私本太平記(三)

私本太平記(三)

吉川英治

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後醍醐の切なるご催促に、楠木正成は重い腰をもち上げた。水分(みくまり)の館(たち)から一族500人の運命を賭けて――。すでに主上は笠置落ちの御身であった。また正成も、2万の大軍が取り囲む赤坂城に孤立し、早くも前途は多難。一方、正成とはおよそ対照的なばさら大名・佐々木道誉は幽閉の後醍醐に近づき、美姫といばらの鞭で帝の御心を自由に操縦しようとする。かかる魔像こそ、本書の象徴といえよう。

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