時代を超えて読まれ続ける横山光輝の『三国志』。『三国志』という作品を広めたことでも知られる横山光輝『三国志』の中で、最も人気のあるキャラクターといえば関羽だろう(異論は認める)。いったい関羽の魅力はどこからくるのか?webで話題沸騰のLINEスタンプ『三国志』を企画した、原寅彦氏に関羽の魅力を伺った。
――横山光輝『三国志』に触れられたきっかけをお教えください。
小学校のころから『鉄人28号』や『バビル2世』はじめとする横山光輝作品が好きで、その流れから『三国志』に触れたんです。そしてなにより、小学生が学校で合法的に読めるとして「三国志」は偉大でしたよね。
――原さんにとっての横山光輝『三国志』の魅力はどんなところにありますか?
なにごともシンプルに描くのが横山先生、というのを感じます。
絵柄がシンプルだし、コマ割りもシンプルだし、お話は滅茶苦茶ドライ。そこも個人的に大好きなんですね。
関羽が死ぬシーンもわずか2コマなんですよ。それまで大活躍していた関羽、彼が死ぬときですら2コマで終わる。そういうドライなところが好きなんですね。時間の流れは誰にも等しく来ることをマンガで表現されている。
『三国志』という題材は、ウェットに描かれることが多くて、だからそのシンプルさが、横山光輝三国志独特の魅力だと思います。
――横山三国志のキャラクターにはどのような魅力を感じますか?
横山作品全てに共通しますが、三国志の魅力に、いろんな武将がいろんなバックボーンを抱えて出て来るところがあると思います。今で言えば、アメコミの映画みたいなんですよ。『アイアンマン』があって『キャプテンアメリカ』があって、各々のヒーローだけでも何本も映画が撮れるようなメンツが勢ぞろいして『アベンジャーズ』みたいな。バックボーンの幅がものすごい。『三国志』もそれと同じだと思うんですよね。
横山『三国志』的にはぽっと出の顔良にも、曹操軍や公孫瓚を苦しめた歴史を描き、そしてその後に関羽に瞬殺される。バックボーンの積み重ねがキャラクターに深みを与えていると思うんです。
――『三国志』の中でも特に関羽は人気がありますが、理由をどう考えられますか?
今では神様として祀られているくらい、関羽は人気のあるキャラクターですよね。原作の『三国志演義』の作品全体から、関羽アゲのオーラを感じます。
関羽は、正義に忠実。正々堂々というところがあって、権謀術数を張り巡らし裏切り者だらけの『三国志』の中でも、関羽はそういうことはしないんですよ。
貧乏でなにも持たない劉備に忠義を誓い、暴れる張飛を止め、強い武将を何人も瞬殺し、待遇がいい魏の誘いを蹴って劉備の元に帰ってくる…。その積み重ねが、関羽の凄さを作っているんですね。
見た目も、関羽といえば髭、大きくて髭といえば関羽みたいな確立したイメージがあって、他のキャラクターとちがって、落ち着きが出ています。
――人徳者であるというのが大きいですね。
部下である周倉と王甫との関係がいいですよね。関羽の死を知ってふたりとも殉死を選ぶほどの忠義があります。桃園の誓いで劉備・張飛と三兄弟になっても、兄弟とは別に忠誠心の強い部下を従えているのは人徳だなと思います。張飛なんて、部下に裏切られてますからね。
――こうしてみると、関羽が主人公でもいいじゃないかと思うくらいの完璧さですね。
その結果、関羽じゃ無いキャラクターがやったら怒られることも、関羽がしたらまるで良い行いみたいになることもありますよね。
関羽を語る上で欠かすことの出来ない「千里行」も、忠義を誓った兄者・劉備の元に帰るという、いい話だとは思うんですが、関羽がコミュ障でさえなかったら、平和裏に解決できたはずなのに、すぐ暴力に訴える。これが張飛だったら暴力性を表す話になったでしょう。
――関羽も晩年はちょっと豪胆さが目立ってきます
特に荊州で留守番するようになってからは、なんというか楽しいですよね。孫権を犬ころ呼ばわり、于禁のことも犬ころよばわり。すぐ相手を「犬ころ」っていうんですよ。
「わしはな、呉の正子など犬ころ程度にしかみておらん、犬ころにトラの娘はやれん」
普通、外交の使者にそんなこといえないですよね。豪胆にもほどがある。
「それでもあの関羽が言うんなら、そうなんだろうな。犬ころなんだろうな呉は」そういう説得力がありますよね?
――そこまで言ってもなぜまだ人格者として敬われているのはなぜでしょうか。
犬ころとか言っている以上に、敵味方分け隔てなく公正明大に振る舞っているからの人気だと思いますね。恩義のある曹操を見逃したこともありますし、黄忠やホウ徳とバトルしたときも正々堂々とした振る舞いでした。関羽は恩は絶対に返す。 「恩義」「忠義」「公正明大」…これらは関羽を語る上で欠かせないものですよね。
――原さんのなかで関羽の名シーンを教えてください。
やはりこれは外せないですよね。言葉の強さ、絵の強さが際立っています。
あとは、やっぱり犬ころのシーンも好きなんですよね。そんな悪口言うの?と思いますよね。「留守まかされてるのに、そんなこといっちゃう?」
あまりフィーチャーされていないですけど、これもまた関羽の一面ですからね。
他には顔良とか華雄を瞬殺シリーズがいいですね。敵武将が強くて困ったら、とりあえず関羽を呼ぼうという流れは大好きですね。困った時の関羽頼み。
関羽に「なんとかしてくれ」と頼むと、シュッと殺して帰っていく。単純に強くていいですね。呂布とも違って、顔良や文醜といったビッグネームを殺しているのも「関羽つえー」の一因だと思います。
――戦闘以外で関羽の魅力がわかるシーンを教えてください
細かいことなんですけど、寝言がムーッムーッとなっているのが可愛いです。横山先生の擬音のセンスは抜きん出ていますよね。この擬音を選ぶ横山先生は天才だと思います。豪傑の寝息に、普通はムーッムーッを選ばないですよ。
――豪傑らしからぬ可愛さですね!他にも意外な一面はありますか
あと、曹操が死ぬときに、今まで対峙してきた人が夢枕にたつシーンがあって、その中に関羽が混ざっているんです。「お前たちの間には友情があったんじゃないのか?」って疑問が出てくるのが好きですよ。
曹操は関羽を懇ろに弔ったりもして、お互いに友情を確かめていたんですよ。なのに今わの際にうなされるってことは、それだけ曹操も関羽を恐れていたんですよね。
あの名シーン、「げえっ関羽」にもつながりますよね。あの曹操が「げえ」とうなるほどびびっているから、死ぬ前にも夢にでてきてしまう。どれだけ仲良くなっても、やっぱり怖い。
――関羽と曹操の関係は、三兄弟とも違った面白さがありますよね。
曹操とのイチャつきは、異常な程ですよね。「おう曹操様」「おう関羽か」ってなんだかこなれた関係が出来てるんです。張遼には「まるで美しい女子に恋をなされるほどの情熱だ」といわれています。
それくらい恋い焦がれていたから、敵に回った時に恐怖があったのもあったかもしれない。
――義兄弟との関係ではどうでしょうか
意外と、関羽が劉備を疑うこともありますよね。直後に「そうじゃなかった」ってなりますけど。張飛との関係で好きなのは、劉備が曹操に睨まれないようにマヌケを装って畑仕事しているシーンですね。そんな劉備をみて、張飛が「陽気のせいで少し頭がおかしくなったんじゃねえのか」と暴言を吐くんですが、関羽が「そりゃ少し言い過ぎじゃないのか」ってすごくいい顔で諌めるんです。
劉表のところにいた時に「久しぶりに戦える」とはしゃぐ張飛をみる関羽の表情も好きです。張飛に対しては完全に保護者の目線、いい兄貴なんですよ。
――厳格な面、愛情深い面、ふたつの顔をもっているんですね。
そんな父性と母性に満ちた器の大きさが、関羽の大きな魅力だと思います。
原寅彦
好きが講じて企画した『三国志』LINEスタンプが大ヒットし、webを中心に大きな話題となる。三国志関連の著作として『待てあわてるなこれは孔明の罠だ』『超意訳 三国志』がある
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