風景描写にキャラクター描写、すべてが何よりも丁寧に描かれるからこそ、気持ちよく予想を裏切り、どんでん返しにしびれる。それと同時に、読者の「期待」は裏切らず、見たいものをその想像を超えた形で魅せてくれる。読んでいて「気持ちいい!」そんな感覚を届けてくれる展開が待っています。
物語の舞台となる「山内」に住まうは、八咫烏の族長一家・宗家と、東西南北の領地をそれぞれ治めている有力貴族の四家、そして彼らが統治する平民たちです。彼らはそれぞれ血と地に根差しているため、守るべきものの違い、利害の差や立場の差がキャラクター同士の関係に現れるのです。個としてのキャラクターと、時に存在意義にもなり、その心情と相反する事もある彼らが所属する「家」の立場。美しい姫君たちにも、“うつけ”と呼ばれる若宮にも、彼らすべてが自分と家、そして守りたい何かを持っている。リアルな人間描写で描かれる強い信念を持ったキャラクター達は皆魅力的なのです。
一言でいえば、「和風ファンタジー」であるこの作品。しかし「ファンタジー」ではあるけれど、人々の生活様式から政治の決まり事まで、寸分の隙もなく描きこまれた世界観は、まるで歴史モノを読んでいるかのような錯覚を起こさせるほど!ファンタジー好きはもちろん、ファンタジーが少し苦手な人にもおすすめ出来る作品です。
今回は、八咫烏たちが暮らす山内の中でも、物語の中心となる「中央」を中心に地図としてご紹介!
山水画のような高い山々がそびえる中に暮らす八咫烏たちですが、政治経済すべての中心となる
「中央」は、一つの大きな山となっています。
中央だけでもこの広さ、さらに東西南北それぞれの貴族たちの領地が広がる山内は、存外広い世界なのが分かります。
地図の下部にある中央門を越えた先はもう宮中となり、身分が高い八咫烏たちの世界となります。
物語でキャラクターたちが主な時間を過ごす建物達は、中央の中でもさらに重要な建物が集まる、大門からはじまる山頂の部分に集まっています。
是非物語を読み進めつつ、隣に地図を広げてみて下さい!
あせび…春殿の姫
世間知らずなところがある、東家の姫。急病になった姉に代わり急遽后選びに参加した。少女らしい、無垢な魅力を持つ。弦楽に秀でている。
浜木綿…夏殿の姫
凛々しく、ひょうひょうとした雰囲気をたたえた美女。南家の姫。他の姫たちと比べて、后選びに対しても斜に構えたところがある。
真赭の薄…秋殿の姫
華やかな美しさを持った、西家の姫。少し高飛車な態度をとることがあるが、裁縫も得意で女性らしさと気高さを持ち合わせている。
白珠…冬殿の姫
小柄で、口数の少ない儚い美しさを持った北家の姫。おとなしそうな見た目と裏腹に、苛烈な行動をとる事も。
雪哉
北家の地方貴族の次男。周りからは“ぼんくら”だと思われているが、家族の為ならしたたかな計算高さを見せる賢さを持つ。
若宮
人の目を引くような美しさを持つ青年。「真の金烏」だと言われており、今上陛下と側室の間に生まれた次男でありながら、長男である兄・長束を差し置いて世継ぎとなった。他人から見れば破天荒な言動から宮廷内では“うつけ”の若宮と陰で呼ばれているが、時に冷酷なほど合理的な考え方をすることもある切れ者。
長束
今上陛下とその正妻との子であり、若宮の兄にあたる。若宮に皇太子の座を譲り渡して、出家している。朝廷内では“うつけ”若宮よりも人望を集める美丈夫。
路近
長束の護衛を務める武人。豪快な性格と巨体を持つ。長束に忠誠を誓いながらも、どこか腹の底が読めないところがある。
猿
山内に突如現れて、八咫烏たちの村を襲い、彼らの肉を食らう大猿。若宮達は、この猿を追う事となる。
茂丸
雪哉と同じ北領出身の少年。貴族たちを指す宮烏と対比されて山烏と呼ばれる平民の出だが、馬が合った雪哉とすぐに仲良くなる。
明留
西家の真赭の薄の実弟。宗家に近い、位の高い貴族でありながら武芸にも秀でた美少年。しかし彼自身の貴族としての誇りと若宮への心酔のあまり暴走する事も。
千早
自らはあまり口を開かない、寡黙だが気の強い山烏。その人付き合いに関しての不器用さでトラブルを呼ぶことも少なくない。長束派を自称する貴族に仕えている。剣の腕は勁草院の中でもトップレベルを誇る。
イラストレーター:吹屋フロ
「BE・BOY
GOLD」誌(ビーボーイ編集部)にて江戸時代の剣客たちを主人公にした『仇椿ゆがみて歯車』を連載。
そのほかの作品としてWeb雑誌「となりのヤングジャンプ」(集英社)上にて連載していた『パンティトラップ』等がある。
キャラクターらしさを引き出した生き生きとした魅力的な表情と、物語の行間、その一瞬までを描ききる丁寧な作品づくりを行っている。
日本神話における導きの神であり、太陽の化身ともされる三本足のカラスのことを、八咫烏(ヤタガラス)と呼びました。この物語の中では、三本足の烏の姿と、人間と同じ姿とを行き来できる存在です。
作品の刊行順としては
『烏に単は似合わない』『烏は主を選ばない』『黄金の烏』『空棺の烏』『玉依姫』
となります。
このうち、最初の二作品『単は似合わない』と『主を選ばない』は、作中世界の同じ時系列を違う視点から描いたものです。
この二作品に関しては刊行順で読むのもOKですが、少年マンガ的な冒険譚、カッコイイ戦闘が見たい人は『烏は主を選ばない』から、
ひたひたと近づいてくる謎と、美しい姫君同士の火花の散らし合いが見たい人は『単は似合わない』から読んでもOKです。
どちらから読んでも、そこで描かれたシーンを別の角度から描いているもう片方の作品が読みたくなること間違いなし!
もったいない!マンガ好きなあなたなら絶対ハマれる物語です!
例えば…文字で読んでいるはずなのに、振るわれた武器や羽が空を切る音まで聞こえてきそうな戦闘アクション描写や、小気味の良いキャラクター同士の掛け合い。文字で描かれるものでありながら、そこで描かれる世界はとても「絵になる」のです。
イラスト=吹屋フロ
文=eBookJapan