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『信長の忍び』大特集 原作者・重野なおきメールインタビュー

2018年4月にアニメ第三期が放送開始する『信長の忍び』。『信長の忍び』はコメディとシリアスが同居し、4コマでありながら重厚なストーリーが進行するかつて無い大河コメディ漫画である。この魅力作の秘密に迫る!

重野なおきメールインタビュー

織田信長の天下統一への道のりを描く『信長の忍び』。そこで展開されるのは、コメディの中に垣間見られる人々の真剣さであり、シリアスな場面でも生まれてくる人間のおかしみである。そこには、これまでの作品で捉えていなかった、歴史上の人物の人間らしさがあるのではないか?4コマ漫画で描かれる大河ロマン『信長の忍び』はどのようにして生まれたのか、重野なおき氏に伺った。

『信長の忍び』誕生の秘密

――『信長の忍び』は、織田信長という歴史上の人物と、彼に伴走する“忍び”千鳥を主人公に描かれている作品ですが、この作品が生まれた経緯についてお教えいただけないでしょうか?

ヤングアニマルさんで新連載の案を考えている最中に、編集部の方から「戦国時代の漫画はどうですか」と打診され、今までとあまりにも違うジャンルで戸惑いましたが、以前から歴史好きなのと、忍びの女の子を主人公にすれば自分らしさの出る作品になるのではないかと思い、引き受けました。始めてみると、これが今までと違う楽しさでどんどん筆が乗っていったのを覚えています。

恐るべき腕をもつ忍び・千鳥が、織田信長とともに乱世のない世界を目指す
恐るべき腕をもつ忍び・千鳥が、織田信長とともに乱世のない世界を目指す

――連載開始までどのような準備をされていたのでしょうか?

とりあえず本をたくさん読みました。信長関連、忍び関連から押さえていったのですが、服装や武具甲冑、建物などビジュアルの部分を自分のものにするまで苦労しました。初期の頃を読み返すとあやふやなまま描いている部分が多くて恥ずかしいです。

――全体の構想は、連載前からどのくらい先まで細かく用意されているのでしょうか。また、描かなければいけない事件、事柄は予めリストアップされているのでしょうか?

連載前から大まかなラストは決めてありましたが、話が進むにつれ少しずつ変化していきました。今ではほぼ9割はラストの展開まで決まっているので、それに向けて動いています。とはいえ、まだいろんな出来事がありますので最終回はだいぶ先になりますが。
事件、事柄のリストもかなり早い段階からできています。

――『信長の忍び』では、大きなストーリーを追いながら、個別のエピソードを一本一本の4コマ漫画の繋がりとして描かれていますが、どのように構想しているのでしょうか?

だいたい1話に付き1エピソードが基本です。意識しているのが「1本1本で笑いを取り、つなげて1回(1話分)でその回でやりたかったテーマを示し、単行本1冊を読んだとき合戦など大きな見せ場があるようにして、単行本を通して読むと戦国絵巻になっている」ということです。特に、あまりストーリーを追うことに偏らずに1話1話を楽しめるように気を付けています。

――『信長の忍び』では、何を描いて何を描かないのか、誰をどのくらい描くのか、その取捨選択はどのようにされているのでしょうか?

「このエピソード・この人物を描いてどれだけ話を面白くできるか」が取捨選択の基準になっていますので、マイナー武将でも面白い展開が思いついたらたくさん出ますし、知名度があっても使いづらかったら抑えます。あと、4コマ漫画ですので強烈な個性を持っていれば出番も多くなります。あとは見えはしませんが、読者が向こうにいることを考えて、その呼吸をできるだけ予測して話をふくらませたりシンプルにしたりしています。

――どんなにシリアスなシーンでも、必ずギャグが入るのが『信長の忍び』の魅力ですが、このバランスはどう考えているのでしょうか?

連載の6ページですと4コマのネタが11本になります、ストーリーがシリアス展開でも半分の5、6本は必ず笑いを入れようと自分に課しています。やはり基本はオチのある笑える漫画であるべきなのでそこを守らないと4コマである意味が無いというか、僕が描く意味も無いと思うので。

『信長の忍び』の躍動するキャラクターたち

――1巻で『信長の忍び』は「忍びから見た戦国漫画」であるとおっしゃられていますが、信長の覇業を見つめる存在として架空の忍び千鳥のキャラクター像はどのように決められたのでしょうか?

信長の傍にいられる存在ということでシンプルに「素直で可愛く、腕が立つ」を基本に考えました。我の強いキャラだと完全な忍び漫画になってしまうのであくまで信長の邪魔はしない存在でなければなりませんでした。あとは4コマ的な面白さを出すためにドジで頭はあまり良くないというふうに、それと質問係も兼ねられるように。

――のだーが口癖の足利義昭、筋肉主義の浅井長政など、歴史上の人物が可愛らしく描かれていますが、どのようにキャラクター化されているのでしょうか?

その人物の趣味、戦歴、環境などを調べて一番その人物が活きそうなキャラ付けにしてます。読者にキャラを覚えてもらうこと知ってもらうことが大事なので最大限に誇張して描くようにしてます。とはいえ、あまり個性出しすぎのキャラばかりでも読んでて疲れると思うのでその辺はバランスを常に考えています。

――単行本の「戦国武将名鑑」では、武将のパラメータを統率、知略、 政治、武術、+αで表されています。特に+αの部分にその人物のらしさを感じますが、これらを設定されようと思われたのは何故でしょうか?

自分が戦国ゲームが好きなのもありますが、普通の人物紹介よりもこのほうが武将をわかってもらえると思いまして。数値や項目はできるだけ史実に近づけるようにはしてますが、漫画内での表現により増減することもたまにあります。

登場する武将の能力は数値化してあらわされている。左下だけ、その武将オリジナルの項目になっている
登場する武将の能力は数値化してあらわされている。左下だけ、その武将オリジナルの項目になっている

――『信長の忍び』の連載が進むのにあわせて、『軍師 黒田官兵衛伝』や『真田魂』など、織田家以外の武将に焦点を合わせた作品も発表されていますが、今、描いてみたいと思われている武将はいますか?

あと3作品、絶対に描きたい戦国テーマがあるんですが、申し訳ありませんが秘密です。

――変化・成長するキャラクターがとても魅力的にうつりますが、描かれているうちに、もっとこの人物を描きたいという、愛着が生まれることはあるのでしょうか。

笑えるネタを提供してくれるキャラは自然と出番が多くなることはあります。愛着は全部のキャラにありますね。時間と需要があるならばどの家のスピンオフでも描きたいです。

漫画からはじまった戦国への興味

――戦国時代に興味をもたれたきっかけ、「忍び」に興味を持たれたきっかけは何でしょうか。

戦国時代への興味は子供の頃なにげなく読んだ『学習まんが 少年少女日本の歴史』(小学館)です。
忍びは、やはりハットリくんですね。自分で武器とか作ったりしてました。
あと時代劇が好きで、中でも忍びやネズミ小僧は大好きでした。

――執筆する際にどのような資料にあたられているのでしょうか。また集められた資料の中から『信長の忍び』を描く時、どういうところに注意されているのでしょうか?

信長物の基本の「信長公記」と、歴史研究家の谷口克広氏の研究本が一番のベースになっています。あとは敵キャラが出るたびにその家、人物について書かれた本を買って他家の視点から信長を見るようにも努めてます。取材にも行くのですが現地でしか手に入らない情報を見つけると嬉しくなりますね。

――取材の中で現地でしか手に入らない情報を見つけられるとのことですが、具体的にどんなものが見つかって作品の中で活かすことができたのか、お教えいただけないでしょうか

一般流通していない、現地でしか売ってない本が意外に多くて、それらを見つけると必ず買っています。地域の風土的なものが交えてあるのが特に貴重で、当時の暮らしや地勢の様子が読み取れるものがあります。例として、『尾張統一記』で描かれた小豆坂の合戦で、当時、松が多かったという話はその地域で買った小冊子に書かれたものから使いました。
他には単純に城や戦場の大きさとか周囲の景色とかを活かしています。
「取材したことにより思い切ってその場面を描ける」という心理的効果も大きいですね。

――連載を通じて、戦国時代への興味がさらに広がっているのではないかと想像します。連載するなかで、より興味をもった武将以外の人物がいればお教えください。

武将以外となると、大工の岡部又右衛門や医者の曲直瀬道三でしょうか。

曲直瀬道三や宣教師のフロイスなど武将以外の人々も登場し、戦いだけではない時代の雰囲気を伝えてくれる
曲直瀬道三や宣教師のフロイスなど武将以外の人々も登場し、戦いだけではない時代の雰囲気を伝えてくれる

アニメでも活躍する『信長の忍び』

――4月より、朝倉・浅井連合軍と戦う「姉川・石山篇」がはじまりますが、アニメ化を楽しみにしているシーン、エピソードはなんでしょうか?

森可成の奮戦はもちろんですが、アニメならではの表現ということで、本願寺顕如さんの頭がどれだけ光るのかが楽しみですね。

――森可成は序盤から登場の場が多いキャラクターです。森可成のどういった性格・エピソードに魅力を感じられたのでしょうか?

早くから織田信長に重用された家臣ですし、息子の蘭丸・長可や妻のえいにも多くの逸話があり、その最期にも惹かれるものがありました。あと正直もっと世間に認知されるべき武将だと思ったのも取り上げた理由のひとつです。
キャラクター化の際には正直悩んだのですが、息子の蘭丸が美男子(という風潮)なので父も顔のいいキャラにしました。あと十文字槍の使い手という時点でカッコいいイメージがありましたね。

――同じくアニメでの初登場が待ち遠しい本願寺顕如ですが、本願寺の宗主という特殊な立ち位置のキャラクターですが他のキャラクターと異なると感じられることはありますか。また、妻・如春との関係はどのような資料から築かれていったのでしょうか。

僧という特殊な立場ではありますが、あまり違いを意識して描いてはいません。如春との関係は漫画にもあるように二人で詠んだ歌が残っていることから仲睦まじくしましたが、まあ僕の作品は基本夫婦は仲睦まじいので。
戦国時代が嫌でも殺伐としてるので、せめて夫婦仲は良好であってほしいなあと願望も多分に入っています。それは作品的なバランスのためでもあります。

信長と帰蝶、利家とまつ、長政と市…『信長の忍び』には仲睦まじい夫婦が多く登場する
信長と帰蝶、利家とまつ、長政と市…『信長の忍び』には仲睦まじい夫婦が多く登場する

重野なおき

漫画家。著作に『うちの大家族』『よんこまのこ』『GoodMorningティーチャー』など多数。2016年にアニメ化された『信長の忍び』以降、『真田魂』『軍師 黒田官兵衛伝』など戦国武将をテーマにした作品を多く発表している。

©重野なおき/白泉社

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