<あらすじ>良心の作家・山本おさむが描いた障害児たちの高校野球。障害を乗り越えて野球に青春をぶつける姿を、深い理解と愛情で綴った感動巨編。手話の普及に貢献した作品。
<書店員のおすすめコメント>今年(2018年)は、全国高等学校野球選手権…夏の甲子園が100回を迎える記念大会。『遥かなる甲子園』。好きな漫画を問われて、一時期この書名をうらめしいと思っていました。それは、書名を聞いた者が、安易に「青空と汗と白球」という紋切り型にイメージしてしまうからです。違うんだ!! それは、この漫画で描かれているのは、球児たちが通う、福里ろう学校に硬式野球部を作って甲子園を目指すという、甲子園出場というゴールどころか、まずはスタート地点に立つとこらから始める途方もないドラマだから。ノンフィクション作品を基に創作したこの漫画には、沖縄の米軍基地が原因となって聴覚障害を持つ子供たちを通して、私たちの社会がいかに矛盾と差別に満ちているかも浮き彫りにしています。甲子園大会を主催する高校野球連盟は規約を盾に福里ろう学校の加入を容易に認めませんが、果たして…。球児たちのキセキをご覧ください。
<あらすじ>盤上に魂を打つ!故・村山聖九段の圧倒的生涯!――棋界に、「次期名人この人あり」と謳われた天才棋士がいた。村山聖九段。昭和44年、広島県出身。幼いころより難病を患い、その限られた生を将棋だけに捧げ、29年の生涯を燃焼させた男。これは、そんな彼の魂の記録である……。孤高の天才棋士・村山聖の感動コミックドキュメント、第1巻登場!
<書店員のおすすめコメント>史上最年少記録を次々と塗り替える天才棋士・藤井聡太の活躍には目を見張るばかりです。『聖 -天才・羽生が恐れた男-』は今から、20年前に30歳を目前にして亡くなった、伝説の棋士・村山聖を描いた、事実を基にしたフィクションコミック。幼少にして腎臓の難病を患う村山は入院中に将棋を学び、その魅力に取りつかれ棋力を身につけます。そして、奨励会入門からプロデビューまで、同世代の羽生善治を超える異例のスピードで駆け上がります。それは、名人位という目標への道程に対して、自らの難病を照らし合わせて、時間との勝負でもあったのかもしれません。文字通り、わが身を削って生命を将棋に賭けた怒涛の対戦に胸を打たれます。そして、この作品の面白さは、主人公・中村の師匠森信雄との絆の深さや羽生との激戦の数々だけではなく、非凡な才能が集う中で上を目指す、あるいは生き残るための熾烈な戦いに挑む棋士たちの姿にあります。
<あらすじ>田崎夫婦に圭子という女の子が誕生した。しかし発育が悪く、言葉らしい言葉を喋らない圭子に不安を抱いた母親は、2歳3か月になった圭子を医者に連れていくことにする。そこで圭子には知的障害と聴覚障害があると診断され……(第1話)。▼4歳になった圭子は、両親と共にろう学校の幼稚部に通い始める。同じクラスに清という少年がいたのだが、ある日ぱったりと登校しなくなってしまった。そして一週間後、再び幼稚部に現れた清と母親は……(第2話)。▼自分でスプーンを使って食事ができるようになった圭子。一方、清の家では、清を施設にいれようという話が持ち上がる。しかし夕焼けを見ようとしている清を見た母親は、もっと清と話をしてみたいという気持ちになる。その夜、家族で話し合い、清を施設には入れないと宣言する(第3話)。
<書店員のおすすめコメント>生きる。この漫画ほど、人はなんのためにこの世に生まれ、何のために生きるのかを考えさせられる漫画を知りません。この『どんぐりの家』はろうあの重複障害を抱える人たちのための共同作業所「どんぐりの家」を開所するまでを描いた、事実を基にしたフィクション。ろうあ障害に加えて、知的障害や発達障害など、重複して抱えていきる人たちを対象にした施設です。読んでいて目を覆いたくなるほど、重苦しいシーンは少なくありません。自傷行為が行き過ぎて、わが目を失ってしまう少年や「なぜ 私にだけこんな子が生まれたんだろう」と涙を流す母親の姿などを目にすると、「普通」や「世間」、果ては生きるとは何なのだろうかと大いに考えさせられます。数々の絶望的なシーンが描かれていますが、その先に現われる希望に救われるのです。読者の生き方さえ変えてしまうかもしれない、パワーのある作品です。
<あらすじ>小学4年生の幸子の同級生・久保は家が貧乏なため、クラスメートからいじめを受けていた。さらに潔癖症であるクラス担任の野島先生からも嫌われていた。ある日のこと、給食着をきちんと洗濯せず、手が汚いまま配膳した久保は、野島に激しく叱られ、そのままクラスを飛び出してしまった。そんなことがあって久保は学校を欠席するようになってしまう。以前いじめられていた経験のある幸子は久保を心配して、配られたプリントと給食のパンを届けるということで、久保の様子を見にいく。学校に出てくるようにすすめる幸子に対して久保は、誰も待っていない学校になんて行かない、と言い出す。しかし「わ…私が……待っとる…」という幸子の言葉に、久保のかたくなな態度はゆっくりと変化していくのだった(第1話)。●その他の登場人物/坂田喜市(工場で働く旋盤工)、ひふみ(理髪店で働く女の子)
<書店員のおすすめコメント>つらい物語。貧しさゆえに友達や先生から差別される子供を描いた第1話は、読み進めるごとにつらさが積み重なります。しかし、終盤に差し込んでくる光の眩さに心救われます。短編集『オーロラの街』に描かれているのは、みな貧しくて悲しい宿命を背負いながらも必死に生きる市井の人々。必死に生きた先には、カタルシスが押し寄せます。こんな人生なら死んだほうがましと何度も思いながら、貧困にあえぎ女手一つで男の子二人を育てた老婆がつぶやきます。「頑張って頑張って生きてみたら救われとった」。そして、最終話に描かれた大水害に巻き込まれた家族の物語には、強く心打たれます。「この世の醜いもの みすぼらしいものの なかに静かに身を置き」で始まる、亡くなった主人のメッセージを目にしたとたん、心の中で涙が止めどなく溢れました。
<あらすじ>不便ではあるけれど、美味しい空気、さわやかな風、人々のあたたかさ、濃密になっていく家族のつながり。幸福なはずの田舎暮らしが突如と破れた!3.11福島原発事故。山本家の避難、帰還、怒り、狼狽、絆…。細密な筆致の中に満腔の怒りを込めて描く!
<書店員のおすすめコメント>この『今日もいい天気』は著者・山本おさむの田舎暮らしを描き始めたのがスタート。しかし、2011年の東日本大震災を機に、著者をとりまく状況は一変。なにしろ、その田舎は福島県の県南に位置する天栄村、震災による東京電力原子力発電所の事故により、暮らしの影響を赤裸々に描いたのが「原発事故編」と「原発訴訟編&コタと父ちゃん編」。当時、世界を震撼させた原発事故のさなか埼玉の仕事場と福島との間を、夫人と飼い犬コタの家族がそれこそ右往左往して、錯綜する情報に振り回される様子が子細に描かれています。ガイガーカウンターを購入して、家の内外の放射線量を調べるシーンも登場し、安住の地として住み着いた東北のこの地でのまさかの事態に悔しがります。貴重な記録としても後世に残したい漫画です。
<あらすじ>▼第1話/母▼第2話/思い描く▼第3話/日本語▼第4話/飛行機▼第5話/鉛筆▼第6話/相川先生▼第7話/荒城の月●主な登場人物/陳 昌鉉(後の名バイオリン職人。幼少の頃はひ弱だったが、何でも器用に作り出す少年)、大善(昌鉉の母。息子を何よりも愛する人)●あらすじ/「東洋のストラディヴァリウス」と称されるバイオリンを、たった一人で作り上げた男・陳 昌鉉。1929年、彼は当時日本の支配下にあった朝鮮半島で産声をあげた。母・大善にとっては、十年待ち望んでやっと生まれた子供だったが、母乳が出ないため、昌鉉は栄養失調でやせ細っていった。思い悩んだ母は、山を越えて隣村へ“もらい乳”に行くが…(第1話)。●本巻の特徴/日本統治下の朝鮮半島で、母の愛に守られて伸びやかに育つ昌鉉少年。やがて、人生を左右することになる相川先生との出会いが…。●その他の登場人物/相川先生(昌鉉の家に下宿している日本人教師。昌鉉の担任)、成哲(何かと昌鉉につっかかる近所の悪ガキ)
<書店員のおすすめコメント>「東洋のストラディヴァリウス」と呼ばれるに至った陳昌鉉の物語。日韓併合下の朝鮮半島に生を受けた陳の激動の半生とバイオリン作りに注ぎ込んだ並々ならぬ情熱が、鮮烈に描かれています。最愛の母と別れて日本に渡ってからの陳は、戦後の日韓の国交断絶や貧困と在日ゆえに受ける数々の差別といった逆境の中でも、決して希望を失うことはありません。その力強い生き方に惹きつけられます。陳の半生は少年時代に出会った相川教師からの影響が大きかったようです。相川を通じて見出したバイオリンの魅力。「バイオリンには不思議がいっぱい詰まってる…」、少年時代の心に種子として刻まれた陳のバイオリンに対しての熱い想いは、最終章に感動的な大輪となって花開きます。
<あらすじ>新潟県N市N中を卒業して東京近郊に住む15名程の者が、5年に一度都内の割烹に集まって小さな同窓会を開いている。20年ぶり……というよりは中学を卒業して初めて同窓会にでた浦山は、同じクラスの早瀬直子と再開して…!?
<書店員のおすすめコメント>久しぶりの故郷の同窓会は、気持ちが高揚するもの。昔にタイムスリップすらからでしょうか。『コキーユ』に登場するサラリーマン浦山と早瀬直子は、20年ぶりに同窓会で再会します。そして、二人の間には中学校の卒業式の日に、ちょっとしたアクシデントで伝えられるべきメッセージが、伝えられていなかったことが判明します。それを20年ぶりに確認した浦山と早瀬の物語が描かれています。二人は、お互いの日常がガラガラと音を立てて崩れるような衝動的な行動を取るのか、あるいはその想いを心の中だけにそっとしまい込んでしまうのか、読み進めると思わぬ展開が待ち受けていました。作中に描かれた布石の言葉、人生は「そのほとんどを 自分の意志とは関係なく、否応なく課せられるのだ」を受けたような衝撃的なシーンでした。薄暮の中の一瞬の煌き、そんな余韻が楽しめました。
<あらすじ>実力派・山本おさむ氏が太宰治の短編を、渾身の筆致で漫画化! おとぎ話を男女関係になぞらえて解釈した『カチカチ山(お伽草子より)』、老婦人が、若くして亡くなった妹との不思議な思い出を語る『葉桜と魔笛』、師・井伏鱒二に紹介された女性と結婚するまでの前後を綴った『富嶽百景』、太宰が故郷・青森を巡り、幼少の自分に強い影響を与えたある女性との再会までを描く『津軽』… 以上4作品が時代を超えた夢のコラボでよみがえります! 山本氏自身による作品解説も収録し、原作と併せて読み比べれば、より、太宰治への理解が深まること請け合いです! 太宰ファンも、太宰作品を読まれたことがない方も是非ご一読ください!
<書店員のおすすめコメント>太宰治作品を山本おさむがコミカライズした夢のようなコラボ短編集。表題作「津軽」は太宰が出版社からの依頼で、生まれ故郷の津軽を旅するという、紀行文タッチの自叙伝。久しぶりにあった旧友と酌み交わす酒の旨さや恐ろしいばかりに打ち寄せる波濤、寒村、そして大地主の実家等など太宰が訪ね歩いた当時の津軽が現出しているかのようです。旅の後半、太宰はある女性に逢いたくて訪ね歩きます。念願かなって、再開を果たした二人のシーンが私は好きです。そこには、後の太宰治という人間を形作ったルーツを思わせる描写で満たされているからです。太宰治を知っていても知らなくても、十二分に楽しめる作品です。
<あらすじ>ストーリーマンガ家・山本おさむが描く、80年代青春バイブル。友情、恋愛、進学、死など、十代後半の抱える様々な悩みにぶつかり、成長していく主人公と、その周りの人々のストーリー。
<書店員のおすすめコメント>1980年代の青春漫画にして、下山・風間の高校生カップルと同級生達の恋愛、友情、進学等を通して描かれた成長漫画です。ラブコメ全盛時代に描かれた作品で、連載が青年誌だったこともあり、大人びたシーンが少なからず登場。田舎の高校生の私には、ライブハウスや映画の試写会その他のすべてが、共感というよりも羨望としてこの漫画を目にした記憶があります。今回、レビューを書くにあたって読み直すと、さすがに時代を感じさせられました。アントニオ猪木とタイガージエット・シンの一戦やベータ・ビデオが主人公たちの話題に上がるのですが、当時の時代の空気が懐かしい。みずみずしい青春ストーリーですが、友人の自死を通して、「生きてれば何とかなるんじゃないのか!?」と主人公が独白、青春特有の陰影も浮き彫りに出ています。このシーンこそ、後の山本おさむ一連の作品によく目にする、「絶望と救済」の原点なのかもしれません。
<あらすじ>ひと仕事を終え、知り合いのそば店に入った稜。そこでは客が「手打ちでなければ、うまいそばは作れない」と主張し、製麺機を使うその店を批判していた。それならと、稜はその客がすすめる店について行く。近所で評判だという手打ち店のそばを一口食べて、稜が発した一言とは…!?車にそば道具を積んで西へ東へ気ままな放浪の日々…のはずが行く先々で難問に巻き込まれ…!?読めば、そばが食べたくなる!本格そば漫画、発進!!
<書店員のおすすめコメント>グルメ漫画花盛りの最中、テーマが細分化されるのは必然のようです。『そばもん』はタイトルからして分かる通り、そばに魅了された人々が登場。主人公の八代は「そば行脚」と称して、そば打ち道具一式を持って全国を訪ね歩きます。物語は土地の人々との出会いと旨いそばとは何なのかをテーマにして描かれます。全編通して、名人から江戸そばの技術を伝授されたという八代のそばに対しての愛情がひしひしと伝わってきて、お腹がすくことこの上ないのです。