男だって、泣いていいんだよ! 転んで泣く小さな男の子をみて、「泣くな、男だろ」と小声で呟く。そして、立ち上り駆け寄ってきた子を、「よしよし、偉いぞ」と頭を撫でてやる。強くあれ、雄々しくあれかしと、日本の男の子は育てられてきた。いつからか。日本の古典を紐解くと、英雄豪傑ほど派手に泣いている。「男泣き」という言葉もある。そして、「なく」ことを示す字の多いこと多いこと。啼、泣、号、呱、慟、啾、喞、これらはすべて「なく」ことを著わした字である。悲しくて泣く、大声を出して泣く、子供が泣く、遠くまで聞こえるほど泣く、声が出ず涙を流して泣く、さらにいえば,涕泣、慟哭、嗚咽、泣血、哀慟、歔欷、さめざめと泣く、めそめそと泣く……。本書は、古典に見える泣く男の姿百態を辿りつつ、「男泣き」の実相に迫ろうという試みである。材は主として、記紀、万葉、古今の歌集や、伊勢、平家、太平記など文学史書の類から採った。トップバッターは須佐之男命! そして倭建命、大伴家持ときて、やや色好みの涙、在原業平、源頼政、泣きそうもない木曽義仲を経由して、楠木正成と豊臣秀吉、最後は吉田松陰でしめる。もう、全編泣いてばかり。そう、男だって、いや、男だからこそ泣いていいんだよ、という本なのである。
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