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福田素子漫画家デビュー30周年記念特集 漫画を描くこと、漫画そのものを好きでい続ける

ここでは、福田素子先生が手掛けた各作品について、本人コメントとともに、各作品を振り返っていきます。構想時に思っていたことが、連載を続けるなかでどのように変わっていったのか、また、読者の反応をどのように受け止めたか、率直に伺いました。

『空への手紙』

作品制作のきっかけ

当時の担当さんからの企画でした。まだ病院内学級についてあまり認知されていない頃。一枚の新聞記事の切り抜きを見せてもらい、「やりませんか?」と言われたことがきっかけです。取材や勉強がかなり必要だと思いましたし、「できるのか?」という気持ちももちろんありましたが、興味深いと思った気持ちの方が勝りました。当初は2~3回の短期連載の予定でした。

こだわりの場面

「病弱児になぜ教育が必要なのですか?」──これは現場で実際に親御さんに投げられたという言葉でした。取材で聞いてとてもショックだったことを覚えています。「命が一番の状況の子どもに勉強が必要なのか?」というのです。その答えを主人公である空先生と一緒に、わたしたちは考え始めました。それが『空への手紙』のスタートで、ベースになっていると思います。

忘れられない出来事

取材に行った先の先生が最初に大変厳しい様子だったのですが、事前にこちらで分かることを調べてそこで出た疑問などを準備して質問していたら「よく調べてきたね。質問もおもしろい」と言って満面の笑顔になり、そこからは本当によく教えていただきました。

いま振り返って思うこと

かなり無鉄砲だったと思います。作中で主人公の立場で考え思いついたことを、実際の現場でやっていいことなのかわからず、監修の先生に投げて「おもしろいけど、これはダメだね。でもこっちならありかもしれない」と教わるような。取材することについて、このときに学んだことは多いです。

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『きりんが丘のココロ屋』

作品制作のきっかけ

この作品は休刊や出版社が無くなったりなどで雑誌を3つほど引っ越ししています。一番最初は育児漫画の「ママンガ」(スコラ刊)という雑誌だったのでお母さんが読んでホッとしてくれるようにと思いました。育児中はけっこう孤独を感じることもあったりで、相談する余裕もないことが多いので、母ではなく「自分」に戻れる時間を持ってもらえたらなと。

こだわりの場面

ココロ屋の経済事情から、緑さんがこっそり友人の病院でバイトしたりしていますが、あるときに、緑さんが不在のココロ屋にお客様さんたちがパタパタ来て「お休みなんだ」となって、そのまま初めてあった人同士がココロ屋の庭でココロ屋を開いて緑さんのことを話したり。そのエピソードが好きです。もらった優しさが伝染していくようなのっていいなと思います。

忘れられない出来事

最初の連載雑誌が休刊になったときは、同じ出版社のなかで連載の引っ越しができましたが、出版社がなくなったときはこれでもう描けないのか……と思いました。ところが別の出版社さんで『きりんが丘のココロ屋』を描かせてもらえることになって、それは関わった編集さんのおかげなんですが、そのベースは支持してくれていた読者さんがいたということで、そのことに驚きと感謝でした。

いま振り返って思うこと

ゆっくりとした空気感の地味な作品ですが、思いのほか支持していただきました。自分自身が育児と家事と仕事とでリアルタイムに感じたことを描いていった気がします。なので読み返すと当時の自分と対面している感じです。そしてブログなどにも描いたのですが、緑さんのモデルはうちの夫だったりします(笑)。

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『愛情物語』

作品制作のきっかけ

はじめての4コマ誌での連載でしたので、それまでの読者さんとも違うし、基本のページ数も違うということで描き方も絵柄もかなり変えました。読んだ方がほんわかな気持ちになれるようにと、それを目指して描こうと決めました。

こだわりの場面

連載初期の太助さんとおじいちゃんが屋根の上で会話するシーンが好きです。あと連載ラストのお話が大好きなのですが、これは電子書籍化に追いついていないので急ぎます(笑)。

忘れられない出来事

4コマ誌で連載していたのですが、リニューアルするのでアンケートはいいけど最終回に……と言われました。当時の読者さんは男性が多かったのですが、その後、女性誌で再録していただいたときに想像以上に反応が良くて、なんと女性誌向けにシリーズを再開させていただくことになったことが、驚きと喜びでいっぱいでした。

いま振り返って思うこと

短いページ数で伝えたいことを、ということを考える作品になったなと思います。そして、本作では別ジャンルの読者さんに広がったことを感じた作品でもありました。ただ連載終了後、女性誌で再開したことを、当時の4コマ誌時代の読者さんは知ることがなかっただろうなぁということが残念ではありました。

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『コドモのお医者』

作品制作のきっかけ

『コドモのお医者』は編集部から雑誌カラーのリニューアルのために「短めのページで1話読み切りで医療ものを」ということでお話を作りました。当初の設定では主人公のせつ子と後に結婚することになる順平さんは恋人設定でしたが、連載が始まってすぐにページが短いことと、病気についてページを割くことで、順平さんは登場したのに恋愛に使うページはことごとく編集さんにカットされました(苦笑)。でも、連載途中で編集さんが変わったことで、「恋人設定」が復活しました。

こだわりの場面

主人公のせつ子が医師を目指したエピソード、「小さな約束」が好きです。

忘れられない出来事

『コドモのお医者』が雑誌休刊で連載終了となり、再開した『新・コドモのお医者』もいきなりの雑誌休刊だったため、どちらも本当の意味での最終回を迎えていないことが少しだけ残念です。読み切り連載ですが、最終回ではないので。

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『橘屋繁盛記』

作品制作のきっかけ

デビューして初めていただいた前後編の読み切りが好評だったため、連載になったという作品です。連載になり舞台となった下町のオヤジたちを描きながら、子どもの頃から自分たちを見てくれていた「大人」を作中で蘇らせていったところのある作品です。痛いけれど痛くない「バカヤロウ」や「げんこつ」とか。それが成り立つのは何でだったんだろ……とか(笑)。

こだわりの場面

番外編的に描くことになった、オヤジとかほるさんの出逢いのエピソードが大好きです。「おヨメにおいで~橘屋純情期」──実はこれ、前後編を描いた後に飛び込んだ“代原”のお仕事で描いたものです。スピンオフ的に描いたら、それが好評で、連載化の決め手になった作品だったりします。

忘れられない出来事

『橘屋繁盛記』の連載途中で、当時の編集長から別の企画連載を依頼され、それが終わったら再開するという話だったのですが、新企画後半で編集長が交代。新しい編集長に引き継ぎされず、『橘屋繁盛記』は最終回ナシで終わったのでした。その後ずいぶん間を開けて、別の雑誌で『新・橘屋繁盛記』として再開になるのですが……。

いま振り返って思うこと

当時は連載終了を残念に思いましたが、そのあとに新規で始めた連載が『コドモのお医者』だったので、『橘屋繁盛記』が終わらなければ生まれなかったのかなと思うと、良いも悪いも過ぎてみないと分からないなぁ、と(笑)。

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『母体保護法指定医 森下光子』

作品制作のきっかけ

女性外来の作品は『イブたちの白い月』をスタートにたくさん描いてきました。この作品はその進化版というか『イブたちの白い月』と『コドモのお医者』をミックスしたような感じでいこうと思いました。

こだわりの場面

主人公の光子が彼氏にマッサージしてもらうところや、彼氏に自分の体調などを説明するところが好きです。それを受け止める彼氏の反応も。
イントロの“「おんななんてつまんない」 そんな言葉はゴミ箱へ 私は私が大好きだからー”というこのフレーズは大好きです。

忘れられない出来事

この作品の監修をお願いするために、取材の申し込みをした先の先生が、うちの漫画のファンだと言ってくださって、驚きでした(笑)。

いま振り返って思うこと

「女性が自分の身体についてもっと知ることができて、快適な自分を手に入れられたらいいのに」という思いで描いたなという記憶があります。そして、それはいまもまだ思っていることだったりします。

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『三十路まえのアリス』

作品制作のきっかけ

「もしあのとき○○だったら」という言葉をよく聞くことがあって、それは大抵は現状に不満があったりして出る言葉のように思えたので、改めてそのことを考えたことがありました。
自分がもし……と。そうして思うのは自分が自分であるなら、また同じときに遡っても同じ選択をするのじゃないかな、と。違う選択をした自分がいたとしたら、それは「いまここにいる自分」と違う人じゃないだろうか、と。

こだわりの場面

入れ替わった自分が、別の人間だということに気付いてもらえるシーン。別の選択をした自分を想ってくれる相手には、その違いが分かっていたというところ。選択が違う時点で、違う自分だというわけです。

忘れられない出来事

当時の編集さんにプロットを出してGOをいただいたのですが、ネームにして提出したときに「こんな風におもしろくできるとおもわなかった」と言われたときは「やったー!」と思いました。

いま振り返って思うこと

この作品集に収録している作品全てに通じているのは「自分で選ぶ」ということです。「三十路まえのアリス」を描いた頃は、思いがけないことが立て続けに起きていた頃だったと思います。そんなときに、自問自答した答えを描いたような気がします。

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©福田素子/motochan.net

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