・中村の師匠森信雄との絆の深さや羽生との激戦の数々だけではなく、非凡な才能が集う中で上を目指す、あるいは生き残るための熾烈な戦いに挑む棋士たちの姿にあります。
(Mash/50代/男)
現在も隆盛を続けるバトルマンガ。主人公の敵として登場したキャラクターがやがて主人公サイドになり、さらなる強敵と共闘する。『ドラゴンボール』を例に出すまでもなくバトルマンガの王道はパワーゲームに次ぐパワーゲーム。『バビル2世』もその系譜に連なるが、本作が他作品と異なっているのは能力に限界(「ここまでしかできない」)を設定し、その領域内で戦うところ。裏を返せば「限定された能力でいかに相手を出し抜くか」といった心理戦が展開されている。「砂漠に学生服」は『ジョジョの奇妙な冒険 第3部』の元ネタだそうだが「限定された能力で戦う」ところも、もしや参考にしたのではないか……? と勘繰ってしまう。ヒロインとの恋愛や置かれた状況に対する主人公の葛藤といった、膨らませればより話が広がる要素をストイックに排除しているのが本作を本作たらしめている。何度か読み返すと、バビル2世に幾度となく倒されてしまう、バビル2世になり損なったヨミに感情移入してしまうのは自分だけだろうか……。
(希/40代/男)
渡辺航
ほとばしる躍動感がクセになる!
“弱ペダ”の愛称で親しまれている、著者の代表作にして21世紀のスポーツまんがの代名詞といっても過言ではない本作。主人公の小野田坂道が秋葉原に通いつめているオタク、という現代風要素を交えつつも、内容はスポ根マンガの王道を行き、とにかくアツい…アツいんです!
自転車ロードレースを題材にした作品名だけあり、描写も疾走感満点。レース中のシーンは特にハラハラドキドキ、胸が熱くなります。
メディア化多数の本作なので「TVアニメで“弱ペダ”を知った」というかたも多いかと思います。2019年11月現在、64巻まで刊行されている長編ですが、スピード感のある作品なので、あっという間に読み進められますよ。この機会にぜひ、お楽しみください。
(M・A/女性/30代)
青木琴美
すべての女子の心を掴む禁断の恋
主人公の逞と幼なじみの繭は、これ以上にないほどのベストカップルです。自分が20歳まで生きられないと知った逞は繭を突き放すようになるのですが、繭は絶対にあきらめません。どうあがいても相手を忘れることができない2人。「運命の恋人」って、きっと逞と繭のような2人を呼ぶんだろうなと思わずにはいられませんでした。この作品は、結末を読者の想像に委ねる形で終わります。そのため、最終話がSho-Comi本誌に掲載された当時はたくさんの物議を醸したものでした。しかし私は、読者が読んだ数だけ、逞と繭の未来があるのではないかと思います。今回私も10年ぶりくらい読み返しましたが、最終話を読んだ後に想像したのは、初めて読んだ時とは違う結末でした。もしかすると、次に読み返す時はさらに別の結末を感じるのかもしれません。また新たな逞と繭の未来と出会うために、これから先の人生も共に歩んでいきたい。心からそう思える作品です。
(はせこ/30代/女)
いくえみ綾
緻密な言葉選びと描写で読者の心に光を灯す
本作は一見単なるオムニバス作品のようにも見えるのですが、様々な人物の物語が展開していく中で、関係ないように見えていた人たちがいろんなところで繋がって、最終的にある2人の男女を中心とした物語に集約されていきます。この作品を読むと「人の人生は、まわりにいる多くの人の人生が絡まり合ってできているのだな」と気づかされるんです。私の人生も誰かの人生を構成する一つになっているのかもしれないと思うと、日々を大切に生きたくなります。そして人生が続いていく人もいれば、途中で終わってしまう人もいて…。『潔く柔く』は、大切な人を失った過去を持つ“残された側”である男女が、その過去を背負い、向き合い克服し、恋をして、生きていく姿を描いた物語です。
個人的にはクールな梶間くんの物語が好きです。あなたの一番共感できる物語が、きっとあるはず。
(あんちゃん/20代/女)
金田一蓮十郎
フツーの恋愛に飽きちゃったあなたへ
現実では絶対に起こりえない展開、だけどいつの間にかのめり込んで夢中になってしまう。漫画、特に恋愛系のジャンルを読む際の醍醐味ですが、金田一作品ではそれを存分に楽しむことができます。 義理の姉弟の恋愛を描いた本作『ライアー×ライアー』もそう。 主人公の大学生・湊はある日、悪ノリで女子校生の格好をして街を歩いていたら、あまり仲の良くない弟・透と遭遇! バレたくない一心で彼女は、自分は“みな”という名の別人だと嘘をつきます。そして透はそれを信じてしまい、あろうことか、みなに一目ぼれしてしまいます! 「いやいや毎日顔あわせてるんだし、気づくでしょ!」と思いつつも「信じちゃう透が純粋でかわいい」と感じてしまうのが金田一作品の為せるワザ、でしょうか(笑)。 本当は姉だと言いだせないまま、徐々に透に惹かれていく湊。膨らむ罪悪感や葛藤とは裏腹に縮まっていく2人の距離。そして、透が“みな”についた、湊に関する嘘とは…。 とっさの嘘から始まる恋、2人は本当の気持ちを通わせることができるのか。どうか、見届けてください。
(M・A/女性/30代)
友情、初恋、将来への不安……眩しい青春の1ページが詰まった『坂道のアポロン』を読むと、懐かしさと清々しさで胸がいっぱいになります。年を経て失くしたなにかが、漫画の中でキラキラキラキラ輝きまくっていて、目が眩むような感覚を覚えるほどです。ほんとにほんとに素晴らしい作品で、2009「このマンガがすごい!」オンナ編第1位、第57回小学館漫画賞一般向け部門受賞、と各漫画賞もばっちりゲット済み。 作者の小玉ユキさんは『坂道のアポロン』で「理想の男の友情」を描いたといっています。転校生で周囲に心を閉ざしがちだった薫が、不良として恐れられるクラスメイト・千太郎と出会い、そしてジャズと出会い、変わっていきます。 はじめは千太郎に助けられるようなかたちだった薫が、もともと持っていた芯の強さが表に現れるようになり、本音でぶつかりあえる関係になっていきます。いつも豪気な千にも、やがてピンチは訪れるのですが、その時は薫が支えになったり…。余計なことは言わず、互いが互いの救いとなる二人の関係が本当にかっこいいですね! まさに「理想の男の友情」といえるものがここに描かれていると思いました。 このキャラクターたちがなんでこんなに魅力的なのか、あらためて考えてみたのですが、どのキャラも等身大でありながら、あと一歩の勇気を持って踏み込んでいく姿が描かれているところかなーと、そんな気がしました。例えば自分の記憶にある「あの時」を物語に重ね合わせ、もう一歩踏み込んでいたらそのあとどうなったんだろうとか、そんなことをふと想像してしまうんですね。『坂道のアポロン』を読んでいると、存在していたかもしれないもうひとつの未来を見させてくれているような、そんな気持ちになることが多いんです。きっと私だけではないはずだ…。女性誌での連載にも関わらず男性読者からも多くの支持を得ているのは、こういったところに理由があるんじゃないでしょうか。 青春群像劇というジャンルで、ここまで「読んでよかった!」と心の底から思える作品は、映画も小説も含めて私は他に知りません。この機会にまた読み返しましたが、今また素晴らしい余韻に浸っております。繰り返して読みたい漫画ってそうそう出会えないですよね! あの世までこの余韻もっていきたい!! 充分すぎるほど有名な名作ではありますが、まだ未読の方がいましたら、ぜひご一読をオススメいたします!
(S太/男/39歳)
咲坂伊緒
絶対ときめく! 全力青春ラブストーリー無限大!
タイトルは青春+ride(乗る)で「アオハライド」という意味みたいです。そんな青春の塊のような本作、何度読んでもキュンキュンできる咲坂先生渾身の学園ラブストーリーです! 中学生の頃の転校してしまった初恋の人・田中くんと高校生になって再会しますが、かわいい雰囲気だった彼が、イケメンでなにやらコワイ雰囲気に変わってしまっていて、困惑する主人公・双葉!そして私!wショタな田中くんを返して!!って思いましたよね。ところが読み進めているうちに、高校生になった田中くん(洸)も良いなって思えてきます!なんせイケメンだし!優しくしたり突き放したりツンデレなんですよ。ツンケンしているのに、よく照れるのがまたカワイイ。最高。なのに、なのに、ちょっと闇を持っていて心をなかなか開いてくれなかったりする。じわじわ惹かれ合うのに、タイミングの悪さが続いて、最後までドキドキさせられっぱなし・・・。当時は続きを早く読みたくて仕方なかった。スピード感があるのでまとめ読みするのをオススメします!読後の多幸感、すごいです!
(みーさー/アラサー/女)
私とさくらももこ作品との出会いは「りぼん」を愛読していた中学時代。『ちびまる子ちゃん』連載開始前の「りぼん」増刊号に掲載されていた『あこがれの鼻血』という作品(『ちびまる子ちゃん』1巻に収録)。姉がこの作品を気に入り、興奮気味に「これ、すごく面白いから今すぐ読んで!」と渡されたのを覚えている。家族構成、次女、片田舎の中流家庭など自分と重なる部分が多く、読んでいて辛くなるので正直当時はあまり好きではなかった。今回レビューを書くに当たりきちんと読んでみたが、はっきり言って面白い!メジャー作品と侮るなかれ、作中の登場人物、花輪くんも丸尾くんもアングラ漫画誌「ガロ」の人気作家に由来するぐらい、作家自身はマニアック志向のお方。随所に現れる毒気はほのぼのした作風の中でこそ際立っている。こんな作品が国民的アニメとなるのだから、まだまだ世の中捨てたもんじゃないな、と思うのでした。
(ぷちぷちこ/40代/女性)
1995年から2002年にかけて連載。累計発行部数は、2,000万部を突破した少女向けまんがの不朽の名作。2018年には宝塚歌劇宙組によって実写舞台化され、さらには16年ぶりに新作の読み切りが「Sho-Comi」に掲載され話題に。
紀元前14世紀のヒッタイト帝国に現代から突然タイムスリップしてしまい、正義感の強さから「戦いの女神イシュタル」として覇権争いに巻き込まれる主人公。
「登場するほぼすべての男性キャラが主人公を好きになる」という、少女まんが独特のお約束はあるものの、主人公が女性キャラからも愛され、信頼される描写が読者の支持を得たのではないでしょうか。そして男性キャラの醸し出すエロさ、男らしさにも注目です。
(上司の名前も篠原です/30代/女)
清水玲子
「リアル」すぎる近未来SFで、人間の倫理を問う
あなたしか知らない、見ていない「事実」ってありますか? 西暦2060年を舞台に、被害者の「脳」を用いた科学捜査方法「MRI捜査」を描いた近未来SF作品。「MRI捜査」は死後、摘出された「脳」をスキャナーにかけ、生前に「見た」目の記憶をスクリーンに再現する技術。殺された場面を被害者視点で見て捜査する…んですから、心を病む捜査員続出&被害者やその記憶に登場する人物のプライバシーが丸裸な点が人権団体から糾弾されることも多々。 「胸糞注意」な事件ばっかり登場しますが、「現実的にありえそう」「起こりえそう」と思わせる点も、清水作品の真髄です。 年齢不詳に見られがちな室長・薪健(美少年)と部下・青木一行(美青年)が事件に挑むなか、二人の関係の変化にも注目を。
(ひょっこりはん/20代/女性)
「初恋は叶わないもの」というフレーズ、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。この作品の主人公・まめは初恋をこじらせた30代女子。近所に住む幼なじみのお兄さん・聡太になんと20年間も片思いをしているのです。告白して振られたり、聡太が結婚して子どもが出来たりしても諦めることができないまめちゃん。なんとか新しい恋に踏み出してみたり、聡太から離れるために遠くの街に引っ越してみたりしますが、結局戻ってきてしまうのです。まめちゃん一途すぎます!ここまで来てしまった以上は…なんて”意地”も張りながらの山あり谷あり恋模様、果たしてまめちゃんの初恋が実る日は来るのでしょうか…来てほしいな…。
(あいとゆう/20代/女)
竹宮惠子
少女まんがの革命家であり、美少年まんがの創造主
いまから30年以上前、1976年より「週刊少女コミック」(小学館)にて連載開始。白泉社文庫版には寺山修二が解説を書き、「これからのコミックは、『風と木の詩』以降という言い方で語られることとなるだろう」と述べるなど、少年同士の性交渉、性暴行、そして近親相姦といったセンセーショナルで過激な描写が読者とまんが界のみならず、社会学者や他の芸術家らに多くの影響を与えました。 舞台は19世紀末のフランス。連載当時、1970年代の東京ではヨーロッパの情報を入手すること自体が難しく、ヴィスコンティ映画や書などを研究。1972年には「花の24年組」の萩尾望都、山岸凉子らとヨーロッパ旅行を敢行したといいます。 美しい少年たちが紡ぐ甘美な愛の世界をどうぞご堪能ください。
(世界の合言葉は風木/アラサー/女)
田村由美
あらゆるジャンルで読者を引き込む物語巧者
「え?新連載は現代モノ?しかもミステリ?」と思ったあなた(=まぎれもなく1年前の私です)。「お願いですから、だまされたと思って1巻の前半を読んでください」と力説したくなる一作。
田村先生曰く「(主人公が)ただただしゃべりまくる話」「舞台劇のようなイメージでやってるところあります」と語るように、主人公である大学生・久能整(くのう ととのう)を中心に物語が進む本格ミステリ。舞台化されてもおかしくない!…というかぜひ舞台化してほしいまんがのひとつです。
「真実は人の数だけある」「どうして人を殺しちゃいけないんだろう」等、人間の本質を問う整くんの推理・思考・語りに目と耳を吸い寄せられる、そんな作品です。
(kkkkk/30代/男性)
成田美名子
少年から青年へ成長を遂げる“彼ら”の青春群像劇
漫画において服装というものはシリーズを通してずっと一緒、もしくは毎話異なるということもよくあるものです。
しかし、成田先生の作品では登場人物達のワードローブが決まっています。
例えば、作中での季節が冬であれば同じ人物が同じコートや小物を使用していて数年にわたり愛用しているのがわかります。
こういった細かい設定が彼らが現実に実在にするかのように見せ、身近に感じさせてくれます。
そしてこの服装の事実に気付き最初から読み直すと、共依存し互いを似せようとしていた双子のそれぞれの個性が現れてくる課程など、一度目では気付かない点を多々見つけられるはずです。
さらに愛蔵版には、雑誌掲載時のカラーイラストも収録されていて、この懐かしく美しいページを眺めるだけでも“一見の価値あり”です!
例えは紙書籍だと中央が見切れて悲しかった、私のお気に入りの「4巻10P、11Pの見開きカラー」の水面の描写も電子版だとフルカラーで鮮やかに! そして綺麗に一枚絵として見れるのです・・・!
それぞれの巻末にはインタビューや資料、対談も収録されるなどそれだけでも読み応えあり!
過去に読んだことのある方でも是非この気に読み返してみてください。
(そろえす★/30代/女)
二ノ宮知子
「未知」が「身近」になる二ノ宮ワールド
西炯子
情緒豊かな“一生に一度の恋”の名手
『姉の結婚』を初めて読んだのは、30代になってからでした。40歳目前、美人でスタイル抜群、だけど恋愛・結婚は煩わしいと若干こじらせ気味のヨリさん。もう乱れることはないと思っていたのに、中学時代の同級生・真木との再会によって揺れる心…たぶん、10~20代で読んでもここまで共感できなかっただろうなと思います。
イケメンで強引で若干変態、ストーカーチックにヨリさんを求めるくせに妻帯者だという真木。正直、初めて読んだときは「何なのコイツ…!」と、ヨリさんと同じような感想を持ちました。
だけど、中学生のころからずっとヨリさんが好きだったとか、奥さんがヨリさんとうり二つとかいうエピソードが出てくるにつれ「不倫はダメ!だけど…」と、いつの間にか私まで心を揺さぶられていましたね。
一筋縄ではいかないヨリさんと真木の関係。紆余曲折を経て迎える最終話、特にラストシーンは本当に印象深いです。
大人になればなるほど、恋愛において過去の経験、特にトラウマが邪魔をして臆病になってしまうこと、あると思います。私もそうです(笑)。
だけど、それでも、誰かを本気で愛し、愛されるって、なんて素敵なことなんだろう。あらためてそう思える一作です。
(M・A/女性/30代)
ねむようこ先生の代表作であるこちらは初の連載作品であり、2013年には本田翼主演でドラマ化もされています。主人公・七瀬ももこはイラストレーターになりたかったのに、就職した会社はパチンコ専門のデザイン会社。しかも超多忙すぎて夜中3時でも社員全員がフル稼働…。こんな会社やめてやるー!って思いながらもなんだかんだ楽しんでいるももこの喜怒哀楽がかわいくて好きです。パチンコ専門のデザイン会社があるとはこの作品を読んで知りましたが、なんとねむ先生は漫画家になる前にその職業に就いていたというこです。実際の体験が元になっているからこその、リアリティ感溢れる作品なんですね。 とにもかくにもやっぱりねむ先生の描く女の子って本当にかわいい。ももこの(主に髪型による)丸いフォルムは見ているだけで幸せになります。
(ゆうちゃん/20代/女)
小学生当時何度も読み返した作品です。小さな巾着に入れた「星のかけら」が子供心に憧れでした。親友の真理子が片思いしている久住くん、彼を好きになってしまった香澄、二人の関係を見守る沙樹、香澄の思いに気づいている司……5人が織りなす恋と友情の模様は複雑で、「どうしてここですれちがっちゃうの!?」とドギマギしまくりです。子供のころは「香澄かわいそう!香澄がんばれ!」と思って読んでいたけれど、いま読み返すと、真理子や司の気持ちもよく理解できるから不思議です。今はあまり見かけなくなったラジオでのメッセージのやりとりや、駅の伝言板、固定電話にかけたりするところシーンにも郷愁を感じます。懐かしさに浸りながら新たな発見もある、大人にもおすすめしたい永遠の乙女のバイブルです。
(C.M/30代/女)
水城せとな
触れたが最後、もう逃れられない
『失恋ショコラティエ』に出てくるチョコレートは、どれも本当に美味しそうです。カリカリキャラメルのボンボン「ペルル」とか、絶対美味しいですよ…食べたい…。しかし、チョコレートだけでなく、登場人物も彩り豊かなこの作品。主人公のショコラティエ・爽太くんが片思いを拗らせまくっているのはあらすじを読めばお分かりになるかと思うのですか、心の中で思いを燻らせているのは彼だけではありません。表面上は笑っていたとしても、誰しも苦くて汚いものを内側に抱えているものです。特に、ネガティブすぎるアラサー女子・薫子さんには、全女子が共感するのではないでしょうか。わかる。わかるよ。自分のものにならないんなら、とっとと不幸になってくれって思うよね。わかる。そんな心の闇にもそっと寄り添い、「それでもいいよ」と言ってくれるのがこの作品です。あなたを肯定してくれる言葉にきっと出会えることでしょう。
(M・A/女性/30代)
室山まゆみ
児童向けとあなどるなかれ!
1978年から連載の始まった『あさりちゃん』を小学生から愛読している私ですが、大人になった今でも楽しく読んでいます!(ちなみに人生で初めて書いたファンレターは室山まゆみ先生宛でした…) そう、『あさりちゃん』は、懐かしいだけじゃないんです!その時代背景を思わせるストーリーになっており、とても懐かしい反面とっても新しく感じられるのです! 例えば、56巻から登場する『ハイスクールあさりちゃん』では何とあさりがギャル系に… !! 他にも『あさりちゃん』の魅力は一度見たら忘れられない個性的な登場人物や、キャラクターのお洒落でかわいい服装(毎回違う!) そして、まれに登場する長編作品…などなど語りだしたら止まりません !! 個人的なオススメは17巻『母をたずねて三万光年』24巻『あさりちゃんの悪魔の森』です!SFやファンタジーなど奇想天外な展開に目が離せません!他にもご紹介したいお話がたっくさんあるのですが、是非自分だけのお気に入りの話を見つけて下さいね !!
(きくえもん/アラフォー/女)
夜神里奈
女の子の理想がぎゅっと詰まってます!
『Sho-Comi』王道ジャンルでもある兄妹モノ。でも、『兄こま』は他の兄妹モノとは一味違います。なんと、物語が始まってすぐに「血が繋がっていない」ことが明らかになるのです。ということは…! 二人は思う存分愛し合っていいのです!! そんなわけで、兄・はるかは、これでもかってくらいに妹・せとかを愛して愛して愛しまくります。カワイイ妹をどろっどろに甘やかすイケメン兄…。もう、眼福としか言いようがありません…! しかし、せとかに迫る「兄」は、はるかだけではありません。様々な兄系イケメンが登場し、せとかを奪い合います。個人的には、はるかの友達の千夏先輩が大好きです。ワケあって普段は女の子の姿をしている千夏先輩ですが、不意に見せる男らしさがたまらなくカッコいい…! 大好きです!!(二回目)でも、やっぱりベストカップルははるかとせとか。是非、二人のラブラブっぷりにキュンキュンしちゃってください!!
(ゆい/20代/女)
大和和紀
可憐に、そして強く時代を駆け抜ける女性を描く
1975年から1977年に「週刊少女フレンド」に連載された当時のサブカル事情をふんだんに取り入れたラブコメ&ギャグまんが。実写映画化、実写TVドラマ化、アニメ化、宝塚歌劇団による舞台化…とメディアミックスの枚挙にいとまがないほど、連載当時から今日まで、乙女の心を離さない作品。 大和和紀が描く女性はみな強く、たくましく生きているが、主人公・紅緒こそ、その象徴といっても過言ではなく、平塚らいてう「元始、女性は太陽であった」ーーを最も体現しているように感じられる。いまは女性が働くことは当たり前であるし、働くママが増えつつあるが、紅緒の時代はそうではない。小学生のときに母が集めていた漫画から拝借して、初めて読んだ際から、私の心のなかで「女性が働くこと」「私はなぜ働くのか」を考えさせ続ける作品である。
(ひょっこりはん/20代/女性)
吉田秋生
少女まんがの域を超えた骨太の人物描写と“濃い”物語
2018年夏。10代の頃に夢中になって読み耽ったこの作品が20年以上の長い時を越えてアニメ化された当初は、正直言って不安がありました。多くのファン同様、書店員もまたあの当時の揺れた時代感も込みでの作品世界だと思い込んでいたからです。ところが蓋を開けてみれば文字通り現代に蘇った彼らが、ちっとも古臭さを感じさせずにあの頃と同じかそれ以上のハラハラとドキドキと、“友情”、“信頼”について胸に残る純真な何かを思い出させてくれました。改めて、アッシュと英二の利害も理屈も情欲も無いある種の神聖さすら覚える関係性には時代を超えて通じる普遍的な(けれど、ありきたりではない)メッセージがあるのだと畏敬の念を抱かずにはいられません。あるいは、時代が『BANANA FISH』に追いついたとも言えるのではないでしょうか。
(モヒカン愛/30代/女)
池 玲文
美青年からおじさままで、淫靡な雰囲気で魅せる!
エンゾウ
シリアス・コメディ・アダルトも あらゆるジャンルで信頼できる
雲田はるこ
描かれる人間模様には、雲田はるこの愛が詰まってる!
幼なじみで恋人のみいくんと暮らすため、小樽から上京した生粋の天然どさんこボーイの恵ちゃん(24年間、道外に出たことナシ)。みいくんが大家をする〈またたび荘〉で待っていたのは、落語の長屋暮らしさながらの大らかで人情味ある住人たち…とみいくん(ポルノ小説家)。東京で甘~い蜜月を送る目論見は外れたけれど、一つ屋根の下、しっかり着実に愛を育む2人の日常が丁寧に描かれたこの猫っ毛シリーズ。作者の雲田さん曰く「見守り系ボーイズラブ」の通り、他の住人らと一緒になって見守り萌えが大爆発の本編ですが、2人の高校時代、みいくんが東京に来るきっかけとなった事件を描いた『小樽編』もぜひおすすめします!
(ジェリー・ビーン/30代/女)
倉橋トモ
優しいタッチで描かれる日常と、少しの切なさに心惹かれる
寿たらこ
SFからコメディまで、唯一無二のストーリーテラー
斑類という日本における元祖オメガバースを生み出した、寿たらこ先生の代表作『セクピス』綿密な設定や登場人物の多さからマニュアル本まで発売した本作ですが、一度読み始めるともうノンストップ !! (ちなみに主人公のノリ夫は突然斑類の世界に巻き込まれるため、複雑な設定も一から学べますのでご安心下さい) ドラマティックな展開と美し過ぎる男たちの饗宴…(クマ系からネコ系まで♥)あなたお気に入りのCPが必ず見つかることでしょう !! 個人的にお気に入りなのが、ほぼ一般人でちょっとお馬鹿な主人公ノリ夫と重種・国政の身分差CP! 問題の山積する二人の恋は先の展開が読めず、ハラハラどきどき! 一体どうなっちゃうの !? 行く末を固唾を呑んで見守りましょう…
(きくえもん/30代/女)
志水ゆき
「泣けるBL」ここにあり。感動の名作揃いのストーリーテラー
全11巻+オマケ1冊にも及ぶ長編『是―ZE―』シリーズ。BLを嗜む方々には説明不要の超人気&有名シリーズでもありますが、かくいう私も、この作品と共に育ってきたといっても過言ではありません。ある時にはツンデレ最高と叫び、百合という新しい扉を開けてみたり、京都弁訛りのキレイなお兄さんに夢中になり、被虐の悦びに目覚めて、双子との3○にドキドキしたり、攻め×攻めのガチンコBLに興奮して、光源氏計画こそ男のロマン…などと呟いてみたり、まさかのケモナー!? 最高かよ!と雄叫びをあげたり…。 クスッと笑えて、悩ましいほどに扇情的で、ハラハラどきどきして、涙が溢れるこちらのシリーズ。 まだ未読の方が羨ましいです…記憶を消して読み直したい――白紙に戻るべきでしょうか!?
(きくえもん/30代/女)
高崎ぼすこ
愛らしい絵柄に繊細なストーリー。あまキュンエロの女王!
『いとしい、ということ』を読んで、「好き」という感情にもいろんな表現があるんだなぁとしみじみ思いました。その表情でそのセリフ言っちゃう…!?なシーンが至るところに散りばめられていて、心を奪われまくってしまいます。高崎先生は言葉の魔術師だと思います。はい。また、嘉山さんと斉木の関係も大変萌えます。仕事中は嘉山さんが上司で斉木が部下ですが、二人でいるときは立場が逆転して斉木が嘉山さんをどろっどろに愛しまくるという…ああたまらん!! ちなみに「Qpa」Vol.20&Vol.23に掲載されている『ひとときの恋ではなく』では、第2話で登場する橘さんが主人公のお話が読めます。こちらも要チェックですよ!
(Y.H/30代)
ためこう
美しい少年たちの織り成す繊細なストーリーに目を奪われる
蔓沢つた子
愛溢れる日常を、ドラマチックでエロティックに描く!
2017年にドラマCD化もされた人気シリーズ第1作目。猫を祖先とし、雌雄関係なく子供を産むことができる世界。施設育ちのカズイは、自分の子供が欲しいとフェロモンを出して子種を求める日々。孤独感から「自分と血のつながった子供さえいればいい」と思っていたカズイが、売れっ子モデルのノアに出会い、愛する相手との幸せな家庭を夢見てしまうところがとても切なくて…。早くノアさんに幸せにしてもらってくれ~!!その他、同設定の3作を掲載。強気モデル×メガネスパルタマネージャー・カラダの相性バツグンな上司×超面食い部下などなど充実のラインナップです!蔓沢つた子先生らしいあたたかいタッチで描かれる猫耳男子のいちゃいちゃと、あまあまエロエロな世界観。可愛いBLに飢えてるぜ…という腐女子のみなさまにぜひ読んでいただきたい作品です♪
(やました/20代/女)
夏目イサク先生のデビュー10周年の時の読者リクエストをもとに作られ、デビュー15周年という節目で単行本化された本作。第1話が「MAGAZINE BE×BOY」に掲載されたのが2014年なので、単行本化を待ちに待った読者の方も多いのではないでしょうか? 攻めの朝比奈のような王子様キャラは夏目先生の作品では珍しいのですが、気さくで砕けたような人柄なのでとても夏目先生らしいキャラクターになっている気がします。坂木は安定のちょっと意地っ張りな受けで、バランスの良いカップルになっていますv セレブで仕事もできてなんでもそつなくこなす男が、好きな人に嫌われるのを恐れて弱気になってしまうというギャップ、最高ですよね。坂木も朝比奈のそういうところをかわいいと思ってますます好きになる…。はぁ…(幸せのため息)。また最高のカップルに出会えました。 この2人の今後をもっと見たいと思ったので、機会があればぜひ続きを描いていただきたいですね…! 個人的には、セレブでモテモテの朝比奈に坂木が嫉妬したり自信を無くしたりという話が多かったので、今後は朝比奈が嫉妬するようなライバル(!?)が登場して坂木を取り合ってくれるとおいしいと思います。
(ふじやす/20代/女)
新田祐克
写実的で美麗な画力と、激しい愛の形にノックアウト!
イケメンAV男優でライバル関係だった二人が、熱く恋の火花を散らし芸能界をのし上がっていく説明不要の超人気作・通称『春抱き』! これでもかと襲い掛かるトラブルを乗り越え、恋人としても人間としても成長していく二人… 岩城さんは愛を知り心温かく情の深い人間に、香藤は幼さが抜けて男の逞しさを身につけていきます。 そんな二人が激しく愛し合うシーンは、毎回くらくらする程に色っぽくコッテリ濃厚です…♥ ちなみに二人の恋模様はもちろんですが、役者として大成していく様はBLであることを忘れる程に熱い…! そしてさらに注目して頂きたいのが、新田先生の妥協のない写実的で細かい描写一つ一つ! 映画やドラマ撮影の現場、テレビ局、インテリア、小道具、衣装などが、驚くほどリアルに細部まで徹底的にこだわって描かれております! (岩城さんが出演するTV番組が…と○ねる○の食○ず嫌○王決定戦 !?) ――まるで二人が本当にそこに存在するような気さえしてきます…いや、むしろ実在しろ !!
(きくえもん/30代/女)
バンドはモテたくて始めたぜ!な朝一と、そんな朝一のもとにサポメンとして現れたヨル。男女構わず虜にするヨルの歌声に、嫉妬といら立ちを覚える朝一だったが、一方ヨルは朝一の事をずっと一途に想い続けていて… 不思議ちゃんのヨルなんですが、その歌声は多くの人を熱狂させます。ヨルが自分の事が好きなのをいい事に、付き合ってないのに乱暴に体を求めてしまう朝一や、痛そうなシーン(じゃ、砂利入りローション…)もあり、音楽の世界、あまりにも痛烈…!ですが、しっかりと引き込んでくれるはらだ先生の力量はさすがとしか言えませんでした!メイン二人の物語も当然魅力的なのですが、周りをとりまくメンバーや、ファンとしての気持ちも非常に生々しく描かれていて、本当に裏側を除いているようなリアリティがあります。二人が付き合うのがかなり自然なことに思えて、「ヨルと朝一、いつまでも歌い続けてくれ…」と今ではすっかりファンの気持ちに。ラストの描き下ろしの幸福感といい、クライマックスまでの盛り上がりといい、読後の充実感ナンバー1の1冊です!
(やました/20代/女)
10歳になってから久世の本家にやってきた暁人は、自分を厳しく教育する桂木を尊敬し、認めてもらうために努力を続けてきましたが、桂木は先代のためにのみ動いている。その暁人の感情はいつしか尊敬以上のものになっているのでした…。しっかりとした時代考証をもとに作られた物語は、周囲の陰謀と桂木の思惑、桂木の出生の秘密、そして暁人の想い――さまざまなことが絡み合いながら進んでいき、心理描写も丁寧で読み応えがあります。やはり一番注目すべきは暁人と桂木の恋。愛とか恋だけを考えて生きていくには難しい時代、さらに身分の差や男同士という壁が、どれほど高いものか想像に易いですが、暁人はそんなものをとっぱらってただ桂木と一緒にいたいと思っています。最初こそ無理やり桂木のことを抱きますが、桂木の気持ちにも変化が生まれていきます。それなので、4巻の桂木の言葉は、本当に暁人が待ち焦がれたものだったと思います。絶対に本音を見せない桂木がようやく見せた本心に、目頭が熱くなりました。2人はずっと一緒にいられるのか、幸せになれるのか、祈りながら読み進めてしまいます。
(ふじやす/20代/女)
山田ユギ
コミカルかつ魅惑のストーリー。BL界のカリスマ的存在!
新人弁護士・早坂は幾多の誘いを断り、弱小の法律事務所に入所した。 そこにいたのは、憧れの先輩弁護士・三上に加え、セクハラエロ親父!? 弁護士・片山が… 法曹界を舞台に、一筋縄ではいかない男たちが巻き起こすBL弁護士ストーリー!こちら読んで頂いた方はもうお分かりかと思いますが、とにかくお話がめちゃくちゃ面白いです!! 前述した三人以外にも早坂の同期・森や、鬼籍の弁護士・小野田とその異母兄を交え複雑な関係を構築していく…そしてそれぞれの持つ秘密が一つずつ明らかになっていき――是が非でも読んでいただきたい作品です!3巻でエピソードは一段落しておりますが、男たちの恋愛模様はまだまだ終わっておりません!! ああ、続きが早く読みたくて、苦しい…
(きくえもん/30代/女)
山本小鉄子先生はかわいらしいイメージの受けが多かったのですが、本作では三白眼で卑屈な受けちゃんの登場です! 怒谷 笑(いかりや えむ)は父親が遺した500万円の借金の取り立てに遭っているところに、高校の同級生・福冨稔持(ふくとみ ねんじ)と偶然再会します。やたら自分のことを助けようとする福富に、笑くんが「なんで?」と尋ねると「好きなのかもしれん」と言われて…!? 福富に告白されて、自分も福富のことが好きだと自覚した笑くん。でも借金を返済するまではそんな余裕はない…。一緒に過ごすうちにますます福富に惹かれているのは確かなのに、付き合うことができないから悶々と悩む笑くん…。福富は、笑くんにいきなりキスしてきたかと思ったら、下の名前で呼んでいいかを律儀に確認する純情なところもあって…。そんな“天然武士男”の猛烈なアピールに笑くんは耐えられるのか!? あぁまた小鉄子先生に焦らされる!(歓喜) 小鉄子先生! 2人のハッピーエンドまで見守る覚悟はできています!
(ふじやす/20代/女)
自分、本作を読むまで恋愛漫画って苦手でした。なんと言いますか、現実設定なのに全然リアルじゃないところに違和感が強く、もはやファンタジー漫画と同じくらい非現実的だと感じてました。イケメンか金持ちしか生息できない息苦しさも、読んでてシンドイんですよねぇ。(現実も概ねそうなのですが…。)そんな自分ですが、本作を読んで恋愛漫画に対する考え方が大きく変わりました。登場人物達による多種多様な恋愛観をぶつけられたこともそうなのですが、それ以上に、恋愛漫画には「選ぶ(ないしは、選ばれる)」といった側面だけではなく「別れ」の側面もあるんだと感じさせてくれたからです。
では、簡単にその内容なのですが、本作は、恋している女性が光って見えるという男子大学生「西条」と、彼に関わる3人の女性のお話。 女性陣は、携帯電話もない浮世離れした「東雲」と、他人の彼氏が欲しくなる悪癖をもつ「宿木」、そして小学生からの幼馴染「北代」の3人。西条は光の正体は何かを探りつつ、3人の女性と関係を深めながら物語は進んでいきます。 恋する女性が光って見える…一見ファンタジーっぽいのですが、それはあくまで物語上の装置で、登場人物達が異なる価値観で言葉を発し行動していく様は普通の学生の恋愛と何ら変わりません。むしろ、この普通が面白いのです。皆、恋という、えも言われぬ感情を自身の価値観に基づき論理的に語り ーそれは一見、野暮ったくもあるのですがー 小気味よいセリフまわしと共感できる言葉選びのセンスに飲み込まれてしまいます。また、柔らかいタッチでほんわかしたキャラクター達の描写も、魅力的で良い味を出しています。 物語としては最終的に、西条が誰を選ぶのか(同時に誰を選ばないのか)に帰結してしまい、恋がもつ一方的かつエゴ丸出しの行為に対して、この光が幻想的で美しく希望を与えてくれます。ともすれば、どう転んでも後味が悪くなってしまう内容も、そう感じさせない展開の巧みさには、ただただ唸ります。 「愛とは愛されたいと願うこと」 という某かの名言がありますが、だからこそ、本作は「愛」ではなく「恋」がテーマなのだと最後は納得した次第です。恋が愛のはじまりなら、相手の幸福ばかり願っても愛にはならないのです。 全7巻。この上なくキレイな恋の物語を、是非おすすめします。