<あらすじ>本能のままに暴力を振るい続ける、狂気じみた謎の男モン。そのモンに憧れ、破壊行動に協力する爆弾魔トシ。旅を続けながら二人は爆破テロを繰り返す。時を同じくして、巨大な熊のような謎の怪獣「ヒグマドン」が突如日本に出現、圧倒的な力で人々を殺戮していく…。多くのアーティストやトップ・クリエイターから絶賛を浴びる現代最大最凶のバイオレンス巨編!
<書店員のおすすめコメント>テロリストのトシとモン、そして突如現れた謎の大熊(物語途中からは“怪獣”と呼称)ヒグマドン。ふたつの「圧倒的な暴力」と、それに振り回される日本、そして個人を凄まじい熱量で描き切った個人的大名作。僕は現実世界を舞台にここまでリアルに(そして大量に)暴力、死、破壊を描いた作品を他に知りません。とにかく暴力は痛そうですし、死は理不尽で唐突です。何のドラマもなくただ「居合わせたことが不運」と断ち切られる命。初見時、そのリアリティに打ちのめされました。日本各地に爆弾テロを仕掛けて回り、警察署を襲撃、人質を取って政府に「平和な世界」を要求するトシモン。通り道をただただ破壊しながら進むヒグマドン。ふたつの暴力が秋田で邂逅し、繰り広げられる大破壊。「俺は俺を肯定する」「命は平等に価値が無い」などなど描写と相まって凄まじい強度を持つセリフ。徹頭徹尾暴力的なのに、読後にはなぜか尊さや美しさを感じてしまうという、思春期に読むと間違った方向に価値観が形成されかねない作品です。故・深作欣二監督が実写化を図っていたと言われていますがぜひ見てみたかった……。
<あらすじ>文具メーカー「マルキタ」の新人営業マンである宮本浩。恋にも仕事にも不器用な主人公・宮本は自分の存在の小ささに苛立ちながらも前へ進もうとする。そんなとき、宮本は通勤途中の電車のホームで、甲田美沙子に出会う。新米サラリーマンのほろ苦く厳しい日常をリアルに描いた新井英樹の秀作!
<書店員のおすすめコメント>本作の主人公・宮本は「日本一嫌われたサラリーマン」だという話があります。とにかく暑苦しく、泥臭く、ガムシャラで鬱陶しい。描き方、表現も汗やらなんやら生々しいので、連載当時(バブル期の終わりで、まだまだ世が華やかなりしころ)の雰囲気にそぐわなかっただろうなとは思います(前半はそれなりにトレンディ感もあるんですが……)。ただ、この作品で描かれた愚直さは、そうした「浮かれた雰囲気」を忌避していた人間にとってはすごく刺さるものだったと思います。事実、佐藤秀峰や花沢健吾(『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は明らかにオマージュではないかと)等、影響を受けたと公言している漫画家も多数。島耕作シリーズやサラリーマン金太郎のような“サラリーマンファンタジー”は一切ありませんが、だからこそ自分も頑張ろうと活力に成りうる作品です。
<あらすじ>吹き溜まりのような寒村に突如現れた、外国人妻・アイリーン。彼女と、彼女をとりまく人々の欲望の姿は、荒々しくも、愛おしい――。戦後日本社会の断絶点とも言われる1995年に連載開始。『宮本から君へ』『ザ・ワールドイズ・マイン』と並ぶ新井英樹の代表作とされる傑作マンガ。
<書店員のおすすめコメント>人間関係の狭い農村、年老いてボケた父、モテない40絡みの独身息子……。毎晩自慰をする息子を盗みて嘆く母……もう地獄でしょこんなん……なんでこんな作品描くん……てマジで思います。そんなところに国際結婚斡旋所を通じて嫁いできたフィリピン人妻・アイリーン。もう全然幸せの匂いとかしなくないですか? 本当に何にも幸せじゃないです。全編に漂う圧倒的な閉塞感、人間の醜さ・汚さ。それでも生きていかなければならない辛さ。「ザ・ノンフィクション」をもっとエゲつなくしたような内容に、目を背けたくなることもあるかもしれません。しかしだからこそ凄まじいリアリティがあるこの作品は、既存の新井英樹作品のなかでもその作家性が最も濃い作品のように思います。
<あらすじ>怪作『ザ・ワールド・イズ・マイン』を凌ぐ無茶苦茶なスケールで送る、アナーキーな物語。満を持して“約束の地”ビームでスタート!!混迷の時代に生きる全ての人々に捧ぐ!
<書店員のおすすめコメント>「年がら年中勃起している冴えない童貞が、人類に仇なす敵を、その無尽蔵な精子をぶっかけることで倒し、最終的に世界を救う」という自分でも書いててアタマ沸いてんのかと思われるような物語。とにかく全編に渡ってチン、マン、セックスなので、読者を選びがちな新井英樹作品のなかでも選抜度はぶっちぎりです。主人公とヒロインの出会いも、公園でいちゃつくカップルを盗撮していたヒロインに、主人公が全裸で駆け寄って顔射するという文章にするとエロマンガかよと思われるものなんで……。ただ一見するととんでもない大クセ作品なのですが、根底に流れるテーマは“愛”であり、タイトルにもあるように「あなたにいてほしい」というシンプルで純粋な思いなんですよ。前述の内容でどうやったらそんなテーマになるのかと思われるでしょうがそうなんです。また、前半ではただの気弱変態に過ぎなかった主人公が、話が進むにつれてどんどん魅力的になっていくドライヴ感もすごい。新井英樹にしか描けない、唯一無二な作品だと思います。
<あらすじ>81歳、孤独な老人。46歳独身、介護職の女。27歳、特別養護老人ホームを「ある事情」でやめた青年。ぬぐい去れない痛みを抱えた3人の奇妙な恋が始まる――――。脚本家・小説家山田太一の小説『空也上人がいた』(朝日新聞出版)を、『THE WORLD IS MINE』『キーチ』の鬼才・新井英樹が漫画化!!
<書店員のおすすめコメント>とある事情で介護ホームを辞めた青年が、ある老人を個人的に介護することで生まれる物語。原作ありとはいえ描かれるのは「死」と「救い」。これまでの新井英樹作品にも通じるテーマではないかと。裕福な、だけど風変わりな老人と、事情を抱えた青年。そしてふたりを繋いだ女性ケアマネジャー。主要な登場人物はこの3人だけで、だからこそ3人の心情はとても丁寧に描かれます。なぜ青年は介護ホームを辞めたのか、なぜ老人は不可解な行動を取るのか、ケアマネはなぜふたりを繋いだのか。すべてが明らかになる中盤以降は静かに、しかし大きくドラマが展開していきます。そのきっかけになるのがタイトルにもある「空也上人」の像。京都にある像ですが、それを見た青年、そしてかつてその像を見た老人は、「誰にも責められることはないが、小さな棘となって心に刺さっている自分だけの罪」と向き合うことになるのです。他の作品と雰囲気こそ異なりますが読後感は紛れもなく新井英樹作品。「面白い」とか「面白くない」では語れないドラマです。
<あらすじ>人類は滅亡するために生まれてきたのか――――!? 主人公・杉浦渚はどこにでもいる普通の女子高校生。杉浦一家もどこにでもいる普通の家族。ただし、取り巻く世界は確実におかしくなっていた。2011年に人類発祥の地・ケープタウンに不思議な木が生えたときから… 突如として世界各地に生え始める不思議な木… 強制的に「世界の終わり」を意識させられる人類… 刹那的な享楽にふける人… 全てを諦め投げやりな生き方を選ぶ人… 全てが急速に変わり始めた世界の中で、変わらないことを選び絶望に挑む、家族の物語がここに開幕!!
<書店員のおすすめコメント>世界各国に突如生えだした大きな「豆の木」。それが破裂し、汁をまき散らすと、半径20km以内の人間は死んでしまう。日本にはその木が1236本あり、逃げ場はない。いつ近くの木が破裂するのかわからない=常に「死」を意識しなければいけない世界でも、日常は続く。この「いつ」なのかわからないが破滅の日が来る(だろう)、というのは3.11以降、日本にもある種の影としてずっとつきまとっているのではないでしょうか。あの日、原発が爆発した映像に、その後の各種報道に感じた恐怖がこの作品の空気感なのだと思います。そうした世界だからこそ不安を紛らわすためにも「今を全力で」というスタンスの主人公・渚の姿勢はまぶしく映ります。思考停止せず自分のアタマで考えて行動する、当たり前のことを当たり前にするために、「世界」に自分を揺らされないために。実は3巻で「未完」として唐突に終わってしまうのですが、何とか完結を見たいです……。
<あらすじ>現代、最先鋭の漫画家・新井英樹がぶちかます超近未来の寓話!!
<書店員のおすすめコメント>「バカ」と「利口」を嫌悪し、「キチガイ」を自称する主人公。世界に憤り反発・反抗し、ただ“飛ぶこと”を求め続ける。その様子がスケッチのような描線とセリフに頼らない表現で描かれるのですが、これはまた挑戦的な……。2018年1月現在まだ1巻しか出ていないので、作品の方向も物語も未知数。ただ、これが最新作であり、掲載誌も表現の自由度に定評のある「コミックビーム」ということで、新井英樹という作家の本質に迫る作品になりうるのではないかと密かに思っています。
<あらすじ>収録全7本中、3本がコミックス未掲載、4本が雑誌にすら未掲載の新井英樹ファン垂涎の作品集!!
<書店員のおすすめコメント>デビュー前後の作品、最近の読み切り、そして学生時代にノートに描いた作品まで収録された短編集。描かれた時代が違う作品をこうしてイッキに読んでみると、絵柄は当然どんどん変わっているのですが(内田春菊の絵柄を意識したという収録作「失念」は結構意外でした)、テーマというか作家性みたいなものにはブレが無いなぁと。若い女子に誘惑されたオジサンが「あの頃の自分の理想」を思い出し踏みとどまる「It Follows Me」は自分もアラフォーになるなか心にとどめておきたい作品だと思いました……。